01 Expert Pitch #14

インパクト/ESG投資の最前線 〜新たなファイナンスの潮流〜


01 Expert Pitch #14

インパクト/ESG投資の最前線 〜新たなファイナンスの潮流〜


2022.08.30 TUE 12:00-13:00 JST
GLIN Impact Capital 代表パートナー 中村 将人氏
インパクト投資とは、財務的リターンとともに、社会的・環境的に測定可能なポジティブなインパクトを生み出すことを意図して行われる投資のことを指し、投資家の戦略的目標に応じて、幅広いリターンを目標としています。これまでのように市場の原理に沿って利益のみを追求していた投資の時代は終わり、ESG(Environment:環境 Social:社会 Governance:企業統治)に配慮しない企業や投資は受け入れられない時代がやってきています。 今回の無料ウェビナーでは、GLIN Impact Capital 代表パートナー 中村 将人氏をお迎えして、インパクト投資/ESG投資とはズバリ何なのか、世界で取り組まれている最新事例の紹介など、インパクト投資について詳しく解説していただきます。

▼ こんな方にオススメ

  • インパクト投資/ESG投資について知りたい方
  • 財務的リターンかつ、社会的及び環境的インパクトを生み出す投資活動に興味がある方
  • CVC担当、新規事業担当
  • 世界における最新のスタートアップの取組み状況と未来を知りたい方

▼ エキスパート

中村 将人氏:GLIN Impact Capital 代表パートナー
国内第一世代のインパクト/ESGベンチャーキャピタルGLIN Impact Capital 代表パートナー。総合商社時代の途上国駐在経験をきっかけにソーシャルビジネスやインパクト/ESGファイナンスに興味を持ち、ハーバードビジネススクールに留学。同校Impact Investing ClubのPresidentを務め欧米インパクト投資界におけるネットワークを構築し、米国Acumen Fundにて知見を深めた。””より良い資本主義の構築””をミッションに、日本と米国の未上場企業に対してインパクト/ESG投資およびESG経営戦略策定支援を行う。2020年にGLIN Impact Capitalを創業。

小川:それでは、12時になりましたので、01 Expert Pitch第14回を始めてまいります。「シリコンバレー発!世界のエキスパートが最新情報を日本語で解説!」ということで、本日は、「新たなファイナンスの潮流」をテーマに「インパクト/ESG投資の最前線」をお送りいたします。

今回は、GLIN Impact Capitalの中村 将人さんをエキスパートとしてお迎えしております。中村さん、どうぞよろしくお願いいたします。

中村:よろしくお願いします。

小川:そして、本イベントの主催者であります、Tomorrow Access, Founder & CEOの傍島さん、本日もどうぞよろしくお願いいたします。

傍島:よろしくお願いします。

小川:そして、私、本日のナビゲーターを務めてまいります、小川りかこと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは早速ですが、傍島さん、この01 Expert Pitchイベントの狙いなど、少々お話いただけますでしょうか。

01 Expert Pitchとは?

傍島:あらためまして、Tomorrow Accessの傍島と申します。よろしくお願いいたします。Tomorrow Accessという会社はシリコンバレーを拠点にしたコンサルティング会社になるんですけれども、主に日本とアメリカのクロスボーダーのビジネスのご支援をさせていただいております。この01 Expert Pitchは昨年から始めてもう1年が経つんですけれども、毎月テーマを決めて、今回の中村さんのようにエキスパートの方に来ていただいて、その業界のことをお話していただくというウェビナーになっております。

狙いとしては、今、画面に映しましたけれども、3つあります。まず1つ目は、日本とアメリカの情報格差の解消ということで、多くの日本の企業の方から「シリコンバレーの情報やグローバルな情報を教えてください」という声をたくさん聞きます。そういった情報を迅速に日本にお届けしたいというところが1つ目の狙いです。

2つ目は、正しい情報をお届けしたいということで、よくアメリカのほうでニュースが流れているときにアメリカで感じている温度感と、日本に伝わったときに出てくる温度感と若干違うなと感じることがあるので、そういったことを解消するために、今回ご登壇いただいている中村さんのようなエキスパートの方にきちんと解説をしていただいて、正しい情報をお届けしたいというのが2つ目の狙いです。

3つ目は日本語です。英語の情報はたくさんあるんですけれども、やはり大変ですので、そういったものをきちんと日本語でお届けして、正しく理解していただきたいという、この3つの狙いでこのイベントを運営しております。

今日も、インパクト投資/ESG投資というキーワードが最近話題になってきています。私も非常に勉強したかったテーマですので、楽しみにしてまいりました。中村さん、どうぞよろしくお願いいたします。

中村:よろしくお願いします。ありがとうございます。

小川:傍島さん、ありがとうございます。本日のイベントは、皆様からのご質問を随時受け付けて進行を進めてまいります。参加者の皆様、どうぞご質問がある場合は、Zoom画面の下にございますQ&Aボタンからご質問をお寄せください。随時、私のほうで拾ってまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、中村さん、簡単に自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

GLIN Impact Capital 中村 将人氏プロフィール

中村:はい、もちろんです。では、早速スライドを共有いたします。少し文字多めですけれども、自己紹介としましては、私は今、GLIN Impact Capitalというファンドを運営しておりますが、それまではいろいろなことをしていました。新卒は総合商社で働いていたんですけれども、そのときに途上国駐在をしたり、あとはスタートアップ新規事業開発や投資検討、そういったことをしておりました。その辺の関連からスタートアップ投資におけるインパクト投資、ESG投資にとても興味を持って、そういったところにキャリアシフトすべくアメリカのビジネススクールに留学をして、そこからこの分野専門でいろいろと活動しております。ビジネススクールでそういったところの理論面や、ネットワーキングを構築した上で、関連のファンドで少し働かせてもらったりして、2年前にこのファンドを立ち上げて運営しております。本日はぜひよろしくお願いいたします。

