気候変動スタートアップビジネスと投資動向
▼ こんな方にオススメ
- 気候変動問題について興味がある方
- スタートアップや投資状況などに興味がある方
- 世界における最新の取組み状況と未来を知りたい方
▼ 登壇者
木村 将之氏 デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 COO / パートナー
トーマツベンチャーサポートを第2創業し、200名体制世界5拠点への拡大し、数多くのスタートアップの事業計画策定を行い、ファイナンス成功、IPOに導く。オープンイノベーションによる新規事業開発、CVC設立運営支援コンサルティングを提供、2015年にシリコンバレー事務所を開設し、エネルギー関連、自動車関連、保険会社、金融機関、大手家電業のデジタル戦略立案、シリコンバレースタートアップとの協業を推進提供。経済産業省が主催するシリコンバレーの情報を発信するD-Labのメンバーであり、厚生労働省、経済産業省が設置した未来イノベーションWGに有識者として招聘されるなど、精力的に活動を行う。
■講演活動
- 日経SDGsフォーラム特別シンポジウム 「グリーンイノベーション基金で目指す、カーボンニュートラルな未来へ」特別講演
- 脱炭素EXPO2023「日本と世界の脱炭素気候変動テック最前線 ~脱炭素気候変動領域でのビジネスの創り方~」特別講演
- グリーンファクトリーEXPO2022「製造業における脱炭素イノベーショントレンド ~グローバル先進事例から~」特別講演など講演多数
■執筆活動
- 気候変動イノベーション連載「FrontLine」電気新聞 計30回
- 「日経クロストレンド連載「気候変動対応はビジネスになるのか」
- Deloitte レポート「気候変動イノベーション、スタートアップに立ちはだかる死の谷」、「気候変動領域におけるイノベーション実態調査」、「気候変動イノベーション、スタートアップを支えるエコシステム」など執筆多数
- 01 Expert Pitchとは?
- 木村 将之氏プロフィール
- 気候変動イノベーションの必要性
- 「死の谷」を乗り越えろ
- ステークホルダーの役割拡張
- アメリカバイデン政権の動き
- 大企業のインベーション活動
- ビル・ゲイツ氏が推進するBreakthrough Energy
- 視聴者からの質問1
- グローバルスタートアップの動向
- 変わるビジネスモデル
- カーボンキャプチャーの新技術
- 注目度が高いサーキュラーエコノミー
- 「気候変動関連の投資動向調査」レポートのご紹介
- 視聴者からの質問2
- (おまけ)シリコンバレー出張ガイドブックのご案内
小川:皆様、こんにちは。お待たせいたしました。本日はご参加いただきまして、誠にありがとうございます。それでは、12時になりましたので、01 Expert Pitch第24回を始めてまいります。「シリコンバレー発!世界のエキスパートが最新情報を日本語で解説!」ということで、本日は『気候変動スタートアップビジネスと投資動向』をお送りいたします。
さて、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 COO/パートナー 木村 将之さんをエキスパートとしてお迎えしております。木村さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
木村:よろしくお願いします。
小川:そして、本イベントの主催者でありますTomorrow Access, Founder & CEOの傍島さん、どうぞよろしくお願いいたします。
傍島:よろしくお願いいたします。
小川:そして、私は本日ナビゲーターを務めてまいります、フリーアナウンサーの小川りかこと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは早速ですが傍島さん、この01 Expert Pitchの狙いなどを少しお話いただけますでしょうか。
01 Expert Pitchとは?
傍島:はい。あらためまして、Tomorrow Accessの傍島と申します。よろしくお願いいたします。Tomorrow Accessという会社は、シリコンバレーを拠点にしたコンサルティング会社になります。この01 Expert Pitchは今日で24回目ということで、約2年が経つことになります。
このイベントの狙いは、今、画面に映しております通り、3つございます。まず1つ目は、日本とアメリカの情報格差の解消ということで、木村さんもたくさん日本の企業の方から、「シリコンバレーはどうなっているのか」「グローバルでどうなっているのか」というお声をたくさんいただくと思います。そういったところに対して迅速に日本に情報をお届けして、日本とアメリカの情報格差を埋めたいというのが1つ目の狙いです。
2つ目は、正しい情報をお届けしたいということです。同じニュースでも、日本に伝わっているニュースの温度感と、われわれがアメリカに住んでいて感じる温度感がたまに違うなと感じることがあります。そういったところを今回ご登壇いただく木村さんのようなエキスパートの方にきちんと解説をしていただいて、正しい情報をお届けしたいというのが2つ目の狙いです。
3つ目は、日本語での解説ということです。英語の情報はたくさんあるのですが、なかなか大変ですので、きちんと日本語で情報を開設していきたいと、このような3つの狙いでウェビナーを運営しております。
今日も、視聴者からのご要望の中で結構多かった気候変動、環境問題というところをテーマにお話いただけるということで、私自身もすごく楽しみにしてまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。
小川:傍島さん、ありがとうございます。本日のイベントは、皆様からのご質問を随時受け付けて進行を進めてまいります。参加者の皆様、ぜひ木村さんにご質問のある方は、Zoom画面の下にありますQ&Aボタンからご質問をお寄せください。随時、私のほうで拾ってまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、まずは木村さんから、スライドを使って簡単に自己紹介から始めていただけますでしょうか。
