グローバルIoT 最新事情
▼ こんな方にオススメ
- IoT分野、DX分野に興味がある方
- CVC担当、新規事業担当
- 世界における最新のスタートアップの取組み状況と未来を知りたい方
▼ エキスパート
安川 健太 氏:株式会社ソラコム 最高技術責任者 兼 共同創業者
世界中のヒトとモノがつながり共鳴する社会の実現を目指し、株式会社ソラコムを共同創業。大学院ではIPネットワークのQoSに関する研究、その後外資系テレコムベンダーでテレコムとWebの協調やM2M/IoTに関する研究開発。2012年にアマゾンデータサービスジャパンに転じ、AWSソリューションアーキテクトとして数多くの国内企業のクラウドシステム設計支援を実施した後、シアトル本社に転籍しNoSQLデータベースの開発チームにて開発に従事。
- 01 Expert Pitchとは?
- ソラコム 安川 健太氏プロフィール
- Internet of Things (IoT)とは?
- IoT世界の最新事例(スタートアップ紹介)
- 北米で主流になっている通信方式
- ソラコム社の役割
- ソラコム顧客事例
- まとめ
小川:それでは 12時になりましたので、01 Expert Pitch第11回を始めてまいります。「シリコンバレー初 世界のエキスパートが最新情報を日本語で解説」ということで、本日はこれまでに参加者の方からご要望の多かった「IoT」をテーマに「グローバルIoT最新事情」をお送りしてまいります。
さて、今回は株式会社ソラコム 最高技術責任者 兼 共同創業者 安川 健太さんをエキスパートとしてお迎えしております。安川さんはシアトルからのご参加ですよね。
安川:はい、そうです。シアトルからジョインしております。安川です。皆さん、今日はよろしくお願いします。
小川:よろしくお願いいたします。そちらは今、何時ですか。
安川:こちらは今、夜の8時です。
小川:ありがとうございます。安川さん、車がお好きということで。
安川:そうですね。(笑)実は今日は祝日で休みなんですね。ですので、実は先ほどまで車をいじってたりしました。慌てて準備してきた感じです。
小川:うわー! ありがとうございます。それでは本日はよろしくお願いいたします。
安川:よろしくお願いします。
小川:そして、本イベントの主催者であります、Tomorrow Access, Founder & CEO 傍島さんです。本日もよろしくお願いいたします、傍島さん。
傍島:よろしくお願いします。
小川:そして、私、今回から本イベントのナビゲーターを務めてまいります、フリーアナウンサーの小川りかこと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
安川・傍島:よろしくお願いします。
小川:ありがとうございます。3拠点、それぞれ違う場所にいるのに繋がっているということで不思議な感じですけれども、とてもワクワクしております。よろしくお願いいたします。
01 Expert Pitchとは?
それでは早速ですが、傍島さん、この01 Expert Pitchイベントの狙いなどを少しお話いただけますでしょうか。
傍島:はい。あらためまして、Tomorrow Accessの傍島と申します。よろしくお願いいたします。Tomorrow Accessという会社はシリコンバレーを拠点にしたコンサルティング会社で、主に日本とアメリカの会社様のクロスボーダーのビジネスのご支援をさせていただいております。この01 Expert Pitchは今回11回目になるんですけれども、狙いとしては3つあります。
小川:はい。
傍島:まずは日本とアメリカの情報格差の解消という点、2点目は正しい情報をお届けしたいということ、3つ目が日本語での解説ということです。
1点目は、まずいろいろな日本の会社さんから「シリコンバレーの情報はどうなっているんだ?」というお声をたくさんいただくんですよね。そういった情報を迅速にまず日本にお届けするというのが1点目です。
2点目は、そういった情報が日本にも届いていると思うんですけれども、なかなかアメリカで感じている温度感と日本に伝わっているときの温度感が若干違うなと感じることがあるんですよね。そういったところを今回ご登壇いただく安川さんのような業界のエキスパートの方に参加いただいて、正しい情報を正確にお届けしたいというところが2点目になります。
3点目は、英語の情報がたくさんあるので、もちろん今、情報を入手するのは簡単な部分もあるんですけれども、なかなか英語でやっていくというのは大変ですので、日本語できちんと解説をしてお届けしたいということで、狙いが3つあります。