小川:よろしくお願いいたします。

傍島:お願いします。

小川:それでは、早速ですが、詳しく教えていただけますでしょうか。

中村:はい、分かりました。では、もう少し細かく、このインパクト投資/ESG投資の話に入っていきたいと思います。まず、われわれはファンドを運営しているんですけれども、アメリカと日本、主に日本ですが、ソーシャルインパクトのあるスタートアップに対してインパクト/ESG投資をするというようなファンドを運営し始めています。

導入のところで「われわれがなぜこういうファンドをしているか」という背景をご説明することで、「ESG/インパクト投資というのは何なのか」という導入のご説明とさせていただければと思います。

昨今、特にアメリカやヨーロッパを中心に言われ始めていた話として、資本主義の仕組み、短期・中期経済利益のみを追求するような投資の仕組みや経済活動のインセンティブ構造の副作用として、いろいろな社会問題が広がってきているという見方があります。日本でも、「新しい資本主義」というような言い方の中で、その政策の中で1つこういったところもアドレスし始めているんですけれども、こういった問題をなくす、もしくは、こういった問題を拡大しないような資本主義や経済活動のインセンティブ構造を考え直したほうがいいのではないかという議論が、アメリカのラウンドテーブルやヨーロッパのダボス会議でもすごく盛んにされ始めています。そして、その解決策と言いますか、変えていく手段がインパクト投資であり、ESG投資です。両方まとめて、大きい絵で言うと「サスティナブル・ファイナンス」と呼ばれるんですけれども、そういったものの促進、こういった投資の仕方がある意味当たり前になっていくことが必要ではないかと言われ始めています。

われわれは、日本でこういったファンドがなかなかない、かつ、ノウハウもないという中でしたので、サイズは小さくとも、ある意味新しいやり方でそういうことをやっていく1つの例として、われわれが日本でこういったものを大きくしていきながら、かつ、それを世界に発信できるようなファンドになっていけたらということで、今、アメリカと日本の両方で活動しております。

傍島:中村さん、これは誰か1人が言い始めたことなのですか。環境の問題など、何かトリガーがあったのですか。

中村:そうですね。最初は結構アカデミアから出てきたようなところがあります。例えば、私が行ったビジネススクールで有名な教授がいるんですけれども、特に環境問題や貧困を過去100年200年遡って見たときに、そこの拡大していくスピードや変遷と、ビジネスの動き、GDPの成長などと非常にリンクしていて、そういったところが問題になってきているというところは、学者たち、有名な本で言いますとトマ・ピケティさんが本で少し触れていたと思います。そういったところから始まっているというのが5~6年前からの動きになっています。もっと言うと、10年ほど前から国連中心に取り組み始めてはいるんですけれども、さらにそれがどんどん大きくなってきたというのが5~6年前からになっています。

傍島:ありがとうございます。

インパクト投資とは?

中村:では、その中でもよりインパクト投資にフォーカスして、簡単にご説明できればと思います。インパクト投資とは、これはいろいろなところで使われている定義であり、図ですけれども、こういった定義がされています。まずは投資目的のところで、社会的インパクトと経済的リターン、両方を追求する投資のことをインパクト投資と言います。GIIN(ジーン)というアメリカのインパクト投資協会のようなものがありまして、正式にこういう定義を英語で出しています。投資の目的としてこういった目的がありますので、もちろん投資判断のところに通常のIRRに加えて社会的インパクトを組み入れた判断をしますし、投資後のサポートの企業価値向上のところでインパクト達成の進捗やインパクトリターンの達成もサポートしているというのがインパクト投資の基本的な考え方ややり方になっています。

ここから詳細になっていくんですけれども、こういうインパクト投資という考え方がアメリカでだいたい20年ほど前から始まりまして、徐々にどんどん雪だるまのように大きくなってきているというのが今の世界の状況です。その大きくなった背景としていくつかありまして、1つは、こう言うと少し現金ですけれども、インパクト投資のような投資の手法が普通に儲かるようになってきたというところがあります。そうすると、やはりこれまでファイナンシャルセクターでやってきた人たちもどんどん入ってきて、それでどんどん大きくなってきているというのが特にこの5年以内、もっと言うと3年~4年の流れになります。

その背景として、いろいろなテクノロジーの進化もあって、インパクトと経済リターンを両立できるようなスタートアップ、とても伸びるのですが、社会課題もとても解決しているスタートアップがたくさん出てきたというところがあります。例えば、アメリカで言うとTESLAや、BEYOND MEATです。BEYOND MEATは植物代替肉のスタートアップで、アメリカにいる人はよくご存じだと思います。日本ではあまり有名ではありませんが、数年前に上場したときに過去20年で一番成功したIPOと言われて、初値の上昇率が非常に上がりました。そういったものがありますし、今、アメリカのいろいろなところ、本当に日常で見かけます。ピザハットやハンバーガーチェーンとコラボレーションしています。日本で言うと、これは意外に思われる方が多いのですが、例えばメルカリさんです。メルカリさんは「日本のスタートアップの中で最も成功したスタートアップ」と言われていますけれども、最近になってサーキュラーエコノミーやリユースというところをすごく押し出し始めています。もともと山田さんの創業時の思いとして、そういったところもありましたが、当時、市場でそんなにウケないこともあってあまり出していなかったのですが、最近また出しているところがあります。