木村 将之氏プロフィール
木村:はい。それでは皆さん、よろしくお願いいたします。本日はこちらの表題でお話していきたいと思います。まずは簡単に自己紹介をさせていただければと思います。私は、2010年にデロイトの社内ベンチャーで、スタートアップの支援と大企業のイノベーション支援をするデロイトトーマツベンチャーサポートという会社を立ち上げました。今は正社員で200人ぐらいになって、世界5拠点で活動しています。2015年からはシリコンバレーに来て、そのあと、COVIDの前は7:3や6:4ぐらいでシリコンバレー多めの生活をしていました。COVIDの間はずっとアメリカにいて、COVID明けにまた同じような生活に戻っているという感じです。
やっていることとしては、さまざまな領域の新規事業開発のお手伝いをさせていただいています。講演活動や政府関連活動というのを見ていただくと、非常にさまざまな分野で活動させていただいています。気候変動の関連するところだけ記載していますが、いろいろなところでお話したり、サーキュラーのビジネスモデルはどうなるの?という話を検討してみたり。あとは、どちらかと言うとスタートアップのビジネスモデルから学べることが多いので、その辺の検討などをさせていただいております。本日はよろしくお願いいたします。
傍島:木村さんはいろいろやっていらっしゃいますよね。目まぐるしいですよね。気候問題だけではなくて、自動車もそうですし。本当に素直に忙しそうですよね。
木村:大丈夫です。元気です。聞かれていないのに答えるという。(笑)
傍島:ありがとうございます。よろしくお願いします。
小川:お願いいたします
気候変動イノベーションの必要性
木村:よろしくお願いします。本日はこちらの3つの題目でお話していきたいと思います。まず、どういったところにイノベーションが求められているかというところと、本日は米国関連のお話ということで、米国のほうで非常に大型の政府助成金が出ているので、それがどういう影響があるかというお話をさせていただいて、そのあとに大企業のイノベーションの動向、最後にスタートアップ動向というかたちでお話できればなと思っています。
まず、気候変動イノベーションの必要性です。このテーマは、本当に今、非常に注目を集めていて、日本企業様ともいろいろとお話をさせていただきます。背景から言うと、まず、パリ協定というものが2015年に発表されて、2050年までにカーボンをネットゼロにしましょう、排出を基本的には0にしましょうということが合意されています。その中で、2030年と2050年に多くの企業がターゲットイヤーというのを設けています。例えば2030年までに日本は46%だったと思いますが、そういうことをコミットしている状況になっています。
企業も同じように2030年で何%、2050年で何%という削減をコミットしています。多くの企業に話を聞くと、この再エネ、省エネ、電化というところ、これは簡単に言うと既存の延長線上でなんとかなる部分については見えています。多くの企業は2030年で半分ぐらいに減らすと言っているので、これを足してあげたぐらいの数字ぐらいまでは脱炭素化というのは見えているのですが、残りの部分がどうしようもないよということを言っています。これは2020年の総排出量を100にしたときに、再エネ、省エネ、電化だと60%近くいくのですが、残りの40%はどうしても新しい技術に頼らなければいけません。こういったところが、まさに大企業も開発していますけれども、スタートアップに期待されている部分で、今日はこの辺りでどういったところが注目を集めているかというお話をできればと思います。
「死の谷」を乗り越えろ
木村:今日は、気候変動のビジネスモデルのお話をしていきますが、やはりビジネスモデルが非常に難しいということが言われています。もちろんデジタル系のスタートアップも、いろいろな大変さがあって難しさはあるのですが、基本的には顧客とプロダクトがフィットして、マーケットが大きければ、あとはバーッと大きくなることができる可能性が比較的高いと言われています。それに対して気候変動のスタートアップは「死の谷」が何回もあるということが言われています。この死の谷の1回目がやはり研究開発のところで、実際にその技術がほかの競合と比べて勝てそうなのか、実証の段階に至るのかというところが大きく死の谷Ⅰと呼ばれています。死の谷Ⅱは、じゃあ、実証まではできたけれども、これを既存のエネルギーシステムに組み込むときにやはりディスラプティブなものや、代替手段を受け入れないという既存のエネルギーシステムの事情があって、ここで受け入れてもらえないというので死の谷Ⅱというのがあります。死の谷Ⅲと言われているのが、そのあと迎える量産化フェーズです。一定の規模までの生産であれば、有効に機能していたはずの要素技術が、一定規模以上になると機能しなくなってしまうということが結構起こってきますので、大きく分けて死の谷Ⅰ、Ⅱ、Ⅲというのが待っています。これは時間軸も非常に長いと言われていて、例えば20年、30年先の技術もざらにある中で、非常に大量のお金もかかります。ですから、死の谷は多い、時間軸は長い、お金はかかるという三重苦のようなものが気候変動スタートアップになっているという状況です。
傍島:大変ですよね。(笑)
木村:すみません。まったく夢のない話をしていて恐縮ですが…。
傍島:(笑)大変ですよね、時間も金もかかるというのが。でも、現実的にはそうですよね。やりたいけれども、お金もかかるし、時間もかかるしで、なかなかモチベーションというか、やる気がしないですよね。だったらほかのことをして儲けようと考えそうですけれども。そういうところに取り組んでいるスタートアップもたくさんいるということは、やはりチャンスがあるということですよね。
木村:そうですね。やはり先ほど申し上げたパリ協定以降、2018年のIPCCという世界の科学者がつくっている気候変動のワーキングがあるのですが、そういうところでも、気候変動を解決しないと大変な災害が起こる、災害も増えるし、経済損失があると言われています。よく数字で言われるのが、積極的に取り組んで、ここの市場チャンスをつかむと、3,000兆円ぐらいの大きな市場があると出ています。
傍島:3,000兆円?!
