アメリカで解雇された翌日に何が起きるのか|日本人が知らないアメリカの常識
2026年9月3日

この記事の要点
- アメリカで解雇されたあとの失業保険は州が運営する制度で、多くの州で給付は最長26週間です。
- 連邦法は退職一時金を義務づけておらず、上乗せの退職一時金は権利放棄の合意書への署名と引き換えになることがあります。
- 従業員20人以上の会社などの医療保険は離職後も通常18か月続けられますが、保険料は通常、会社負担分も含めて本人が払います。
アメリカでは、解雇が通知の当日に実行されることがあります。退職金も失業保険も医療保険も、日本と同じ形では存在しません。解雇された翌日から、元社員の生活は何で支えられるのでしょうか。
代表的な仕組みとして、会社との「退職パッケージ」、州が運営する失業保険、会社の団体医療保険を自己負担で継続できるCOBRAの3つを取り上げます。いずれも、日本の退職金・雇用保険・健康保険とは前提が違います。
先に公開したアメリカの解雇制度を解説した記事を出発点に、日本人が知らないアメリカの常識を日本との違いから解説するシリーズを始めます。今回はその続きとして、解雇された翌日を支える仕組みを取り上げます。
この記事では、次の3つを順に見ていきます。
- 退職パッケージ:連邦法は退職一時金を義務づけず、州法・契約などで例外もある。「権利放棄の合意(waiver)」と引き換えになることがある
- 失業保険:州ごとの制度で、多くの州は最長26週間。日本の雇用保険との違い
- 医療保険:会社の保険を自己負担で続けるCOBRAと、日本の任意継続との違い
連邦法は退職一時金を義務づけない。「権利を放棄する合意書」と引き換えになることも
■ 連邦法は退職一時金を義務づけない。州法・契約などで例外も
米労働省は、退職一時金(severance pay)について、連邦法の公正労働基準法(FLSA)に支払いを求める定めはなく、雇用主と従業員の合意事項だと説明しています。ただし、州法や雇用契約、労働協約、会社の制度によって支払い義務が生じる場合があります。たとえばニュージャージー州のWARN法(労働者調整・再訓練通知法の州版)は、一定規模の大量解雇などについて、勤続1年につき1週間分の退職一時金を義務づけています。
■ 退職一時金がゼロでも、賃金や401(k)の自分の拠出分は別
こうした定めがない会社で個別に解雇された場合、退職一時金がゼロということもあり得ます。その場合でも、すでに働いた分の賃金など、会社に支払い義務があるものは別です。また、401(k)などの退職貯蓄制度では、自分の拠出分は常に本人に帰属します。会社の拠出分は、プランによっては勤続年数に応じて権利が確定する仕組みがあります。
最後の給与を支払う期限は連邦法では即日とは定められておらず、州によっては即日の支払いを求めます。未消化の有給休暇の買い取りも連邦法に定めはなく、会社との合意や州法などで決まります。
■ 日本では退職金制度を設ける一般的な法的義務はないが、調査対象企業の約75%に制度
日本でも退職金制度を設ける一般的な法的義務はありませんが、常用労働者30人以上の民営企業を対象とした厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業は74.9%です。
■ 退職一時金と引き換えに求められる「権利放棄の合意(waiver)」
米雇用機会均等委員会(EEOC)によると、会社は退職一時金などと引き換えに、雇用関係に関する一定の請求権を放棄する合意への署名を求めることが多くあります。こうした権利放棄は、英語で waiver(ウェーバー)と呼ばれます。
たとえば、会社が「上乗せの退職一時金を払う代わりに、この合意書に署名してほしい」と提示するケースです。合意書には、年齢・性別・人種・障害などを理由とする差別を含め、雇用関係に関する一定の請求権を放棄する条項が入ることがあります。この合意が法律上有効と認められる場合、署名時点までに起きた対象の出来事について、後から自ら訴訟を起こすことは原則できなくなります。
この例では、署名しなければ訴える権利は残りますが、放棄の対価として提示された上乗せの退職一時金は受け取れません。EEOCによると、合意が法律上有効と認められるには、会社が、社員がもともと受け取る権利のあるものとは別に、何かを上乗せして渡す必要があります。たとえば、州法や会社の制度によって未消化の有給休暇の買い取りを受ける権利がすでにある場合、その買い取り分は「上乗せ」には数えられません。
■ 署名しても残る重要な権利
ただし、署名してもすべての権利を放棄するわけではありません。とくに重要な点が2つあります。1つは、EEOC(雇用機会均等委員会)という雇用差別を取り締まる連邦機関に申し立てることや、その調査に協力することは、どのような合意でも妨げられないことです。申し立てる前に退職一時金を返すよう求められることもありません。