小川:メルカリが一番やはり私にも馴染みがあるなと思いました。

中村:そうですね。

傍島:確かに。

中村:こういう会社が出て来たので、TPGやKKRといった、いわゆるアメリカのグローバルでザ・資本主義のようなファンドの人たちがどんどん投資し始めているというのが今の状況です。少し話が長くなってしまいますが、そういったこともあって、インパクトファームのファイナンシャルリターンもマーケットと同等、それ以上のものも出始めているような状況ですね。

一見、インパクト投資、社会企業と言うと、日本赤十字やJICA、ユニセフといった会社をイメージする人が多くて、まったく高プロフィットでない、儲からないというイメージを持つ人がすごく多いのですが、そこが非常に変わってきているというのが今の状況ですね。

傍島:中村さん、これは、TESLAやBEYOND MEATなど、こういうところへの投資そのものがインパクト投資と呼べるということですよね?

中村:そうですね。

傍島:ですよね。そうすると、逆にインパクト投資じゃないものってあるのですか。何となく最近こういう企業ばかりが多いイメージがあるので、逆にインパクト投資ではないというのはあるのかなと素朴に思ったりしました。

中村:そうですね。従来的に言われているのは、例えばゲームセクター、あとはタバコ、お酒、ギャンブル、そういったものはスクリーニングされてきた傾向があります。ただ、ゲームも最近はエドテックの文脈で教育をゲーミフィケーションしてあげたり、ゲームをしながらお金をそれで稼げるような労働提供するものも出てきていまして、そこも徐々に変わってきているというのはありますが、おっしゃる通り、かなり実は多くのものがインパクト投資の対象になり得る企業として存在するというのが実際のところですね。

傍島:そうですよね。ますます加速しているのかもしれないですけれども。そうすると、社会的インパクトは「何が社会的インパクトなんだ」という定義のようなもの、後ほどあるのかもしれませんけれども、どういうふうに向き合うかというのが大事になるところですかね。

中村:おっしゃる通りですね。何を社会的インパクトと考えて投資をするか、それまでのインパクトと考えて投資後のサポートをし、成功・不成功をジャッジするか、そういうところが非常に重要になってきます。

傍島:なるほど。

中村:では、少しそのまま続けますね。これは繰り返しになってしまいますけれども、すごく大きいアメリカのファンドが2018年頃から一斉にインパクトファンドを始めました。それまでは、どちらかと言うと本当にファミリーオフィスや慈善事業に近い人たちがずっと行ってきていたものを、彼らが受け継いで急に大きくし始めたというのが2018年頃です。彼らが2号ファンドを最近またレイズし始めて、それこそ1つのファンドで1,000億円、数千億円の規模になっているといったことが今起きています。日本にも少しずつ来ている状況ではありますが、まだまだ日本では足りていないという状況でした。

ただ、日本の状況を言いますと、去年、今年辺りから非常に拡散しています。官民の連携があって、金融庁や経団連さん、内閣の「新しい資本主義」の中でも述べられています。かつ、民間の中でも「インパクト志向金融宣言」という宣言に30社以上の金融機関が署名して大きくなり始めていますので、まさに今、これから大きくなっていくところ、まさにこれから成長していく段階に来ているところになります。

小川:ここまででご質問ある方がいらっしゃいましたら、ぜひお寄せください。お待ちしております。

中村:随時、質問はチャットボックスQ&Aに入れていただいてまったく問題ないです。

小川:はい、ありがとうございます。

中村:続けても大丈夫ですかね。

小川:はい、お願いいたします。

インパクト投資とESG投資の違い

中村:分かりました。ここから、より一歩踏み込んで、インパクト投資、ESG投資、SDGs、いろいろな言葉が世の中に出回っているんですけれども、何がどう違うのかというところを簡単にご説明させていただければと思います。結構、これは普通にプロフェッショナルで、金融機関でこういうことをしている人も含めて混同している人が非常に多いのが実情だと思っています。今日のこの1時間の中でたぶん一番重要なスライドと言いますか、一番ここをtake awayとして持っていっていただけるといいかなというのがこのスライドになります。

まず、私から違いを簡単にご説明します。インパクト投資、ESG投資と両方ありますけれども、インパクト投資は、どちらかと言うと投資先の会社がその事業を通じてどういう社会課題を解決しているかというところを見て出資をする、いわば、投資先の会社が社外の課題をどう解決しているかを考えて投資をするものになります。それに対してESG投資は、どちらかと言うと投資先の社内の話をどうしていくかというような話になります。例えば、投資先の会社が、EとSとG、環境・社会・ガバナンスの文脈で何か問題を起こしていないか、もしくはその問題があったとして、それをどう小さくしていこうと取り組んでいるか、そういったものを評価するのがESG投資になります。

ここの4つのクエスチョンがあるんですけれども、それぞれインパクト投資、ESG、どちらにより当たり得るかというところを簡単に考えていただければと思います。まず1つ目のグループとして、クリーンテック、環境問題、いろいろなことを言われていますけれども、CO2やGHG(Greenhouse Gas)を排出しないクリーンテック事業を行っている企業、スタートアップ、こういったものに投資をするケースが1つあるとします。2つ目のケースが、自分の会社におけるCO2の排出量を算出・モニターして、それを削減していくように目標設定している製造メーカーさん、これに投資をしてエンゲージメントしていくというものです。正確に言うとどちらがどちらかというところを簡単に、まず1つ目ですが、何かお分かりになったり、guessありますでしょうか。