木村:これに取り組まないと、2,000兆円の経済ロスがあると言われています。それぐらい大きな市場だというのは共通認識であるという状態です。
傍島:なるほど。でも、ここにある通り、スタートアップだけでできることではないですよね。
ステークホルダーの役割拡張
木村:そうですね。まさにおっしゃっていただいた通り、ステークホルダーというのが非常に重要です。もともと、これは役割拡張という、破線になったり、矢印が延長しているところが、昔より明らかに役割を強化しているところになっています。以前は大学の研究室で面白そうな技術があってもそこで終わっていたのが、実証の初めのほうまで大学発の気候変動のところで取り組むようになったり、また、投資家のところも、以前は勝てそうな技術、言葉を悪く言うと、勝てそうな技術に対して一定お金を入れていて、一方で量産化になるとものすごくお金がかかるので、ここはついていけませんということで、一部のところをベンチャーキャピタルが担うというのが多かったのですが、最近は研究開発の領域まで彼らが降りてきて、良い技術を見つけて一緒に早めからお金をたくさん出していくと、また、量産化のところの後ろのほうのファンドでも、しっかりお金を出していくという取り組みがされています。
企業ももともと研究開発のところは取り組んでいて、いろいろな企業で「うちは気候変動関連の研究開発の技術はある」と言っていますが、そのあとのここの長い期間が、先ほど傍島さんの言っていたように、やる気にならないわけではないのですが、単年度で結果を求められるので経済合理性としてなかなか難しいという中で手が回らなかったところを、今はそういうところもしっかり取り組んでいきましょうということでイノベーションをきちんとおこなっています。
あとは政府のところです。後ろでお話しますが、ここの領域を応援しないと経済損失も膨らむし、国の次の産業をつくることができないということで、たくさんお金を出しているというのが今の状況になっています。
傍島:私も投資をしていましたが、小川さん、投資は一般的に10年間で回収しなければいけないのです。
小川:もう決まっているのですね。
傍島:例えば、何年間かでお金を投資したら、一般的に10年以内に回収しなければいけないのです。もちろん長いものもありますが。ですから、30年かかりますと言われたら、一生返ってこないと思うわけです。
小川:なるほど。
傍島:ですから、これまではなかなか投資するのが難しかったのです。でも、そこが少し変わってきているということですかね。
小川:よかったです。
木村:そうですね。まさにおっしゃっていただいた通りです。あとは、後ろでも出てきますが、1度、クリーンテックバブルという2010年前後のところで、別名「太陽光バブル」とも言われていますが、そこでいろいろなスタートアップが出てきて、超大型倒産が相次いで辛酸をなめているところもあるので、その辺も後ほどご紹介したいと思います。
アメリカバイデン政権の動き
木村:こちらは、バイデン政権に移行するときに、バイデン大統領がそもそも気候変動を中心に据えた理由になります。これは無党派層の中の17%が気候変動中心に反対、56%が賛成で、反対の人の3倍なので、75%ぐらいの人が賛成のポジションを取っていました。ですから、ここに対して多くのお金、当時は8年間で2兆ドルつけると言っていました。今は財政の関係で小型化していますが、それでもなんとかこのインフレ抑制法案というのを3,690億ドル、約50兆円を通しているという状態になります。
これは日本の規模と比べてどうかと言うと、イノベーションに対して直接的にお金を出すという意味で分かりやすいのが、グリーンイノベーション基金というのが2兆円あって、日本の場合は民間のお金の使い方も刺激しながら、GX債というグリーントランスフォーメーションのお金150兆円を動かすと言っています。そのうち20兆円が政府の直接的なコントロールになるので、金額的に20兆円ぐらいまでいくとかなりの規模になるかなと思います。ただ、現段階でいくと2兆円のグリーンイノベーション基金があって、補正含めて3兆円前後だったと思いますので、予算執行はかなり進んでいますが、規模的にはまだまだ大きな開きがあるなというのが現状かなと思います。
インフレ抑制法案について何がいいのかというところですが、脱炭素技術の開発は、先ほど言ったように、お金もかかる、期間も長いということで、やはり一定の財政の拠り所が要ります。この法案がもし通っていなかったとしたら、アメリカが掲げる2030年までの削減目標、これは42%足りないのですが、それでもこの法案がなかったら26%で終わっていたのが、技術開発が進んで42%までいける見込みが立ったということが、リサーチ会社の分析で言われています。
具体的にこれがどう変わるのかというのが、こちらの下のほうになっています。これは左側の灰色のところがこの法案がなかったときのコストで、右側が法案の補助金を使った場合のコストが書いてあります。よく言われるのが、水素は1㎏あたり1ドルを切ってくるかどうかが1つ勝負ラインと言われていて、これでいくと3ドル補助が出ますので、もしコスト削減のシナリオが一定うまくいった場合には非常に良い水準に入ってくるということです。
もっと分かりやすいのがこのDACというところです。最近よくカーボンプライシングという議論がされていると思います。これは炭素にお金が付きますという話です。これはだいたいCO2排出1トンあたりいくらなのかというのがポイントになっています。ここの価格は2030年ぐらいに1トンあたり100ドルに収れんするということが言われています。100ドルに収れんするというのはどういうことかと言うと、炭素を1トン出してしまっている企業はペナルティで100ドル払わなければいけない、そう捉えていただければと思います。この場合、250ドルに対してDACという空気中から直接炭素吸着して回収するというものに対して180ドル出ますので、そうすると、良いシナリオでいくと250ドルから180ドル引いて70ドルになります。そうすると、70ドルの技術でも100ドルで売れるに等しいのでビジネスになるということで、非常にこの法案が期待されています。それ以外は、太陽光は5倍、風力は2倍になると言われています。ですから、超強力な法案というのが今の状況です。
傍島:木村さん、アメリカはお金がありますが、これは本気ですか。グローバルでヨーロッパから見ると、バイデンさんは選挙があるからではないかとうがった見方もできなくもないのですが、本気で取り組んでいるのでしょうか。
木村:そうですね。切り口は違いますが、やはり欧州でも同規模の予算がついています。もちろん国別にブレークダウンしていくとかなり小さくなったりするのですが、EUの諸国の中でも1カ国で10兆円ぐらい確保しているところがあります。もちろんアメリカは本気ですという話がまず1つあって、もう1つあるのは、アメリカだけがすごく図抜けて驚愕の予算をかけているということではなくて、やはり欧州やほかの地域も本気です。日本も先ほどご紹介したような状況ですので、かなり予算額の積み増しは行われてくると思います。ただ、アメリカは、これは法案が通ったときも言われていましたが、政治の状況によってはかなり不安定になるリスクがあると言われています。インフレ抑制法案の執行を一度止めようというような法案が、共和党が多数を占めている下院を通過したことがありました。結局は民主が占めている上院で止められるという話ではあるのですが。ですから、共和党が政権を取ってしまったらこれはどうなるのか?というのは、常に議論されているポイントではあります。