もう1つは、差別などに関する請求権について、署名後に起きる出来事まであらかじめ放棄することはできないことです。署名後に会社が元社員に報復した場合などは、あらためて請求できます。
■ 40歳以上が年齢差別の請求権を放棄する場合は、検討・撤回期間などの追加ルールがある
40歳以上の従業員が年齢差別の請求権を放棄する場合には、連邦法(OWBPA)の要件が加わります。主な要件は、検討期間が個別の合意なら少なくとも21日、集団を対象とする退職プログラムでは少なくとも45日あること、署名後に7日間の撤回期間があること、弁護士に相談するよう書面で助言することです。
権利放棄の合意に署名する場合としない場合の違いを表にまとめると、次のとおりです。
| 権利放棄(waiver)に署名する | 権利放棄(waiver)に署名しない | |
|---|---|---|
| 受け取るもの | 上乗せの退職一時金など(合意で決まる) | もともと受け取る権利があるものだけ |
| 失うもの | 署名時点までの対象の出来事について、自ら訴訟を起こす権利(合意が有効な場合) | なし |
| 残る権利 | EEOCへの申立て・調査への協力、署名後の出来事についての請求 | 何も放棄しない(訴える権利もそのまま残る) |
| 40歳以上が年齢差別の請求権を放棄する場合の追加ルール | 検討期間21日以上(集団を対象とする退職プログラムは45日以上)、署名後7日間は撤回可 | — |
■ 実例:Googleの退職パッケージ
実際の水準は会社ごとに異なります。Googleは2023年1月の約12,000人の削減で、米国の対象者に通知期間(最低60日)分の給与に加え、16週分の給与を起点に勤続年数1年ごとに2週分を加算する退職一時金と、6か月分の医療保険を提供すると説明しました。
失業保険は州ごとの制度で、多くの州は最長26週間
■ アメリカの失業保険は州が運営し、多くの州で最長26週間
失業保険は、連邦法の指針のもとで各州が運営する、州と連邦の共同プログラムです。米労働省によると、受給の基本条件は、自分の責めによらない失業(通常は仕事がなくなったことによる離職)であることと、州が定める基準期間の就労・賃金要件を満たすことです。最初の給付までは通常2〜3週間かかります。
給付額は直近52週間の収入の一定割合で、州ごとに上限があります。多くの州で給付は最長26週間で、財源は大半の州で雇用主に課す税だけでまかなわれます。
■ カリフォルニア州の例:週40〜450ドル、待期は1週間
カリフォルニア州の場合、週の給付額は40〜450ドルです。1週間の無給の待期期間があり、原則として毎週の求職活動が求められ、2週間ごとの認定が必要です。
■ 日本の雇用保険:自己都合退職には「給付制限」があり、解雇なら原則ない
日本の雇用保険の基本手当は国の制度です。正当な理由なく自己都合で退職した場合は、7日間の待期期間に加えて、基本手当が支給されない「給付制限」の期間があります。この給付制限は、2025年4月1日以降の退職では原則1か月です。
一方、解雇(重大な自己責任によるものを除く)や倒産による離職は「特定受給資格者」に当たり、7日間の待期の後にこの給付制限はありません。所定給付日数は年齢と加入期間により90〜330日で、日額は原則として賃金日額の50〜80%、60〜64歳は45〜80%です。受給中は、原則として4週間に1回、ハローワークで失業していることの認定を受けます。
要点を表にまとめると、次のとおりです。
| アメリカ(カリフォルニア州) | 日本(雇用保険の基本手当) | |
|---|---|---|
| 運営 | 州(連邦法の指針のもと) | 国 |
| 解雇された場合の待期 | 1週間の無給の待期期間 | 7日間の待期。特定受給資格者は給付制限なし |
| 給付額 | 週40〜450ドル | 賃金日額の原則50〜80%(60〜64歳は45〜80%) |
| 期間 | 最長26週間 | 特定受給資格者は90〜330日 |
| 条件 | 原則として毎週の求職活動、2週間ごとの認定 | 原則として4週間に1回の失業認定 |
会社の医療保険を失った後のCOBRAと日本の任意継続
■ アメリカでは離職すると会社の医療保険を失うことがある
アメリカは、日本のように全国民が公的医療保険に加入する仕組みではありません。離職に伴って会社の団体医療保険を失うことがあり、終了する時期はプランによって異なります。
■ COBRAとは:会社の保険を通常18か月続けられる仕組み
連邦法のCOBRAは、原則として従業員20人以上の民間企業などの団体医療保険を、離職などの後も一定期間続けられる仕組みです。継続できるのは通常18か月で、障害認定など一定の場合には29か月、家族については一定の事由で36か月まで延びることがあります。加入を選ぶ期限は、保険が終わった日か通知を受け取った日の遅い方から60日です。