傍島:どうですか、小川さん。

小川:えーっ。少し難しいです。

傍島:クイズになっていますけれども、やばいですね。(笑)1番目のところは、外に対してということですよね。自分のところから外に影響がないようにしましょうということですので、インパクト投資ですかね。

中村:そうですね、はい。

傍島:小川さん、2つ目どうですか。中のことをモニターしているということですけれども。自分の中の話。

小川:はい…。

傍島:中だから、ESGですか。

小川:ESG。

傍島:中と外しか全然考えていないのですが、合ってます?

中村:そうですね。そういう考え方になります。これはどちらも若干混ざっているところがあり、明確な完全な線引きにはなりづらいのですが、上に登場するのはどちらかと言うとインパクト投資、下に登場するのはどちらかと言うとESG投資となります。結構ここを混同している方はすごく多くて、ESGと言うといかにもクリーンテック投資の企業だと思っている方が多いんですけれども、実際はどちらかと言うと、こちら(自社)がメインの話になります。

3つ目は、自社の女性社員・幹部比率、女性幹部比率を向上させる大手企業に投資をする、もしくは投資後のエンゲージメント投資でこういうことをしていくのはESGか、インパクトかという話です。4つ目のケースとして、例えば、女性の社会進出を応援するための、女性のためのLinkedinのようなものを運営する企業、アメリカで結構ありますけれども、モーグルなどユニコーンになり始めている会社がありますが、女性が幹部になれないといったことの1つの原因として、やはり女性のキャリアの選択肢や、そこにリーチアウトするリソースが足りないという問題を感じて、女性のためのキャリアサイトを運営するスタートアップ、これはESGか、インパクトかという話です。これはどちらだと思いますか。

傍島:小川さん、いってみますか、どうですか。(笑)

小川:えーっ。これはすごく難しい。

中村:難しいですよ。なかなか事前に背景・知識がないと難しいかもしれませんが、これも簡単に答えてしまいますと、上がESGで下がインパクトの話になります。

小川:違うんですね。

中村:はい。そうですね。このように上から、インパクト、ESG、ESG、インパクトとなります。これを見れば分かる通り、基本的に1つ分かりやすい考え方としては、自社の問題をどうしていくか、もしくは社外の問題をどうしていくか、というところでESG、インパクトというところが変わってきます。それに応じてインパクトをどう測るか、ESGをどう測るかというところも変わってくる、ここがまず一番重要な根本的な出発点になるというところですね。

傍島:難しいですね。一番上の例は自ら出さないからESGかなと。最初迷ったのですが、そんなことはないですか。

中村:そこはおっしゃる通り、上の場合は両方混ざっているケースもあります。例えば、シェルのように大手の化石燃料がメインのエネルギー企業があります。その会社が化石燃料の今のビジネスを9割だったものを、とても減らして、彼らのレベニューの9割を逆にクリーンテック、太陽光にするような大変革が起きたときに、シェル、その会社はインパクトの会社にもなり得るし、その改革の過程についてはESGにもなり得るというようなところですね。

傍島:なるほど。対象によっては両面あるということですね。

中村:そうです。

傍島:なるほど。いや、考えたことなかったです。セミナーを企画したタイミングでも同じかと思っていました。(笑)

中村:そうですね。そこは非常にconfusing(分かりにくい)ところで、結構、市場ではこれを全部ESGだと思っている方が多いです。最近よくある論調として、特にアメリカではESGに対するバックラッシュのようなものが起きているんですけれども、その1つの理由が、ESGって何でもできるかと思ったら、こういう話が漏れているじゃないかという、結局、投資家にとってのリスクを分析するだけのレーティングシステムであって、それが社会課題解決をするかと思ったら片手落ちだったというようなことを、例えば、先々週ですかね、『The Economist 』で書かれていたり、『Financial Times』でも先週記事に出ていましたけれども、そういう話になっているというのはありますね。

傍島:なるほど。中のことだけきれいにモニターしてきれいになっても、社外に対しての影響がなければ意味がないじゃないかということですか。インパクト投資に対してもきちんと目を向けてというか、見ましょうということですかね。

中村:そうです。われわれのポジショントークとしては、ESGだけでは足りないのでインパクトが必要だと。もともとの社会変革の背景、一番上のここの問題の背景を考えると、やはりESGだけでは足りないので、インパクトもやはり必要だというのはすごく思っているところではあります。

傍島:なるほど。分かりやすいです。ありがとうございます。

視聴者からのQ&A Part1

小川:ありがとうございます。それでは、ご質問もいただいているようですので、私のほうからお読みいたします。「あらゆる業界にインパクトが含まれているというお話だったかと思いますが、他方で何をもってインパクトなのかという点は重要であると感じます。場合によってはSDGsウォッシュのようなことがインパクト投資でも起こるのではないかと思いますが、その境界はどこにあるとお考えでしょうか」ということですが、中村さん、いかがでしょうか。