今回も安川さんにIoTの本当に特にグローバルの世界の最新情報を教えてもらえるということで、私のほうも非常に楽しみにしてまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。
小川:はい、よろしくお願いいたします。そうですね。本当に皆さん、英語でなかなか理解するというのも大変ですので、こういったウェビナーがあると皆さんもとても助かるのではないでしょうか。
それでは、本日のイベントは皆様からのご質問を随時受け付けて進行してまいります。参加者の皆さん、ぜひ安川さんにご質問がある場合はZoom画面の下にありますQ&Aボタンからご質問をお寄せください。随時、私のほうで拾ってまいりますので、ぜひよろしくお願いします。
それでは、安川さん。
ソラコム 安川 健太氏プロフィール
安川:はい。
小川:簡単に自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。
安川:では、自己紹介のページも用意していたので、画面を出しながらお話できればと思います。
小川:ありがとうございます。
安川:私のほうから今日はIoTの世界の事例をということで、特にシリコンバレーを中心に活躍されている傍島さんのウェビナーということもあって、私自身も先ほど小川さんに言っていただきましたけれどもアメリカに住んでいるので、アメリカのスタートアップの事例を中心にご紹介できればと思って準備してきました。
私の自己紹介ですが、安川 健太と申します。ご紹介いただいた通り、株式会社ソラコムのCTO 兼 共同創業者です。簡単な略歴としましては、私はもともと大学を卒業してEricssonさんに入社して、そこの研究部門でコネクテッドカーやコネクテッドホームといった研究プロジェクトに携わっていました。そのあと、Amazon Web Service(AWS)のソリューションアーキテクトとして東京のAmazonの拠点でいろいろな日本のお客様のクラウド上のシステム開発のアーキテクティングトのお手伝いをしたりしたあとに、シアトルで…、それもシアトルなのですが、なぜか、シアトルの本社のデータベースの開発チームに所属していました。それから、ソラコムを創業したという経緯です。
プライベートのほうは、シアトル近郊に住んでいます。シリコンバレーではないのかというところはあるかもしれませんが、アメリカに住み始めたときはシリコンバレーにいました。そのときに傍島さんとも知り合っているので、どちらもカバーしているというところでご理解いただければと思います。
傍島:そうですね。(笑)
安川:それから、車好きというのを先ほども言っていただいたので、書いておきましたけれども、最近、車好きがさらに進んでドリフトを始めました、というところもあります。
傍島:ドリフトですか!
安川:はい。ドリフトというのは車を横に滑らせながら走る感じなのですが、実は日本発祥のモータースポーツなんですよね。
傍島:えっ!?
安川:そうなんですよ。『頭文字D(イニシャルD)』という漫画で結構アメリカでもいろいろな人が知っていて、結構ドリフトのイベントもあって、そこに行くと、日本好きな、日本車に乗っている人たちがたくさん集まって、日本語のステッカーを貼ってある車でドリフトしていたりするので、そんなコミュニティに最近入り浸っています。
シアトルと傍島さんと言えば、われわれもKDDIさんと一緒に出資したBalenaという会社があるのですが、そこに出資するときに1度。
傍島:行きましたね!
安川:はい。傍島さんが前職にいらっしゃるときに一緒に訪問してCEOのアレックスにお会いしたことがあります。
傍島:そうですね。突撃した記憶がありますね。懐かしいですね。(笑)
安川:懐かしいですね。(笑)われわれもアメリカへの展開を始めて、私は2017年に引っ越してきて、そこからアメリカのチームと一緒に仕事をしているんですけれども、来た当初はまだまだ本当に2~3人というチームでした。今、実は結構大きくなっていて、これはソラコムのアメリカチームの集合写真です。
傍島:おーっ、多い!
小川:多いですね!
安川:そうなんですよ。少し日本から来たメンバーも入っているので水増しされていますが、とはいえ、ほとんどこちらのローカルの人ですね。
傍島:ローカルの人ばかりですよね。
安川:そうなんですよ。
傍島:安川さんは真ん中にいる。すごい!
安川:そう。結構ダイバーシティのあるチームが出来つつあって、どんどんビジネスも拡大している感じです。
傍島:素晴らしい!
小川:素晴らしいですね。
安川:自己紹介はこんなところです。
Internet of Things (IoT)とは?