傍島:そうですよね。
小川:では、木村さんにご質問のある方は、Zoom画面の下にございますQ&Aボタンから、ぜひご質問をお寄せください。よろしくお願いいたします。
では引き続き、木村さん、お願いいたします。
大企業のインベーション活動
木村:ありがとうございます。それでは、グローバルの大企業を中心としたイノベーション動向というところですが、やはり非常にイノベーションへの圧力が強まっているというのがこちらの図になっています。まず、投資家・株主のほうからは、しっかり対応しないところについては格付を下げると言いますか、金融コストを上げるという対応がおこなわれています。ここの圧力がやはり一番初めに来たという状況です。そのあとに非常に多くなってきているのが取引先です。例えば、Appleが早期にサプライチェーンのカーボンニュートラルの実現を目指すということで、CO2の排出量、炭素排出量の開示を求めるようになりました。後ろでも出てくるのですが、Amazonも同じような取り組みをしています。ですから、良い企業と取引するためには気候変動イノベーションに取り組まなければいけない、脱炭素化に取り組まなければいけないという状況です。あとは、政府もどんどん促進するような立場でサポートしているというお話や、一方で飴と鞭のような話があって、カーボンプライシングの制度化は日本でも活発に議論されています。また、TCFDの開示というのが右下にありますが、気候変動関連の財務情報の開示ということで、財務諸表の付属する情報のところで気候変動のリスクと機会を開示した上で具体的な対応策を書きなさいとなっていますので、この辺りが義務付けられてくるところです。そうすると、やはりこういう透明化がどんどんおこなわれて、取引先から選んでもらうために取り組まなければいけないという状況になります。もう1つ大きくあるのが消費者の動きで、不買運動のようなかたちが展開される可能性があります。バーバリーが、これはどちらかと言うと気候変動の対応という話と、サプライチェーン上のESGの観点、人権を含むところで消費者が不買運動をしたという話があり、このような考え方はどんどん強くなってきます。ですから、企業としては対応しなければいけないという状況があります。
では、このような中でどのような領域に興味があるのかというのがこちらの表になっています。これはだいたい100数十社に対してアンケートを取った結果になっています。2年間連続でアンケートを取って、これは2年目のほうですが、再エネ、省エネ、電化というのが高くて、それからだいぶ引き離されてほかの項目がありました。例えば、このサーキュラーエコノミーやCCS/CCUS、カーボンキャプチャーの技術やクレジットが非常に高いランキングになっています。ですから、今日はこの辺のビジネスモデルについてお話していきたいと思っています。
大企業の例ではAmazonが非常に有名な取り組みをしていまして、The Climate Pledgeという団体をつくっています。これは何かと言いますと、先ほども申し上げたように、2050年までのカーボンネットゼロというのがグローバルの約束ですが、これを2040年までに達成するというものです。今のところ、ここに対して400社が賛同していて、Amazonもここにサインをしている企業と積極的に取引するということを明確に言っていますので、もう400社、団体がつくられているという状況になっています。
具体的に申し上げると、Amazon自体は当然この2040年までに率先して実現するということを言っていますし、関連する工場や倉庫の再生可能エネルギー比率を100%に上げる取り組みをおこなっています。あとは輸送のところが非常に難しいのですが、こちらに住んでいると米国Amazonのバン(トラック)を見るようになったと思います。これはリビアンという有名なスタートアップのバンを活用して輸送全体の50%を脱炭素化するという取り組みです。ですから、非常に積極的に取り組みをしているというのがあります。
傍島:木村さん、今のスライドの右下に企業名がありますが、敢えてですけれども、参加していない有名なところがあったりするのですか。
小川:気になりますね。
木村:そうですね。「ここが参加していないぞ」というようなやり玉に挙がっている企業は、現時点で私の認識ではないかなと思っています。関連するところはどんどん積極的に参加しているという状況です。ここに書いてある中で、テクノロジーが一番上に来ているというのは結構面白いと思っています。米国では、例えばAlphabet、つまりGoogleですね、Googleと旧FacebookがAmazonと同じような、少し違いますが、フロンティアという枠組みをしていて、1,000億円ぐらいのお金を集めています。それ以外にStripeなどのテクノロジー企業も入っています。何をしているかと言うと、世界中の良い脱炭素の技術を共同で目利きする仕組みをつくっていて、そこで良いものに対してどんどんお金を付けていって、将来の技術が開発できたときの権利を買っている、それがフロンティアという枠組みです。これをけん引しているのがテクノロジー企業です。米国ではやはりテクノロジー企業はいろいろ儲け過ぎだとか邪悪だとかやり玉に上がりやすいので、そういうところを先回りして、世のため人のためというので非常に意識高く取り組んでいるという話があります。
傍島:敢えて言うと、モビリティは、メルセデスは見えますが、もっと有名な会社があってもいいのかなと思いますが、そんなことないですか。さすがに10年前倒しと言われたら、それは無理だわという感じなのでしょうか。
木村:そうですね。ただ、モビリティ企業のほうも、2050年から脱炭素目標10年前倒しというのがかなり多くなってきているので、意識は非常に上がっているかなと思います。
傍島:なるほど。ありがとうございます。
ビル・ゲイツ氏が推進するBreakthrough Energy
木村:次は大企業というところから少し拡張的に捉えていただいて、有名な団体でBreakthrough Energyという団体がありまして、さまざまなプログラムを展開しています。もともとの発足の経緯は、2015年、パリ協定が採択されたCOPという国際会議が行われている裏で、ビル・ゲイツさんが世界の要人を集めて組成しました。ですから、錚々たる人がいます。もともと有名になったのがBreakthrough Energy Venturesで、非常にインパクトが大きいところが特にやはりお金もかかるし時間軸も長くなりやすいので、そこに出資をして支えましょうというのが初めにできました。その後、さらに科学者からのシード向けにいろいろサポートするFellowsというプログラム、その後さらに実装段階に向けて支援するCatalystというプログラムを始めたというのが、Breakthrough Energy Venturesがおこなっていることになっています。これよりさらに後ろのフェーズの量産化のところまで踏み込むプログラムの準備も今しているということで、非常に世の中の動向を捉えて動いているなというところです。