中村:そうですね。非常に重要なポイントだと思っていまして、いくつか説明の仕方があると思います。まず、投資家としてSDGsウォッシュやインパクトウォッシュをしないために一番重要なところは、ここに立ち返るんですけれども、投資目的として本当に持っているか。投資判断として本当に決め込んでいるか。そして、エンゲージメントとして行った上で、投資後のExit後の評価のところで本当に評価しているか。さらに言うと、その評価と報酬が連動しているかというところが非常に重要になります。世の中で最近非常によくある問題でもあり、better than nothing(何もないよりはマシ)ではありますが、言われ始めているのは、このSDGsウォッシュのような話です。1つ、SDGsウォッシュの方向性として私が個人的に問題だと思っているのは、ここの投資、事業目的、これは事業会社にとっては事業目的、事業のやるやらないの判断や評価ですけれども、こういったところにSDGs的な話をきちんと組み込んでいないのにもかかわらず、要は、これまで通りすべてIRRで行っているにもかかわらず、それで生み出された事業、それで運営されている事業にもかかわらず、統合報告書のようなIRR資料で、あとから見たら取りあえずSDGs的な話も言えるからSDGsスタンプを押しておこうというかたちでラベリングするところがとても多いということです。というか、それがほとんどというのが今のトレンドだと思っています。そうすると、このSDGs的な話は副作用的に生じているけれども、本当にそれを行っている理由はIRRでしかないので、SDGsの創出がサスティナブルではないんですね。たまたま出てきていると。そして、ファイナンシャルの状況に応じて撤退したり、全然違う方向に行ったりするところですので、まずここが一番重要なところです。もっと言うと、このあとに少しご説明できればと思いますけれども、そもそもSDGs的な話をどう測るか、何をもってインパクトとするか、ここを設定していくところがよりテクニカルな話としては重要になってきます。

小川:ありがとうございます。では、もう1つご質問をお読みいたします。「海外のインパクトレポートを見ると、人的資本経営のような内部指標の改善と、事業における環境、社会的変化の両方が混ざって語られることが多いと思うのですが、実際のところ、海外のトレンドはどういう認識になっているのでしょうか。意外と社内指標の健全化=インパクトと語られるようなレポートが多いなと感じています」というご質問ですが、いかがでしょうか。

中村:おっしゃる通りですね。この方もすごくこの業界でお仕事されている方だと思います。非常にプロフェッショナルな質問だと思いまして、おっしゃる通りです。このESGとインパクトが完全に混ざっているところ、企業の報告書もそうですし、場合によってはファンドの報告書もすごく多いです。ここで言う人的資本経営のような内部指標の改善、これは完全にESGの話ですし、事業による社会環境変化の話はインパクトの話ですけれども、やはりそこが混ざっているものが多いです。

と言いながら、混ざっていてはだめということはもちろんなくて、両方をきちんと認識した上で使い分けて発信していくことが重要だと思っています。企業の統合報告書やマテリアリティセッティングの話で言うと、意図的に両方を考えて、その上でマテリアリティの設定やアクションの設定をしていくので、この両方があることは私としては重要だと思っています。

海外のトレンドという意味で言いますと、海外でようやく「ESGとインパクトって違うよね」ということがみんなだいたい分かり始めてきた、というのが今の段階です。日本では、市場関係者含めてほとんどまだ混乱しているところだと思っています。

傍島:現状は、分かっていて行っている人と、もしかしたら分かっていない人もいるかもしれないということですね。

中村:そうですね、はい。

傍島:なるほど。

中村:最後、社内指標の健全化=インパクトと語られるようなレポートが多いというところはESGの話ですので、ESG、社内指標が健全化することはとても大事ですけれども、そこもやはり混同していることは問題になるかなと思います。要は、それをどう経営に組み込んでいくかによって、それをどうrealize(理解)していくかが変わってくるので、そこが混同したままだと問題があるかなと思っています。

小川:ありがとうございます。では、3問目のご質問、よろしいでしょうか。「インパクト創出を考えた際、経済的インパクトとの相関が考えやすいインパクト指標と、そうでない指標でグラデーションがあるかと思います。インパクト投資界隈でも取り上げられやすい分野とそうでない分野で一定の分断が生まれる中、取り上げづらい指標への投資やモニタリングは、誰がどのような機能を持っておけると良いのでしょうか。フィランソロピーによる寄付など、日本はまだまだ活動が弱いと認識していますが、そのような機能を同時並行で広げていくことが必要でしょうか。ほかにもあればお願いしたいです」というご質問です。

中村:そうですね。これも非常に深い質問ですね。まったくおっしゃる通りで、相関を考えやすいものと出にくいもの、あと、測りやすいものと測りにくいもの、そして、かなり先行するものもあれば劣後するものもある、というのが今の状況です。

測りやすいものや相関がありそうなもので言うと、やはり、CO2やGreenhouse Gasをどう減らしたかというようなところは非常にやりやすいですね。そもそもCO2は定量的にできていますし、TESLAのようなケースでとても売上にも直結する、売上×1台あたりのCO2減が計算しやすいというのはあるので、そういったところはどんどん進んできています。

一方で、取り上げにくい、測りにくい、相関も出しにくいところで言うと、よくあるのが人々の主観的な感想といった話です。例えば「この商品を使って私は幸せになりました」といったものは、やはり劣後していますね。それはどうなっていくかというところですが、今、特に海外などでインパクト投資界隈の1つの動きとして、そういう分かりにくいインパクトを測定するための調査会社やコンサルが出始めていますし、大きくなってきています。私も今、日本で1つ、アメリカの調査会社を日本で活用する1つの事例を進めています。今年の後半にリリースできると思いますが、そういう専門の第三者機関かつ調査会社がきちんと調べるということが非常に重要になってきます。