小川:ありがとうございます。それでは、本日は「IoTの最新事情」ということでお話をお伺いしてまいりたいと思います。そもそもIoTとは何なのか。安川さん、ぜひお願いいたします。
安川:はい。「IoT」、そのまま言うと「Internet of Things」という言葉で、「言い直しても分からないじゃないか!」というところはあると思います。
傍島:(笑)
安川:実は、それって別にアメリカと日本の情報格差があるからということではなくて、IoTってまだまだみんな「それって一体何なの?」と思っているというのはあまりアメリカでも変わらないかなと思っています。
小川:そうなんですね!
安川:はい。実は弊社のテクニカルインフルエンサーのニッキーがInstagramで最近の活動を投稿しているのですが、その中で「IoTの勉強を始めました!」といったことを書いたところ、やはりこちらの起業家の人たちからも「結局、IoTって何なの?」という質問が来たりするので、それはアメリカでもまだまだそういう感じなんだと思っています。
これには続きがあって、「結局、IoTって何なの?」というコメントが来たので、彼女が「IoTって何なのか」を説明するInstagramのリールを投稿したんですね。「IoTというのはスマートデバイスをインターネットに接続することです」という説明をしてくれて。「Internet of Thingsだから、ThingsをInternetに繋ぐんだろう」と皆さんも思うじゃないですか。ですので、「まあまあ、それはそうだよね」と思って結構たくさんの方がこれでも納得するかもしれませんが。
ちょっとここで「実は」というかたちで言っておきたいのは、実は僕は彼女と対談したんですけれども、「あのね、ごめん。ニッキー、IoTってデバイスをインターネットに接続することではないんですよ」という話を実はしていたんですね。
小川:なるほど!
安川:彼女も「えっ? 何? マジですか?」という話になったんですけれども。
傍島:私が「マジですか?」という感じです。この業界は長いのですが、違うんですか。
安川:そうですね。いきなり禅問答みたいですが。Internet of Thingsとは、ThingsをいわゆるPublic Internet、the Internetに繋ぐということではないんですね。ちょっと分かりにくいと思いますが、インターネットに繋ぐものだろうと思うじゃないですか。でも、Wikipediaを見ていただくと実は書いてあるんですけれども、「必ずしも、いわゆるPublicな、皆さんが普段スマホやPCで繋いでいるインターネットに繋ぐこと」というわけではないんですね。実際、Wikipediaにも「この名称は誤解を招く」と書いてあったりするぐらいなんです。
傍島・小川:(笑)
安川:とはいえ、「じゃあ、何なの?」と言うと、一辺倒の解釈をするのは難しいことだと思っていますが、僕の解釈としては、身の回りのモノや身の回りで起きているコトがネットワーク化されて、それが繋がり合って相互に影響し合って価値を生む、そういうシステムあるいはコンセプトのことかなと思っています。
「IoTとは」と言いながら、これでもまだ分かりにくいなと思いますので、このあと具体的なスタートアップの事例を交えて、「IoT」というキーワードで皆さんどういうことをやっているのかというところをお話していければと思っています。
傍島:ありがとうございます。実際にモノがインターネットに繋がるということで、例えばそれこそ「スニーカーがインターネットに繋がったらどうなるんだ?」とか、「家の壁に掛かっている時計がインターネットに繋がったらどうなるんだ?」とか、もう本当に「モノがインターネットに繋がる」と実は私も理解していましたので、お恥ずかしいのですが…。でも、確かに。私はアメリカに2015年に来たのですが、2015年、2016年は結構IoTが一気に盛り上がったときだったんですよね。今、7年ぐらい経って倒産しているスタートアップもたくさんいるのではないかなと思います。ここに書かれているように「価値を生んでいるかどうか」というところが、もしかしたらその差分だったのかなと今感じたりしますが、その認識で合っていますか。
安川:そうですね。そこはまさにそうで、「繋いだらおしまい」ではないんですよね。繋いだ先に何がじゃあできるのか、どういうビジネスが生まれるのか、そこがポイントかなと思います。それが1つですね。
もう1つは、凡例を申し上げると、必ずしもPublic Internetに繋がっていないIoTのシステムというのは実はたくさんあるんですね。例えばどこかの会社の管理しているクラウド上のサーバーと、その会社が管理しているデバイスだけがネットワークで繋がっている。それでもいろいろなデータを集めてクラウド上のAIロジックがそのデバイスに対して逆にフィードバックを渡して何か身の回りで良いことが起きると、それはそれでもちろんIoTのシステムだし、IoTの良いアプリケーションなんですよね。だから、必ずしも公開、Public Internetに繋がるわけではないというところがもう1つのポイントかなと思います。
傍島:なるほど。Publicな、どこからでも繋がるインターネットだけではなくて、会社の中しか使えないところもあるよということですね。
安川:そうですね。それもあります。
傍島:なるほど。小川さん、イメージできますか。
小川:私事ですが、最近、冷蔵庫を買い替えまして。常にスマホと繋げられる冷蔵庫なんですけれども、それもIoTと考えてよろしいのでしょうか。
安川:はい。それも良い事例だと思います。ただ言いたいのは、その冷蔵庫に誰しもがインターネット越しにアクセスできてしまったら困りますよね?