これは何が面白いかと言うと、先ほど傍島さんが話していたように、ファンドは通常10年ですが、10年では終わらないので20年にしています。また、評価のところも、ビジネスモデルはお金が儲かるかどうかが先にくるのですが、どちらかと言うと科学的な観点、技術的にまずあり得るかというDD(デューデリジェンス)が入り、そこを非常に重視しています。投資フェーズもシードの段階からおこないますし、重点投資エリアをきちんと定めてインパクトが大きいところに絞っているというのが大きな特徴になっています。
傍島さんからもありましたが、このファンドの満期の話は非常に大きくて、AmazonもThe Climate Pledge Fundというのを1,000億~2,000億の間でつくっています。彼らもファンドの満期は20年ということを言っていて、案件評価のところもやはりポイントになっていて、儲かるか分からなくても投資するということを明言しています。通常のファンドだったら、儲かるか分からないのに投資するなんて言えませんので、そういうところが気候変動ならではというか、促進するためにはそういうファンドが必要だなというところになっています。
これはBreakthrough Energyの構造です。普通、ファンドにお金を出したら、あとは逆にスタートアップに貢献してよとまでは言いませんが、そういう立ち位置になろうかと思います。これはパートナーと書いてあるところへEnergy Catalystがお金を出しますとなったら、今度はここからお金が出たときに、欧州や投資銀行がマッチングファンド形式という、例えばお金を入れたもの1に対して2や3のお金を入れるという形式になっています。ですから、ここで体制が一気に3倍になるという状況です。プラスアルファで、お金を入れるだけでなくて貢献するということを進んでコミットしていますので、この人たちは貢献します。例えば、Microsoftさんの場合は、Climeworksという、先ほどの空気中から直接炭素を回収するリーディング企業の商品をいくら分購入することをコミットしています。American Airlinesの場合は、CO2を出さない航空燃料のところの購入をコミットしているというのがあります。つまり、お金を出すだけでなくて商品購入までコミットするという、そういうかたちになっています。日本でも、このあとの時間軸で三菱商事さんと三井住友信託銀行さんがこちらのパートナーになられていますので、やはりこういう動きはどんどん広がっていくのかなというところになっています。
傍島:これはいいことですよね。先ほどの、お金1に対して、ほかのところから2付けて、全部で3で支援する、加えていろいろなサポートをするわけですよね。これはすごくいい動きですね。ほかのファンドもこういう動きですか。ここのBECが割と特徴的なのですか。
木村:そうですね。マッチングファンド形式というのは結構あります。例えば日本でも認定VCがお金を入れると、政府がお金を入れられるというのをNEDOさんがおこなっていますので、やり方自体は特殊というわけではありません。やはり規模の大きさがすごくユニークかなと思います。
傍島:そうですよね。この仕組み自体は割とあると思いますが、お金の大きさも含めて、やはり環境系のところだからこそという感じでしょうか。
木村:そうですね。今、気候変動ファンドはすごく大型化していて、ここのファンドも1本1,000億のものが2本ぐらいあったと記憶しています。ほかにも有名なところだと、Energy Impact Partnersや、Lowercarbon Capitalなど、やはり両方とも1,000億規模でファンドを立ち上げています。今、ベンチャーファンドはもちろん大型化が進んでいますが、その中でも非常に大きいなという印象です。
傍島:そうですよね。それを2倍3倍にできるわけですから、すごいですよね。
木村:そうですね。
視聴者からの質問1
小川:ありがとうございます。では、ここまでご質問が2つ届いておりますので、木村さんにお答えいただければと思います。まず1つ目ですが、「テスラやフォードはImpact Reportで、Scope3までのCO2排出量を開示していますが、日本の車メーカーはまだしていません。米国からはどのように見えているのでしょうか」というご質問です。お願いいたします。
木村:そうですね。やはりここのScope1、2、3というところですね、GHGプロトコルで定められていて、Scope1と2が基本的には自社で、Scope3がサプライチェーンからの排出というかたちになっています。ここのところはやはり開示していくというのがスタンダードになっています。ただ、日本の企業は意識が低いのかと言うと、そういうことではなくて、素材メーカーから話を聞いていると、日本の企業もこの前後がしっかり把握できるように情報の収集を始めている段階です。ですから、大手のOEMさんがそこの前後のところ、サプライヤーにも負担が掛からないようなかたちで情報収集できるような基盤を提供し始めたというお話も伺っています。実測でも取れるように限りなく近付いてきているでしょうし、開示される日は近いのかなと思います。
小川:どうもありがとうございます。では、もう1つご質問が来ております。「ネットゼロで利益成長できそうな日本企業はありますか。現時点ではコスト負担のほうが大きく、まだ未知数でしょうか」というご質問です。
木村:そうですね。これは、気候変動銘柄で成長できそうな企業に読み替えさせていただきました。日本企業への期待は非常に大きいというのがあります。特に私たちがいろいろと関与させていただいた、東京都がおこなった「City-Tech.Tokyo」というイベントがあって、そこでさまざまな技術系のスタートアップが最後にファイナリストで残り、核融合の京都フュージュニアリングという会社さんが優勝しました。これは核融合技術自体というよりは、どちらかと言うとそれを製造するところを支える技術ですが、そういったところには期待が高いと言っていました。日本が培ってきている脱炭素技術はいろいろなところに眠っていますので、そういうものをぜひ海外にも持ってきてほしいという期待は大きいと思います。
小川:ありがとうございます。では、続きまして、グローバルスタートアップの動向をお願いいたします。
グローバルスタートアップの動向
