Appleも200人超を削減と報道 米国のレイオフはなぜ即日で実行できるのか
2026年8月29日

米国のテック業界で、レイオフ(解雇を伴う人員削減)が広がり続けています。Appleが音声アシスタント「Siri」やヘッドセット「Vision Pro」の担当部門などから200人を超える人員を削減していると、Bloombergの報道をもとにTechCrunchが2026年8月21日に伝えました。
レイオフ追跡サイトlayoffs.fyiの集計では、世界のテック業界の2026年の削減人数は8月28日時点で127,530人と、2025年通年の122,606人をすでに上回っています。
米国では、解雇が通知の当日に実行されるケースがあります。一方で、今回のApple削減のうちカリフォルニア州の147人分は、法律に基づく州への事前届出がすでに行われており、雇用は10月19日に終了する予定です。即日の解雇と、事前に予告される解雇——この2つが併存する米国の雇用制度の仕組みを解説します。
原則は「随意雇用」——契約で定めなければ理由は不要
米国の雇用の大原則は「at-will employment(随意雇用)」です。全米州議会議連(NCSL)はこれを、雇用契約などで変更できる推定原則(デフォルト・ルール)と説明しています。契約や労働協約で別段の定めがなければ、雇用主は原則として理由を示さずに雇用関係を終了でき、労働者の側もいつでも自由に退職できます。
ただし無制限ではなく、差別や報復など法律で禁止された理由による解雇は違法です。多くの州では、公序に反する解雇の制限など判例法上の例外も認められています。そのうえでモンタナ州は、1987年の不当解雇法により、試用期間を終えた従業員の解雇に原則として「正当な理由」を要求する州法を持つ唯一の州です。
また、日本の労働基準法のように、原則30日前の解雇予告を求める一般的な連邦制度もありません。
大量レイオフなどに働くブレーキ——WARN法と退職パッケージ
随意雇用の原則のもとでは、次に述べる大量レイオフ時の事前通知義務の対象とならない個別の解雇や小規模な削減であれば、雇用契約やその他の法的制約がない限り、通知の当日に雇用関係を終了できる場合があります。冒頭で紹介した「即日の解雇」は、この仕組みによるものです。
一方で、大量レイオフや一定規模の事業所閉鎖などに働くブレーキがあります。連邦法のWARN法(労働者調整・再訓練通知法)です。連邦規則によると、一定の算定基準で従業員100人以上となる企業では、大量レイオフの場合、単一の事業所で30日間に「50人以上かつ在籍者の33%以上」(500人以上の場合は割合を問わない)の雇用を失わせると、原則として60日前の通知が義務づけられます。事業所閉鎖については別の基準があり、50人以上の雇用喪失が生じる場合などが対象になります。カリフォルニア州の州法(Cal-WARN)はさらに広く、75人以上の事業所では、50人以上のレイオフであれば割合の要件なしに通知義務が生じます。
実際、Appleは今回の削減のうちカリフォルニア州の3拠点147人分(Cupertino本社79人、Sunnyvaleの2拠点で68人)について、8月20日付で州当局にWARN届出を行っています。60日の通知期間を経て、雇用は2026年10月19日に終了する予定です。
では、60日前の通知が義務なのに、なぜ米国のレイオフは「即日」に見えるのでしょうか。「即日」に見える代表的なやり方は2つあります。
1つ目は、在籍だけを60日間残すやり方です。対象者は通知の当日から業務を外れ、社内システムへのアクセスも止められますが、雇用関係と給与は終了日まで続きます。従業員の体感は「即日」でも、法律上は60日前の通知を満たしている形です。2023年1月に約12,000人を削減したGoogleも、米国の対象者には通知期間(最低60日)分の給与を支払うと説明していました。
2つ目は、60日を待たずに雇用そのものを終え、その期間に相当する賃金や手当を支払うやり方です。こちらはWARN法が認めた正式な方法ではなく、必要な通知をしなければ形式的には法律違反になります。それでも成り立つのは、違反した企業が従業員に支払う賠償が、最大60日分の賃金と、医療保険などの福利厚生の分とされ、先に自主的に支払った分がそこから差し引かれ得るためだと米労働省は説明しています。60日分を先に払えば、あとから支払うものはほとんど残らない場合があるのです。
2024年4月のTeslaの大規模削減では、通知メールは深夜に個人のメールアドレスへ届いて即時の削減を伝えるもので、解雇を知らないまま出社した工場従業員が入館バッジの無効化でそれを知った事例もあったと、従業員への取材をもとにBusiness Insiderが報じています。同社は州当局へのWARN届出も行っていました。こうした即日のアクセス遮断は法律の要請ではなく、情報管理などの観点から企業が選んでいる運用です。