小川:そうですね。はい。
安川:小川さんの持っている冷蔵庫に小川さんのスマートフォンからアクセスできるのは価値を生むと思いますが、それが世界中のどこからでも誰からでもアクセスできてしまったら困るので、その辺りが結構IoTのシステムをつくるときに皆さん悩まれるところなんですね。その辺りも少し今日は触れられればなと思います。
小川:ありがとうございます。では、具体的にはどういったものなのか。ぜひ、安川さん、お願いいたします。
IoT世界の最新事例(スタートアップ紹介)
安川:はい。では、北米のお客様の事例を中心に、どんな例がありますかというのを見ていきたいと思います。まず、こちらはElectron-to-Goさんというスタートアップです。
傍島:何だ、これは?(笑)
安川:「何だ、これは?」ですよね。(笑)これ、何だか分からないですよね。これだけ見てもね。Electron-to-Goという名前で連想された方もいるかもしれないですけれども、実はこれ、スマホの充電が切れそうでバッテリーがどこかにないかなと思うことがあるじゃないですか。私は実はしょっちゅうあって、そのたびに「モバイルバッテリー忘れたから、また1個新しいのを買わないと」といった話になりがちです。でも、それをみんながやっていたら、どんどん要らないバッテリーが周りにあふれてもったいないので。Electron-to-Goさんはそこに目を付けました。これ実は、1個1個六角形のモバイルバッテリーなんですね。これが街中のいろいろなところに壁に掛かっていて、「スマホで自分の近くにあるモバイルバッテリー、どこか貸出しているところないかな」と探すと、これが案内されて、ここに行くと、勝手に持っていって勝手に繋いで使えるんですよ。それで、使った分課金がされて、戻すとそれが止まるというシステムをつくられています。
傍島:便利!
安川:そう。ですので、無駄にどんどんバッテリーが生産されて、捨てられていかなくてもいいという環境的な良いこともあるし、当然、お金の面でも本当に使いたいときにいわゆるバッテリーをサービスとしてto Goで持っていって使えるというコンセプトで非常に面白いなと思っています。
傍島:この六角形のバッテリーは取り外せるんですよね?
安川:そうそう。そうなんですよ。六角形のものをポコッと取って、スマホに挿したらそこから充電ができて、返すときちんとシステムが認識してくれます。
傍島:充電ステーションのようなものは、よくイベント会場に行くと充電している間ずっとそこで待ってないといけないというのはありますが、これはパカッと取ってできるんですよね?