木村:はい。以前のこのクリーンテック1.0の頃は、先ほど申し上げたように、特に太陽光バブルと言われたように非常にハードウエア中心でしたが、政府のコミットも途中で外れたということがありました。民主党政権のところでグリーンニューディールと言われていたものが、そのあと政権交代で外れてしまったというところがありまして、非常に難しい状況でした。そこからプラスアルファの要因で何が変わっているのかと言うと、いくつかあるかなと思っています。一番上のところが、やはりパリ協定をはじめ国際社会で合意がされていて、かなりひっくり返りにくい状況です。もちろん政治の関係で0ではないのですが、ひっくり返りにくい状況が以前よりかなり強いです。もう1つあるのが、再生可能エネルギーというだけのところから、エコシステムとしていろいろ育てていこうということで周辺ビジネスも含めて育ってきているというのが2つ目です。3つ目が、ハードウエア中心のところから、ハードだけでなくて、ちょうど2015年前後でAI革命が起こりましたので、IoTやAIを活用したビジネスモデルが育っています。ですから、裾野が非常に広くなってビジネスモデルも多様化しているというのがポイントかなと思っています。
気候変動の投資額を見ていただくと、気候変動以外のスタートアップ投資額は2021年が最高で、2022年はグローバルで40%減ぐらいでした。それに対して気候変動の銘柄はまったく逆行していて、2022年で2倍になっています。いろいろな領域が盛り上がっていますが、やはり昨今は蓄電池を中心にしたストレージのところやモビリティ、あとは日本でも興味の高かったサーキュラーのところが盛り上がっている状況です。
いいことばかり言っていると「お前は嘘つきだろう」と言われますので言っておきますと、23年の見通しは、残念ながら21年の水準に戻ってしまいそうです。やはりこれはスタートアップのところの投資額の減速がかなりあるので、その影響を受けたというかたちになっています。ただ、足元でいくと、確かに付き過ぎていた案件について、バリュエーションが高過ぎる案件については議論されていますが、気候変動の銘柄はやはり非常にホットトピックですので、今後、経済環境というか、スタートアップ市況の持ち直しに伴って一定のところはキープすると思っています。
こちらが、先ほどのそれぞれの投資額の中のさらに内訳です。これは面積が投資額を反映しています。全カテゴリーの中で最大になっているのが、ストレージの中のバッテリーです。やはりEV化のところは非常に大きな課題で、そこのところでどういうバッテリーがつくれるのかというのは大きいです。
これは少し意外だと思いますが、「太陽光はもうオワコンではないのか?」と思っている方が多いと思いますが、意外とここは投資額を集めているという状況です。あとはEV充電のところも大きくて、CO2の回収のところがあるので、この辺のビジネスモデルをお話していきたいと思います。
変わるビジネスモデル
木村:太陽光のところで起こっているのは、以前のように、例えば、クリーンテックバブルのときにSOLYNDRAという太陽光パネルの会社がありましたが、超大型破綻しています。そのときとは少し違っていて、ソフトウエアを絡めたモデルが非常に多くなっています。これはClean Capitalというところで、何をしているかと言うと、いろいろな太陽光のパネルがある中で、それを1つに取りまとめて同じロジックでDDしてあげて、それを可視化してあげるというプロセス管理のソフトウエアの会社です。これをおこなうと、1つ1つのプロジェクトに対してファイナンスしてこなければいけなかったのが、全部同じものを集合的に扱えるようになるので、大きいお金が一発で引っ張れます。そういうところを見て、Manulifeなどの機関投資家がここにお金を入れているというベンチャーになります。
右側は、今あるハードウエアをどのようにしてより有効に活用するかという観点で、ドローンの空撮画像と地形のデジタルツインを使って、どのように太陽光パネルを敷き詰めたらいいのか、どのような向きで設計したらいいのかというのを設計していくベンチャーです。ここはアラブのエネルギーコングロマリットに買収されていまして、すでに買収時点で100以上の太陽光設計事業者と取引があったというベンチャーです。ですから、右側は、どちらかと言うと地形等のデータを完全なかたちで取って再エネを活発にしようというものです。
これは太陽光だけでなくて、風力でもあります。日本のメトロウェザーという会社が、ドップラー・ライダーという特殊なLiDARセンサーを使って空気をマス目で切って、どの空間にどういう風向きが吹いているかというのを測定できるものをつくっています。通常でいくと点と点の観測で間はよく分かりませんという話だったのに、間が全部取れるようになることで風力発電の効率がすごく上がると言われています。まさにこのSenseHawkの風力版かなと思います。こういうデータが大量に使われて、ハードウエアの効率を上げるといったことがおこなわれてきている状況だと思います。
傍島:これは、誤解を恐れずに言うと、データ分析の会社ですよね。使われ方としては気候変動になっていますが、割と昔からある技術というか、データを分析するところに長けているスタートアップがこういう領域に入ってきたので、技術的には割と安心して見ていられるというか、そんなふうに理解したのですが、合っていますか。
木村:合っています。おっしゃるように、センサーの会社やAIの会社がどんどん入ってきているというのがあって、例えば衛星の画像で空撮をおこなって森林を非常に安く育成モニタリングする会社や、日本だとsustainacraftが有名ですが、そういうところもまったく同じです。彼らはもともと技術的に言うとセンサーやAIの会社で、その技術をどの産業に向けるかというところでしたが、気候変動にやはりビッグマーケットがあるので、そういう専門性を持った人がここに入ってきているというのが1つの現象です。
傍島:そうですよね。今日もたくさんの日本企業の方が参加していただいているのですが、気候変動問題の知識がないからという感じで思われている会社さんもいらっしゃると思いますが、よくよく因数分解というか、細かく見ると、これまであったような技術がベースだったりするので、割と技術評価ができる部分もあるのではないかなと思っていましたので質問させてもらいました。
木村:ありがとうございます。こちらのChargepointは充電器の会社です。以前は充電器のビジネスはハードウエアビジネスだと思われていたと思いますが、ビジネスモデルをソフトウエアやサービスでストック型に変えたという例です。これは収益の7年間のスライスですが、ハードウエアのアップフロントでもらうのは50%で、それ以外49%で積み上げるというモデルになっています。やはりこういうモデルが取れると積み上げで収益が非常に安定していくというのがあって、どんどん儲かるようになります。COVID-19のときは少し伸びが落ちましたが、これからガーッといきますというのがベンチャーらしいのですが、そういう絵を描いてる状況です。ただ、やはりすごく難しさも同時に指摘されていて、これは22年と23年のファイナンシャルですが、売上が約80億円に対して赤字89億円。これはすごくレートを単純化して1ドル100円で話していますが、そういった状況で、赤字率は倍以上です。売上以上の赤字があったのが、だいぶよくはなってきていますが、まだビジネスモデルでどこまでスケールすると確立できるかというのは良い問題だなというところです。