一方で、ある程度産業が育たないとそういう人たちにお金を払えないので、そこが発展していかないというところもあります。ですので、やはり投資家がどんどんインパクトを気にするようになって、自分たちのインパクトを測ることにお金を払えるようになっていくことが非常に重要だと思います。アメリカの例で言うと、TPGという巨大なファンドがそういうものを測る指標のつくり方と測定機関を1つのコンサル会社と一緒に提携してつくったりしているので、そういった例が、よりファンド、産業が大きくなっていくにつれて今後出てくるのではないかと思っています。

傍島:なるほど。やはりビジネスができないといけない部分も若干ありますね。

中村:そうですね。

傍島:どうしてもね、ビジネスが。なるほど。

小川:ありがとうございます。ご質問をいただいた皆様もありがとうございます。それでは、一旦ここで資料のほうに戻りまして、中村さんから引き続きご説明をお願いいたします。

インパクトの測定方法

中村:はい。分かりました。ここから「インパクトをどう測るのか」について概論をご説明できればと思います。まず、よく使われるフレームワーク、これは非常に簡単なメモのような図ですけれども、非常にハイレベル、抽象概念的な話になります。まず、この図ですね。これはロジックモデルと呼ばれますが、インパクト投資界隈でよく使われるフレームワークになります。これを用いてインパクトを定めて評価していきますが、具体的にはActivity・Output・Outcomeのフレームワークと言われていまして、まず、Activityのところで投資先の企業の活動内容、タスクを定義します。Outputのところで、この活動によって生み出された商品・サービスの何が生み出されてどれぐらい生み出されているかというところをトラックします。Outcomeのところで、この生み出されたものの結果、どういう社会変化が起きたかというところをトラックするのが3段階目になります。

具体的な例で言うと、このTelemedicineと言われているオンライン簡易医療アドバイスをしている、Zoomで医療行為をしているスタートアップがあったとします。その会社のActivityは今申し上げたようなところです。Outputとして、この会社が1カ月で1,000人に対して1,500時間のオンラインアドバイスをしましたというのがOutputです。Outcomeとしては、1カ月、1,000人、1,500時間の結果、このサービスがなければ、例えば病院まで遠すぎて行けない人や足が悪くて病院に行けないといった人たちが600人医療サービスを受けることができて、そのうち500人が健康改善を報告しましたというのがOutcomeになります。インパクト投資では、ここのOutputとOutcomeのところでそれぞれインパクトKPIのようなものを設定して、例えば、この会社に投資するときに、今の投資前の会社が1カ月、1,000人、1,500人という数字ですけれども、例えばExitする5年後にはこれが5,000人になっていて、1万時間になっていて、これがまたそれに応じて増えていく…といったことをプロジェクションして投資判断をする、かつ、投資後はそこに達成するようにモニタリングやサポートをして、Exitのときに本当に計画通りに増えていったかというところで投資の成功・不成功を判断する、というようなことが基本的なインパクト投資のやり方・考え方になります。

もう一歩踏み込むと、いろいろ実際に行うと難しいところがあります。特に難しいのが、このOutcomeの設定と測定ですね。先ほどの質問にもありましたけれども、この例の場合はすごく分かりやすいです。1カ月で医療アドバイスをして、こういう人たちが医療サービスを受けられたということを社会への良い事と捉えて、それを測っていこうというふうに設定できるので分かりやすいのですが、「そもそもこの事業がもたらしている社会への良い事は何なのか」というところをまず定義付けするのが結構難しいです。そこはある程度社会のコンセンサスのようなところもあるので、よく使われるフレームワークとしては、SDGsやIRIS+というSDGsのインパクト投資版のようなものがあるんですけれども、要は「私たちはこれを社会問題と考えています」というようなリストの存在がまず必要になります。グローバルではこういうものがありますというのが1つですね。

そこが分かった上で600人がサービスを受けて、何人が健康を改善したかというところも実際に調べて取らないといけないので、そういうことを調査する会社として、このLEAN DATA、会社名で言うと、60 Decibelsという会社ですが、そういったものも出てきているというかたちになります。

傍島:そうすると、これは定量的に1,000人だから、1,500時間だから、600人だったからという「量」というよりは、今おっしゃったように、待ち時間を理由に医療サービスを受けられなかった600人だから意味がある、インパクトがあるからという、そういう「評価」も入ってくるということですかね。

中村:そうですね、はい。

傍島:なるほど。曖昧と言えば曖昧なのですね。たぶん定義が先ほどのいくつか参考にするものはあるとは思うんですけれども、ある人にとっては、ここの待ち時間で医療サービスを受けられなかった人よりも、もっとこちらの人のほうが救うべきだという声があったりするのも何となく想像できるんですけれども、そこはやはり何かしらのリファレンスをもって、こうこうこういう理由で、こういう人たちが困っているから、もしくはインパクトを与えられるからということですよね。

中村:そうですね。特に、例えば「病院、ヘルスケアかつ診療行為のセクターでは何を解決するのが重要なのか」ということをリスト化しているのがこのIRIS+になりますね。

傍島:なるほど。では、リファレンスはあるということですね。その中から最もインパクトがあるところ、最も数なりの影響を与えられるところは評価が高くなっているという感じですね。