安川:そうですね。当然、戻してある間に充電されているので、いつもみんなこの完全に充電されているバッテリーを取り出して、使い終わったら返すということができると、そんな事例です。
小川:便利ですね。
安川:はい。実はCEOのナシムに1度会いに行って、大学のキャンパスで最初にこれを実験し始めたときに話を聞いたことがあります。当然、バッテリーがこういう形で使うのにとても都合が良いというか、みんな必要だし、使いまわせるし、良いリソースなのですが、それ以外にも同じようなコンセプトが適用できます。モバイルバッテリーに限らず、同じようなコンセプトが適用できるものだったら、ほかにも応用ができるということで、このモバイルバッテリーは少し特殊なユースケースというところはありますが、すごく応用範囲はもっと先が広がるのではないかなと思っています。
傍島:なるほど。
安川:次も行ってみますか。
小川:はい、お願いいたします。
安川:次は、Remote Care Partnersさんというお客様の事例を持ってきました。これはもうこの写真だけでもえある程度伝わるかもしれませんが、いわゆる遠隔医療、あるいはRemote Patient Care、遠隔で患者さんのケアをするようなところを提供しているスタートアップのお客様です。これは画面左にあるようなハブが家に置かれます。そうすると、このハブが血圧計やいろいろなところからデータを集めてくれて、それをリモートにいるお医者さんや看護師さんが見られて、それをベースに診断やケアができる、そういうサービスを提供されています。これは特にこのコロナのパンデミックもあって、実はヘルスケアのスタートアップやビジネスはわれわれのプラットフォーム上でもすごく伸びていて、北米全体で見るともっとはるかに大きく伸びていると思います。
傍島:すごく伸びていますよね!
安川:そうですね。
傍島:前回もデジタルヘルスがテーマでしたが、すごく伸びているという話でした。
安川:そうなんですよね。やはり医療系はスタートアップがなかなか日本だと参入するのにも難しい障壁がいろいろあって、あまりわれわれも医療系のスタートアップのお客様にたくさん会っている印象はないのですが、アメリカではこの辺もどんどんスタートアップが果敢にチャレンジしていて、しかもどんどんビジネスとして伸びているなという印象があります。
実は公開事例としてお話できるのがこのRemote Care Partnersさんですので今日持ってきたのですが、われわれのプラットフォーム上には結構ほかにもたくさんガンガン伸びている医療系のスタートアップのお客様がいて、ソラコムのサービスを使ってくれています。そこはすごく今、注目を集めている業界だなと思っています。
傍島:なるほど。私が理解がうまくできなかったかもしれないのですが、今、右側にご老人の方が手につけている機械、血圧計みたいなものがあって、ここから左の箱にデータがいくんですか。
安川:そうですね。この血圧計自体は近くにあるデバイス、医療機器としか通信できませんが、彼らが開発したこのスマートハブのところまでいろいろな血圧計などの医療機器がデータを届けて、そこから一度集約してRemote Care Partnersさんのクラウド側にデータを集めるという仕組みになっています。
傍島:なるほど。この血圧計自体がいきなりインターネットにいくのではなくて、ここのハブのところに行ってデータが吸い上げられるということなんですね。
安川:そうですね。
傍島:なるほど。
安川:当然、医療データということでプライバシーの関係もあるし、セキュリティが非常に重要な仕組みなんですよね。
傍島:そうですよね。
安川:これがまさに先ほどの「インターネットに繋げばおしまいという話ではないよ」というところの例の1つです。
傍島:確かに。
安川:完全に安全にRemote Care Partnersさんのクラウド上のインフラとご家庭の機器が繋がって、そことだけ通信ができるという仕組みを確立するのが重要なんですね。その辺りはわれわれのサービスや技術を使っていただいてうまく処理しているという事例になります。
アメリカではHIPPAという、傍島さんはご存じかもしれませんが、いわゆるレギュレーションというか認証プログラムがあって、それで認証されないとこういう医療系のサービスは提供できないのですが、そのときにやはりセキュリティは非常に高い要件を求められます。ですので、単純にこのシステムがインターネットに丸腰で出ていたりすると、当然もうこういうサービス自体がそもそも認証を通れなくて実現できないので、その辺りをセキュアに実現するというところもスタートアップ側の腕の見せどころですし、われわれもお手伝いしているところの1つになります。