最近、この充電器のビジネスで一番賑わせているのが、テスラが北米の規格化をしてきているという話です。これはChargepointなど彼らも受け入れて、テスラコネクタを追加する計画だと書いてありますが、非常に台数もさばけていて、特に急速充電の台数もさばけているテスラがポジションを変えてきているというのは非常に脅威だなというところです。
傍島:やばいですよね。
木村:やばいですね。(笑)
傍島:小川さん、先ほどのテスラの専用の充電スポットは、テスラしか充電できなかったんですよね。これを誰でも電気自動車だったら充電しますよ、規格をテスラの規格に統一しますよという動きがあって、業界の中では「おーっ」という今動きがあって、ここは誰が取るんだというような。
小川:ざわついているのですね。
傍島:そうなのです。
木村:そうですね。やはりこの垂直統合モデルは相当脅威です。これを開放した当時はみんな知らん顔をするだろうと言われていたのですが、今年の5月にフォードとGMがこれはもう自分で取り組むよりは乗っかったほうがいいよねという判断をして、そこで一気に傾いた感じですので、この垂直統合モデルがどうなるかですね。
傍島:これは大きいですよね。
カーボンキャプチャーの新技術
木村:はい。あとは、カーボンキャプチャーのところです。非常に投資が盛り上がっています。回収してから輸送するというのはもちろんですが、利用と貯蔵があって、いろいろな方法に利用されていきますというのがこの図です。カーボンを捕まえて、そのあとにそれを物質転換するか、どこか安全な場所というか、隔離できる場所に溜めておくというのが基本だとざっくり思っていただければと思いますが、これはお金が掛かります。ただ、カーボンは減らせます。先ほど説明したように、2030年ぐらいでだいたいカーボンの価格が100ドルぐらいになろうとしています。ここを下回ってくれば十分可能性があるというので、こういう技術、キャプチャーする技術自体もそうですし、貯蔵する技術自体もそうですし、物質転換する技術にすごくお金が集まっているというのが今の状況で、ここに対して2021年、少し古いのですが、前年比3倍ぐらいになっていて、ここへの投資がどんどん巨額化しています。
その中でもすごくお金が掛かりそうなのが、荒野の中に扇風機を置いて直接空気中からCO2を回収するという、DACという技術があって、今日はこの話をしたいと思います。これは結局、東京ドーム1個分設置して数キロしか回収できないらしくて、少しずつ回収ですのでそれって絶対合わないよねと言われていたのですが、これがなんとか合いそうというか、産業化できるのではないかというのが今日ご紹介したいものになります。カーボンエンジニアリング社は、Climeworksと並んで何個かあるうちのリーディングカンパニーの1つです。荒野に扇風機を置いて、置いたあとに、これを先ほど言っていたように航空業界向けに物質転換しますというものもあれば、石油増進回収という、地中に埋めて石油をサラサラにして吸い上げやすくするという方法もあってそれをおこないますという話もあれば、クレジットでそもそも売るという話もあります。ですから、これがそれぞれいろいろなマネタイズポイントをつくっているので儲かるかもしれないというところです。そこに、何が起こっているかと言うと、回収コストが今500~600ドルぐらいのものが将来100ドルを切ってくると言われている中で、そこに対して補助がたくさん出て、燃料をつくったら補助が出て、石油をサラサラにしたら補助が出て、といったことが言われています。つまり、この辺を何回も、補助金のおかわりと呼んでいるのですが、補助金のおかわりをすることでビジネスとして成り立つかもしれないと今言われていて、ここにお金が集まっているという状況になっています。
日本の企業様にお話をすると、これはものすごくお金が掛かりますので、様子見をしているという話ですが、これを見ていていいのですかというのが次のページです。これは特許分析で、それぞれたくさん特許を出しています。中心になる分離方法でも、それぞれ自分の強い部分で出していて、プラスアルファの補助手段のところでも出してきているので、もしこれをおこなう場合には特許を踏んでしまうかもしれませんよというのがメッセージで、ここは非常に企業として早めに対応したほうがいいのではないのかというのが今の動きです。
注目度が高いサーキュラーエコノミー
木村:時間がないと思いますので、サーキュラーエコノミーだけ説明して終わりにしたいと思います。サーキュラーは日本で注目度が非常に高くて、ここの実際に設計してからつくって流通させる部分で動脈と呼ばれている部分と、回収してきて無駄を減らすという部分で静脈と呼ばれている部分で、両方で大きな変化があります。どちらかと言うと、この1周のサイクル全体を回すビジネスモデルに切り替えましょうというのが1つ起こっていることですので、そこからご説明したいと思います。
エンジンなど今までモノ売りをしていて、製造したら終わりですよ、売ったら知りませんというかたちだったものから、きちんと点検をし続けて、部品を取り換えて、なるべく長く使えるようにしましょう、廃棄を処理するところまでやりましょうというかたちにRolls Royceが変えています。そこがまずモデルの変化というので1つ大きくあります。このように、今までのモノをつくって売ったら終わりではなくて、ずっと最後まで面倒見ますというモデルが増えてくる可能性が高いです。
もう1つあるのが、これはTeraCycleというスタートアップがおこなっているLoopというサービスの仕組みです。ハーゲンダッツの箱をつくってあげて、届けて、これは洗える、ウォッシャブルなので、回収してまた使えるというところです。これは結構、日本で実証実験もおこなっていてというかたちなのですが、これがやはり苦しいのが、とは言うものの、これはすごく運ぶコストが掛かりますのでお金が掛かります。これを誰が負担するのかという問題があって苦しいです。
それでいろいろ考えて出てくるのが、次です。これは業界が違うのですが、SAFECHEMというドイツのメーカーが取り組んでいるのが、溶剤の原料を提供して、そのまま顧客のオンサイトで使えるかたちに変えて、使ったあとの廃棄物を回収というか、リサイクル器に入れるとまた使えるかたちで出てくるような、消しゴムを使って、消しかすを入れると消しゴムが何回も出てくるという、そういう感じのビジネスモデルになっています。これは輸送という問題を1つ解決しています。ビジネスモデルは、PLを考えるとどうしても輸送のコストが掛かってくるので、そこを解決する面白いベンチャーかなと思っています。