中村:そうですね。このIRIS+の使い方としては、例えば自分の投資先がヘルスケアで、オンライン医療サービスであるということが分かっている場合に、IRIS+にもセクター分けがいろいろあって、同じセクターのところを選ぶと、「そのセクターだったらこういうことを測ったらいいでしょう」といったリストが出てきます。それをインパクト指標と言ったりしますが、そういうものがあります。これを使いながら世界のインパクト投資家はこういう指標を設定をしたり、日本についても、少しここにも書いたんですけれども、金融庁や経団連がこういう指標を、ある意味パイロットをサンプル的につくり始めているので、これからよりコンセンサスビルディングがされていくところかなと思います。

傍島:なるほど。ありがとうございます。

中村:そうしましたら、先に進めましょうか。もう1つ、これは補足ですね。混乱してしまうかもしれませんので、あくまで補足ですけれども。こういう考えでインパクト評価を、非常に大きいピクチャーで言うとこの図のように行っています。より具体的なところで、IMPと呼ばれるインパクト測定方法のガイドラインがあります。これは非常に細かいところまで書いているガイドラインで、細か過ぎるので今日はあまり触れないようにしますが、ご興味ある方は見てみてください。本当に簡単に言うと、インパクトを5つの切り口で見るべきだということを提唱しているガイドラインになります。これが結構グローバルなコンセンサスを獲得しつつありますので、1つ重要なガイドラインになるところです。ここまでにしておきます。

小川:ありがとうございます。

視聴者からのQ&A Part2

中村:というところですかね。一旦ここで質問にご回答しましょうか。

小川:ありがとうございます。では、ご質問をさせていただきます。「投資判断におけるインパクト判断というお話がありました。現状さほどインパクトDDをされている投資が多くない状況があるかと感じております。実際にインパクトDDをされている立場から、コスト面での負担も感じているかと思いますが、真にインパクトを捉えた投資の拡大のため、現況のネックはどこにあるとお考えか伺えないでしょうか」ということです。

中村:そうですね。おっしゃる通りで、実際のインパクトDDまできちんと行っているファンドは今とても少ないと思います。どちらかと言うと、SDGsウォッシュに近いのですが、自分たちの投資ポートフォリオにSDGsラベルを貼るといった行為はどんどん出てきていますけれども、判断まで組み込んでいるところは少ないですね。なぜそれができないかと言うと、コスト面も含めていくつかあります。一番やはり大きいのはケイパビリティビルディングと言いますか、「そもそもそれどうやるの?」というところの知識・情報・知見、そういったものが、日本で言うと圧倒的にやはりまだ不足していると思います。このIMPもIRIS+も両方アメリカのガイドラインですし、いろいろやはりアメリカとヨーロッパから来ているので、日本からするとやはり少し情報を取りにくいというのはあります。まず、業界の課題としてはそこが1つですね。

もう1つは、実際にそれが分かったところで、小さいファンドですとコスト面の負担があって難しいよねというのはもちろんあります。われわれはまさにそういう小さなファンドですので、やれるところ、軽量化できるところは軽量化しつつ、重要なところはきちんと取り組むというようなかたちで走り始めていますが、われわれ側のコストもそうですし、投資先側のコストもありますね。彼らがこういったものを事前に準備しなければいけない、買ったりしなければいけない。そういったものもありますので、実際に投資前のときに、ある意味こういうインパクトの仮説、ロジックモデルをつくったり、仮説のOutput、Outcomeの資料をつくったりしながら進めてはいるというところがありますね。

ただ、産業がやはり、TPGのケースもそうですけれども、われわれのようなインパクト投資ファーストムーバーの人たちがきちんとファイナンシャルトラックレコードを出せれば、向こう3~5年でファンドサイズも大きくなっていきますので、コスト面は解消されていくのではないかと思っています。

傍島:なるほど。

小川:ありがとうございます。ご質問をもう1つさせていただきます。「IRIS+などを拝見すると、おっしゃる通り、SDGsの達成に寄った内容になっていて、飢餓改善や識字率向上など日本で応用しづらい指標もある印象です。途上国の社会問題などに寄っているイメージ。日本の社会問題と海外の社会問題は少し状態も発生要因も異なっていると思うのですが、日本で応用しやすい指標として好ましいものは今ありますでしょうか。また、海外の指標のどの点をどのように変えていくと、日本においても適用しやすくなると思いますでしょうか」ということです。いかがでしょうか。

中村:これは、私もまったく同じ問題意識を持っています。SDGsもIRIS+も途上国開発から出来上がった指標ですので、やはりインド、アフリカ、東南アジア、こういったところの社会課題からできているんですね。そういったところに投資をするDFI(開発金融機関)や世界銀行、日本で言うとJICAさん、そういったところからやはり派生してきているところもありますので、これはもう書いてある通り、飢餓改善、識字率向上、教育分野で言うとカタログの中に識字率向上といった話がたくさん出てきます。また、われわれは農業系の会社に日本で1社出資していますが、そこで本当に顕著ですが、われわれはやはりIRIS+やSDGsをもとにここのOutcome設定をしようとし始めていますが、やはり半分ぐらいは参考にならないです。なぜかと言うと、海外、途上国の農業の問題というのは、一番は小作農が搾取されている現状に対する問題です。要は、日本でも昔あったと思いますが、大規模な大きい地主の人たちが何も持たない小作農を本当に奴隷のように扱ってサスティナブルではない、もしくはいろいろなそれに関する問題が発生していると、それをどう変えていくかといったところを測ろうとさせるのですが、日本の農業問題は、一番は高齢化です。平均年齢56歳。