傍島:そうですよね。外から血圧計などに、血圧計はモニターするだけですので大丈夫だと思いますが、悪さをして何か健康に被害があるといけませんからね。
安川:そうですよね。よくSF映画やドラマでもありますもんね。医療機器、ペースメーカーに外からハックしてというような話、そんなことが本当にあってはいけないので。
小川:怖いですね。
傍島:本当にありますからね。確かに、セキュリティは大事ですね。
安川:そうなんです。
傍島:なるほど。面白い。
小川:ほかに何か事例はありますでしょうか。
安川:そうですね。いくつか用意しているので、どんどんいきましょうかね。これは分かりやすいユースケースですね。Pebblebeeさんというお客様の事例です。このお客さんはシアトルで、たぶん傍島さんもご存じですよね。
傍島:そうですね。
安川:こちらは、Appleのエアタグなどで結構このユースケースは身近になっているかもしれません。いわゆる忘れ物タグのデバイスで、Bluetoothで繋がって、キーホルダーやペットに付けたりするというのはよくありますし、エアタグもそれをされていると思います。そうすると、どうしても全然誰もいないところに置き忘れてしまったときは全然見つけられないんですよね。
でも、このPebblebeeさんのこの小さいデバイスの中にセルラー通信、いわゆるスマートフォンが使うLTEなど、そういう通信の仕組みを搭載していて、これ単独でネットワーク、いわゆる広域ネットワークに繋がって、「この場所にこのデバイスがあります」という情報を通知できるんですね。ですので、もう本当にこれが世界中、SORACOMのセルラーネットワークが繋がる場所であれば、置き忘れてきても周りに誰もいなくてもデバイスを、財布やペットといった大事なものを見つけることができる、そういうサービスになっています。
傍島:そうですよね。これは本当に携帯電話、この小さいデバイスから普通は携帯電話を踏み台にしてインターネットに繋がるんですよね。
安川:そうなんです。
傍島:そのため、自分が携帯電話を持っていないとこれは繋がらないんですよ。
安川:そうなんですよね。
傍島:もしくは近くに携帯電話を持っている人がいないと普通は繋がらないというものに対して、こちらは直接インターネットに行けるんですよね、携帯電話のセルラーに接続する。違いますよね、全然ね。
安川:そうなんですよね。似たようなBluetooth系のものはあるのですが、傍島さんがおっしゃった通り、そのアプリやそのデバイスを使っている人が周りを通ったときに初めて見つけられるというものですので、なかなか見つからないこともあります。でも、このデバイスはもう本当にその確率をはるかに高くしてくれると思います。
傍島:確かに。
安川:すごいと思う点は、彼らはこの小さい筐体にバッテリー駆動で実はLTEの通信のモデムと通信の技術を詰め込んでいるんですね。それを何日か、あるいは何週間に一度チャージすれば使えるというところで、われわれも一緒に実証実験しながら開発を進めてもらった、そういう思い入れのある事例でもあります。
傍島:そこがすごいですよね。バッテリーが1日しか持たない、携帯電話も1日2日程度しか持たないじゃないですか。
小川:そうですね。
傍島:それがずっと持つということですもんね。
安川:そうなんですよ。
傍島:ここが大きいですよね。
安川:今、これはアメリカだとオンラインで発注して買えるので、もし手に入るタイミングがあれば試していただければと思います。
次に行きましょうかね。次は、これはコネクテッドプールというか、いわゆるスイミングプールですね。スイミングプールとネットワークを繋いだIoTの事例です。Sutroさんというお客様の例で、日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、傍島さんはお持ちかもしれませんが、カリフォルニアだと家にプールがあるお家が結構あるんですね。
傍島:そうですね。
安川:優雅でいいなと思うのですが、実はあれは結構定期的に薬剤を入れたり、塩素の調整などをし続けないときちんと維持するのが難しくて、結構、業者に依頼してサービスに毎週来てもらっていますといったケースが多いんですね。そうすると、結構お金が掛かるじゃないですか。