COBRA以外にも、医療保険マーケットプレイス(Marketplace)の保険や家族の勤務先のプランなどを選べる場合があります。
マーケットプレイスで自分で医療保険に入るときの保険料やプランの区分は、自営業者の医療保険の回で解説しています。
■ COBRAの保険料は、通常は会社負担分も含めて本人が払う
COBRAの保険料は、在職中に会社が負担していた分も含めた全額を、通常は本人が払います。水準は加入していたプランの費用で決まり、通常のCOBRA期間では上限がその102%です。会社が一部または全部を負担するのは、退職パッケージなどで会社が合意した場合に限られます。
■ 日本の任意継続(協会けんぽの例):保険料は在職時の約2倍になるが、計算に上限がある
日本では、退職後の健康保険に3つの選択肢があります。勤めていた健康保険をそのまま続ける「任意継続」、市区町村の国民健康保険、家族の健康保険の被扶養者になる方法です。
このうち任意継続を、中小企業の従業員が多く加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)を例に見ると、退職日の前日まで2か月以上の加入があれば、資格喪失日から20日以内の申請で2年間続けられます。保険料が在職時の約2倍になるのは、在職中に会社が半分を負担していた分も退職後は本人が払うためで、この点はCOBRAと同じです。ただし計算のもとになる標準報酬月額には32万円の上限があり、都道府県ごとの保険料率の違いなどによって2倍にならない場合もあります。
つまり日米とも、離職後は在職中より本人の保険料負担が増えるのが一般的です。協会けんぽの任意継続では保険料計算に使う標準報酬月額に上限がある一方、COBRAでは通常、加入していたプランの費用を基準に本人が負担します。また、日本には国民健康保険や家族の健康保険の被扶養者、アメリカには医療保険マーケットプレイスや家族の勤務先のプランなど、それぞれ別の選択肢があります。
要点を表にまとめると、次のとおりです。
| アメリカ(COBRA) | 日本(協会けんぽの任意継続) | |
|---|---|---|
| 続けられる期間 | 通常18か月(障害認定など一定の場合29か月、家族は一定の場合36か月) | 2年間 |
| 申し込みの期限 | 保険終了日か通知受領日の遅い方から60日 | 資格喪失日から20日以内 |
| 保険料 | 通常は本人が全額(上限はプラン費用の102%) | 在職時の約2倍(標準報酬月額の上限32万円) |
| 他の選択肢 | 医療保険マーケットプレイス、家族の勤務先のプラン | 国民健康保険、家族の被扶養者 |
なお、本記事の数値は2026年9月時点のものです。カリフォルニア州の週給付額の上限、日本の任意継続の保険料計算に用いる標準報酬月額の上限、雇用保険の給付制限期間は、いずれも法改正や年度の改定で変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言を提供するものではありません。個別の事案については、適切な資格を有する専門家にご相談ください。
情報源
米労働省 – Last Paycheck(最後の給与の支払期限)
米労働省 – Vacation Leave(休暇の賃金はFLSAの対象外)
米内国歳入庁(IRS) – Retirement Topics: Vesting(本人拠出分は常に100%既得)
ニュージャージー州労働局 – New Jersey WARN Act(N.J. Stat. 34:21-1 et seq.、2023年改正法文)
米労働省雇用訓練局 – State Unemployment Insurance Benefits
カリフォルニア州EDD – Unemployment Eligibility Requirements
カリフォルニア州EDD – 失業保険の給付水準と期間(週40〜450ドル・最長26週間)
米労働省 – Continuation of Health Coverage (COBRA)
米労働省 – An Employer’s Guide to Group Health Continuation Coverage Under COBRA
HealthCare.gov – If you lose job-based coverage
Google – A difficult decision to set us up for the future(2023年1月のCEOメモ)
厚生労働省 – 令和5年就労条件総合調査 調査の概要(調査対象)
ハローワーク – 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
連載「日本人が知らないアメリカの常識」の他の回
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