最後、回収のほうです。静脈産業と呼ばれるほうでいくと、やはりモノがどうやってできたか、どういう法制にさらされているか、どう回収するかというのをずっとトラッキングし続けるのをデータを活用していこうという動きが出てきています。欧州のほうでは、デジタルプロダクトパスポートと言って、つくったものに対してどういう物性なのか、どういう廃棄をするのかというところまで初めにきちんと示さなければいけないということがどんどん法制化されてきています。バッテリーで一時期すごく話題になりましたが、これはどんどん品種を増やしていくだろうと言われています。こういうものをそのままデジタルでスタートアップが記録できるようにしているのが一番左です。真ん中の例は原材料の出所、やはりレアメタルのところが非常に高価で気候変動にも影響があるので、ここをきちんとリサイクルしていこうというところをBlockchainでトレースし続けるというものです。右の例はあらゆる廃棄物をどういった法制の下、どのように管理されて、どうメンテナンスされていたかという記録を残しながら情報として集めておいて、使いたい人と捨てたい人をマッチングするスタートアップになっています。この辺は非常に効率性を上げるのが難しい領域です。つくったあとはどんどん流通していってエンドポイントがばらばらになるので難しいのですが、それをなんとかデータの力を使って解決しようというスタートアップがこの辺になっています。
「気候変動関連の投資動向調査」レポートのご紹介
最後、これはNEDOさんと一緒に、この内容自体をカバーしているわけではないのですが、グローバルの気候変動スタートアップベスト100はどういうところがありますとか、あとは主な業界、例えば自動車、化学、エネルギー、金融、農業でリーディングカンパニーがどういう取り組みをしていて、どこに投資しているかをまとめたレポートを出していますので、URLはたぶん叩けるようになっていると思うので、ぜひダウンロードいただければと思います。私からは以上となります。ありがとうございます。
気候変動関連の投資動向調査
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社
2023年3月
視聴者からの質問2
小川:木村さん、ありがとうございました。それでは、ご質問もたくさん頂戴しております。皆様ありがとうございます。1つ目ですが、「あたかもEVが唯一の選択肢のように扱われている現状に疑問を感じます。なぜ事実に基づいた客観的な検討がおこなえないのでしょうか」というご質問です。
木村:そうですね。おっしゃる通りで、EVが唯一の選択肢というところは徐々に崩れてきているというか、変わってきているのかなと思っています。これはもともとドイツもEV一択というのを避けて水素を受け入れるようになったり、あとはEVのところでかなり厳しい規制が入りそうなところ、バイオディーゼルでもいいのではないかといった、燃料のところを変えればいいのではないのかといった議論がおこなわれるようになってきたので、非常に多様化していくべきかなと思っています。おっしゃるように、やはりEVのところだと電気の使用量が非常に大きくなってしまって、もちろんそれ自体をコントロールする、マネジメントしていく手法はあるのですが、やはり一定の限界がある中で、さまざまな選択肢を検討すべきかとは思います。
小川:ありがとうございます。では、最後のご質問です。「日本におけるプライベートな中小企業にとってのESG対応は二の次になりがちだと思いますが、今後どのように取り組まれるべきだとお考えでしょうかというご質問です。
木村:そうですね。ここのところはやはりサポートできるところはサポートしてあげながら取り組むというのが非常に重要かなと思っています。例えば、今、取り組みとしてあるのが、炭素排出量の可視化ツールを持っているゼロボードさんが地銀と組んで地方の中小企業に対してそういうツールを入れていくという取り組みがおこなわれています。今の話は可視化の例だったのですが、それぞれの地域を支えている大企業や金融機関のような存在が中小企業と一緒になって、中小企業のトランジッションというか、変化を応援していくことが必要かなと思います。
小川:ありがとうございました。お時間の都合上、ここまでのご質問の回答とさせていただきます。ご質問いただいた皆様、ありがとうございました。
ではここで、Tomorrow Accessから「シリコンバレー出張ガイドブック」についてのご紹介です。傍島さん、お願いいたします。
(おまけ)シリコンバレー出張ガイドブックのご案内
傍島:はい、ありがとうございます。「シリコンバレー出張ガイドブック」のご案内をさせていただきます。こちらは数カ月前にリリースをしたものです。コロナが明けてたくさんの方がシリコンバレーのほうへご出張されるということですが、「初めて行くよ」「何をしたらいいのだろう」といったお声をたくさんいただきましたので、この「シリコンバレー出張ガイドブック2023」をリリースしました。資料のほうはガイドブック本体ということで、パワーポイントのスライド80ページぐらいですが、「シリコンバレーへようこそ」「出発前の準備と注意点」というところから、現地のホテルでの話や、打合せでどういうことを話したらいいのか等のビジネスマナーやエチケットの話、あとはお土産の話など一連の出張で参考になるようなところの支援をまとめています。こういったパワーポイントのスライドで、例えばサンフランシスコの危ないエリアもありますので、どこが危ないですとか、警察に止められたらどうしましょうという話とか、あとはビジネスマナー・エチケット、またスタートアップのイベントもたくさんありますので、どういったイベントに行ったらよいのかという話とか、それから英会話では必要な生きた英会話も並べてあります。シリコンバレーへいらっしゃったら、GoogleやMeta、旧Facebook、Appleのオフィスなども見学されるのは非常にいいかなと思います。このGoogleマップ上に住所を入れておきましたので、ご自身で回れるかなと思います。一番反響が大きいのは、シリコンバレーのレストランです。400店舗を並べたレストランガイドブックというようなところもあって、この地図の通り、サンフランシスコ市内からサンノゼまで、私たちTomorrow Accessで厳選した400個のレストランを載せています。プライベートはもちろん、仕事でも使える店が一覧で載っているので、ご覧になっていただければと思います。ここで載せているこの20個は実は私のお気に入りですので、ご覧になっていただければと思います。あとは英会話です。こちらもよくある英会話の本というよりは、私たちがシリコンバレーでよく使っている英語を載せさせていただいて、レポートにまとめております。こちらが料金になります。小川さんのほうからご案内をお願いいたします。
小川:ありがとうございます。ウェビナー参加者、メルマガ会員様には特別割引がございます。本来、「シリコンバレー出張ガイドブック」本体税込み2万1,780円。ガイドブック本体と1時間のメンタリングが税込み3万2,780円。ガイドブック本体ご購入者限定で1時間メンタリングが税込み1万1,000となっておりますが、クーポンコードSVTG23EPをご利用いただきますと、5,000円の割引となっておりますので、ぜひ皆様ご利用ください。なお、1時間のメンタリングは割引適用されませんので、こちらは予めご了承ください。
それでは、お時間になりましたので、本日の01 Expert Pitchは以上を持ちまして終了となります。傍島さん、木村さん、本日はどうもありがとうございました。
木村:どうもありがとうございました。失礼します。
傍島:ありがとうございました。
木村:ご視聴いただいた皆様もありがとうございました。また次回もぜひご参加ください。それでは、さようなら。
以上