このSutroさんは、プールに浮かべておく大きなデバイスと、それがネットワークに繋がるためのこういうハブと、スマートフォンのアプリを提供されていて、これが自動的に毎日2回ずつ水質を測ってスマートフォンに通知をくれるんです。今、例えばpHが酸性に傾いているからこの薬剤を入れてくださいとか、これぐらい入れてくださいとか、また、塩素が足りなくなっているから少し塩素を入れてくださいとか、そういう通知が来るので、毎週誰かに来てもらう高いサービスを使わなくても、技術でその課題を解決されている例になります。
傍島:なるほど。
安川:日本でも、学校のプールはたぶん先生たちが一生懸命塩素を入れていると思うんですけれども、ああいうのも解決したりするのかなと思ったりします。
傍島:確かに。(笑)これは自動なんですね。プリンターみたいなものですか。プリンターのインクが勝手に補充されるじゃないですが、それを全部モニターしているようなイメージですか。
安川:そうですね。この中には薬剤が入っていて、それでpHや塩素レベルを測れる仕組みが中に入っているんですよね。薬剤を入れるところは自分で行わないといけませんが。
傍島:なるほど。
安川:測って通知をしてくれるので、それだけでもかなり便利です。
傍島:便利ですよね。確かにな。面白い。(笑)
小川:すごいですね。
安川:医療系とコンシューマ系と、こういうプールといったものが来たので、もう少し実直なところに次は行こうかなと思います。
これはHortauさんという、これはカナダの会社で、北米で広く使われているサービスです。これは灌漑設備を賢くする、そういうIoTの事例です。いわゆる農地のこういうセンサーと水の開け閉めをコントロールするデバイスを置いて、湿度や天気、各種パラメータのデータを取って、それを彼らのクラウド側に上げると、クラウド上のAIロジックでいわゆる水の開け閉めのところを管理してくれる、そういうソリューションです。農家の方は結果のデータを見ながら「うまく育っているかな」とか、そういうチェックをする感じですというシステムを提供されているお客様ですね。
傍島:なるほど。農家のおじいちゃん、おばあちゃんがデータで進化しますね。賢くなりますね。
安川:そうですよね。だから、日本のすごく高品質な作物をつくられている農家の皆さんも、そのデータをこうやって集めるとこれをもっと広く適用できるのではないかなと思いますので、日本でも良い事例が適用されていくといいなと思います。
傍島:確かに。
小川:なるほど。ありがとうございます。先ほど携帯の充電の話、Electron-to-Goの話があったと思います。「六角形には意味があるんでしょうか」というご質問をいただいております。
安川:いいご質問ですね。これは実は僕の同じようなことをCEOのナシムに聞きました。六角形にするとこういう感じで充電のケースにセットしたときにきれいないい感じの幾何学模様になるというところが1つポイントのようですね。
傍島:なるほど。(笑)
安川:たぶん四角形でもいいんでしょうけれども、かっちりしてないと、全部揃っていないと気が済まない感じになるのですが、六角形ですとハチの巣の何かみたいに、どこが空いていてどこが埋まっていてもそんなに違和感がないという、そんなところに意図があるのかなと思いつつ。でも、それはナシムのコメントではなくて僕が勝手に思っているだけですので。(笑)
傍島:確かに。(笑)
小川:そうですね。「四角形だと取りにくそうですね」というコメントも届いております。
安川:そうですね。そうかもしれません。
傍島:意外とこういう細かいちょっとした気配りが流行る流行らないの差分だったりしますからね。
安川:そうですね。
傍島:アメリカの人たちは結構デザインにこだわっている人が多いですよね。
安川:見た目やはりインパクトがありますよね。単純に四角いバッテリーよりも。
傍島:確かに。
小川:なるほど。Pebblebeeさんについてのコメントで、「飼っている猫ちゃんが脱走したときにPebblebeeさんに助けられました」というお声も来ています。
安川:すごい! そんなコメントも。うちにも猫がいて、出ていってしまうと本当に見つけるのが大変なのですが、うちもBluetoothバージョンですが、このLTE版が発売される前にBluetooth版でつけておいたら見つけられたことがありましたね。
傍島:(笑)
小川:つけていらっしゃるんですね!