なお、これは連邦WARN法の仕組みです。連邦法では米労働省に違反を取り締まる権限はなく、従業員や労働組合などが裁判で権利を行使します。一方、カリフォルニア州のCal-WARNでは、州のLabor Commissioner(労働コミッショナー)が違反を調査・執行する権限を持っています。
退職一時金(severance)については、公正労働基準法(FLSA)に支払いを義務づける定めはなく、雇用主と従業員の間の合意事項だと米労働省が明記しています。レイオフ時の手厚い退職パッケージは、法律ではなく企業の判断と交渉の産物です。医療保険は、COBRAと呼ばれる制度により、従業員20人以上の企業の団体保険を離職後も原則18か月まで継続できますが、保険料は最大102%まで自己負担になります。
日本の解雇規制と何が違うのか
日本では、労働契約法16条が「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。経営上の理由による整理解雇では、人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性という4つの要素を裁判所が総合的に考慮する判例法理が確立しています(法律の条文ではなく裁判例の積み重ねによるルールです)。加えて労働基準法20条により、少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。
つまり、米国では個別の解雇は随意雇用が出発点で即日の雇用終了も可能であり、大量レイオフの場合も求められるのは通知などの手続きで、解雇理由の妥当性までは問われません(差別など法律で禁止された理由を除きます)。これに対し日本では、解雇そのものの合理性・相当性が裁判所で問われます。米国のテック企業が短期間に数千人規模の削減を実行できる背景には、この制度の違いがあります。
2026年の削減の広がりの背景には、AIインフラへの投資拡大と組織再編があります。この構図は2026年の大量解雇の背景を解説した記事 で詳しく扱っています。Appleの今回の削減も、AI分野へ経営資源を移す再編の一環と報じられています。
今後の注目点
Appleは削減の事実をBloombergに認めており、カリフォルニア州の147人分についてはWARN届出も確認されています。一方、200人超という全体の規模や部門別の詳しい内訳は、引き続きBloombergが関係者の話として報じた数字で、公式には発表されていません。
今後の公式な開示や追加報道が確認のポイントになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を提供するものではありません。個別の事案については、適切な資格を有する専門家にご相談ください。
情報源
米労働省 – Continuation of Health Coverage (COBRA)
米労働省 – Worker Adjustment and Retraining Notification (WARN) Act
eCFR – 20 CFR Part 639 (WARN実施規則)
カリフォルニア州EDD – WARN Information
NCSL – At-Will Employment – Overview
米労働省 – WARN Act Frequently Asked Questions(通知に代わる支払いの扱い)
厚生労働省 – 震災に伴う解雇について(整理解雇の4要素の列挙)
Google – A difficult decision to set us up for the future(2023年1月のCEOメモ)
The Press Democrat – Apple eliminates more than 100 South Bay jobs at three sites, including HQ
layoffs.fyi – 2026 Tech Layoffs
layoffs.fyi – 2025 Tech Layoffs
Bloomberg – Apple Cuts Jobs in Siri, Vision Pro Immersive Video and Gaming Teams
TechCrunch – Apple is reportedly cutting hundreds of jobs from Siri, Vision Pro teams
Forbes – Tesla Mass Layoffs Will Include Over 6,000 In Texas And California(テキサス・カリフォルニア両州へのWARN届出)
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