傍島:だいたいそうですね。

小川:そうですよね。

中村:新規就農、若くて新しく農業を始めようという人たちが1代目で入る場合は入りにくい、あとは化学肥料による環境問題、あとはフードロス、流通におけるフードロス、この辺も世界一レベルになっているので、こういうところが全然違うんですね。じゃあ、どうするかという話で言うと、1つは、先ほど申し上げた、経団連や金融庁が非常に先進的にインパクト指標を出し始めているので、それも見てみましょうというのがまず1つあります。

もう1つは、ある意味インパクト投資は日本における黎明期ですので、今、インパクト投資をしているわれわれが、この質問者の方も行っていると思うのですが、今携わっている人たちがつくっていくべきだと思うんですね。それこそ、日本の社会のコンテキストに合ったインパクト投資の指標をIRIS+やSDGsも参考にしつつ、自分たちで独自に行っていく。その上でわれわれ含め、行っている人たちが情報共有したりしながらコンセンサスビルディングをして、日本に合ったインパクト指標をつくっていく必要があると思っています。そういうところですかね。

小川:ありがとうございました。それでは、ケーススタディについて資料をお願いいたします。

ケーススタディ

中村:はい。残り10分を切っていますので、1つだけアメリカのケースを持ってきました。これは公開情報をもとにつくっています。KKRのグローバルファンドを取り上げています。これは結構インパクト投資村にいる人からすると、KKRは結構表面的ではないかといった話もあります。一方で、資本主義側の人からすると、KKRのこのファンドはだいぶ寄っていったなという見方もあり、ある意味良い意味で真ん中にいるのと、もちろん当たり前ですが、KKR様ほどのすごい会社ですと、きちんとポイントを押さえられているので1つ参考になると思います。かつ、情報公開もきちんとしていますので、取り上げています。

簡単に3~5分ほどでかなりクイックに説明しますと、このKKRのファンドは、まず投資テーマとして気候変動や生涯学習、大人になってもずっと学び続けるような仕組み、持続可能な生活、これはサスティナビリティや、あとはinclusivity(包括性)、貧困層の人たちも社会システムに取り入れられたり、そういうことをテーマとして設定して、それに沿って投資戦略やインパクト投資基準などをつくっています。具体的な手法としては、先ほど言いましたIRIS+やSDGsを使って各企業のSDGsターゲットを設定した上で、これは評価手法になりますので投資判断のときにはこういったことを組み込んでいますし、Outputのみならず、Outcomeも測定します。先ほど言いましたOutputのところ、ここだけではなくてOutcomeも行っていくということを重要視しています。

Outputはやはりすごく可視化しやすいので、Outputだけのファンドもあります。better than nothingだと思いますので、スタートポイントとしてはすごくいいと思いますが、Outcomeを行っていくことで本当により意味があるし、よりウォッシュを避けていくことができると思っています。

それで、いろいろな会社に出資して、ファンド全体のレポートで「こうでした」といったことを発表したりしています。1つ、彼らのレポートに出ていたものを和訳しました。この「Graduation Alliance」という、高校生の卒業後の就労支援や教育といったことを行って、inclusivity(包括性)ですね、こういう高卒の学生や中退してしまったような人たちがきちんとキャリアを積んでいけるような教育を行っている会社に投資をしました。Output、Outcomeでいろいろとこのような、何人の高校生を指導したか、その結果、どれぐらい時給が上がったか、その結果、州の平均と比べてどれぐらい彼らの生徒がOutperformしたか、そういったことをOutcome指標で明確にセッティングして、定量的に計測しているというものがありました。この辺は非常に、これもレポートで出されている部分ですので本当はもっと細かく計測したりしていると思いますが、概念的にはこういったことをしていますというのが、最後に1つ具体例でご紹介させていただきました。

小川:ありがとうございます。もっとお話をお聞きしたいのですが、それでは最後に中村さんから簡単にまとめをいただいてもよろしいでしょうか。

まとめ

中村:はい。インパクト投資は、私はポジショントークが半分入っているかもしれないですけれども、今後さらに増えていくと思っています。理由はいくつかありますが、1つあるのは、やはりKKRやBain Capital、TPGといったファンドが1,000億円、数千億円単位で投資し始めたのが2018~2019年頃で、彼らのExit益含めたトラックレコードが出始めているのが去年、今年、来年です。KKRは去年までで非常に儲かって、IRR 60%といったかたちでこのグローバルファンドは出ています。そうすると、何が起きるかと言うと、やはり市場関係者の中でインパクト投資は儲かるということが明確に分かってくると思うんですね。そうすると、ファンドにお金を出すLPももっと出しやすくなりますし、GPもほかのGPも含めて発展していくということが起きてきますので、「やるやらない」の境目はもうとっくにアメリカでは超えていて、「どう行う」ももうほぼ超えていて、あとは「結果待ち」という状態まで来ているところだと思います。

日本については、「やるやらない」のところで、今、議論がようやく少し「どうやるの」に動き始めたところですので、遅れていますけれども、やはり金融業界も結構アメリカの影響力はすごくね、もちろんご存じの通り、とても大きいので、それに動かされてすごく変わっていくのではないかと思っています。

小川:ありがとうございました。それでは、あっという間にお時間となってしまいました。本日の01 Expert Pitchはこれで終了とさせていただきます。中村さん、傍島さん、本日はどうもありがとうございました。

中村:ありがとうございました。

傍島:ありがとうございました。

以上


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