安川:そうですね。はい。
小川:ありがとうございます。
安川:ご質問ありがとうございます。
小川:たくさんご質問届いております。ありがとうございます。
安川:ほかにも何か質問ありますか。
傍島:システムの話が来ています。これはあとでいいかもしれないですね。
小川:では、安川さん、事例をお願いいたします。
安川:はい。農業系でもう1つ、これも面白い事例です。BeeHeroさんという、これもアメリカのスタートアップのお客様です。養蜂家の方々が今までだとハチの巣の活動状況を見て感じていろいろなケアをされていたと思いますが、このBeeHeroさんはハチの巣の管理をIoT化してしまったんですね。ハチの巣の振動や熱、そういう情報をセンサーで感知して、それをやはりクラウド上に送りますと。それをベースにスマートフォンのアプリで養蜂家の方々にハチの巣のケアをするためのいろいろな情報を提供して養蜂家のハチミツの生産量を上げたり、ハチ自体の健康管理をするといったところをうまくサポートするシステムを提供されています。私も正直あまり知らなかったのですが、ハチミツというのはフードチェーンの一番大事な根幹のところにあるそうで、ここを安定供給することは世界の食糧事情にとっても大事なことだそうです。
傍島:確かに。
安川:そこの真っ向から挑戦されているスタートアップのお客様の事例です。
傍島:なるほど。
安川:実はこれもすごく伸びています。最初にお会いしたときは本当にスタートアップで小さく始められたのですが、今はガンガン伸びています。われわれのプラットフォームとしてはどんどん伸びていくならそれに応じてサポートができますので、成長を楽しみに見守っている感じのお客様です。
傍島:いいですね。事例が尽きないですよね。まだまだありますか。
安川:そうなんですよ。面白いのがたくさんあります。あと2つほど紹介したら一旦ポーズしましょうかね。そんな感じでいいですか。
傍島:はい、お願いします。
安川:コンシューマの分かりやすいところから少しずつ農業やいわゆるインダストリアルなところに入ってきているので、そんな流れで紹介したいのが、EXACT Technologyさんという、いわゆるインダストリアルIoTと言っても過言ではない事例かなと思います。
これはコンクリートのデータをデバイスやセンサーを使って集めて、建設現場で液状のコンクリートを流し込みますよね。それが正しい温度で正しい湿度で固まっていくかというのはすごく大事だそうです。私も彼らに教えてもらったのでまた聞きですが…。(笑)それがきちんとした温度と時間の経過を経て固まっていかないと、実はビルやトンネルといった大きな建造物は期待されている強度を得られないそうなんですね。今まではそれこそ建設現場を人が回って、温度計の温度をチェックして紙に書いて、それを監督のところに集めてといったことをされていたそうで、それを1日ごとに行ったり、下手すると1日に何回も行わなければならなくて、ものすごく大変な労力がそこだけで割かれていたそうです。
このEXACT Technologyさんはセンサーのデバイスとそのデータを集めて建設現場の方々に可視化して見せるシステムを提供されていて、それによって当然人件費や労力も削減できますし、コンクリートもきちんと正しい期待されている強度を持ったすごく強い建造物をつくることができると、そういう事例になります。
傍島:こういうのはデータが大事そうですよね。確かにね。
安川:そうなんですよね。やはりこういう人が労力をかけているところを技術で改善していくという、ある意味すごく正攻法なところですが、それを真っ向から取り組んでいる事例が多いなというのが結構北米のお客様と話していて感じる印象ですね。
傍島:確かに。
安川:最後にもう1つ。ほかにもいろいろ紹介したい事例はありますが、一旦ここでポーズしようかなと思っていますが、CSS Electoronicsさんというお客様です。これは車のコンピュータが繋がっているCANバスという、実は車の中のネットワークがあるのですが、そこに繋いでデータを取って、それを車両の開発に役立てたり、また、いろいろなそのデータを元にしたドライバーへの支援など、そういったことを実現される、そういうデバイスとプラットフォームを提供されているお客様ですね。フォルクスワーゲンさんで使われているそうですが、これを車の普段見えない所にあるコネクターに繋いであげると、そこからデータを集めていろいろなことを可視化してあげる、そういうプラットフォームを提供されています。
傍島:なるほど。
安川:車は当然ながらいろいろなところを走り回るので、データを集めるときにセルラーの回線が必要となります。そこでSORACOMのサービスを使っていただいているという事例です。車もどんどんこういったかたちでネットワーク化されていきます。一方で先ほどの話ではないですが、これが丸ごとそのままインターネットにむき出しで繋がっていたら怖いことになってしまいます。
傍島:危ない。
安川:ええ。ですから、やはりセキュリティが大事なユースケースの1つですね。
傍島:確かに。ありがとうございます。事例はたくさんありますよね。たぶんきりがないと思いますが。
安川:そうなんですよ。ほかにもいろいろ紹介したいのはありますが、一旦ここら辺で。
傍島:先ほどデジタルヘルスの領域がすごく伸びていますよというお話や、自動車も進化しているのであると思います。今いろいろな分野があると思いますが、どの辺の分野が一番伸びているなという肌感はありますか。
安川:そうですね。いろいろなところがいろいろなかたちで伸びていて一概には言えないのですが、やはり個人的な感覚としてすごくあるのは医療系・メディカル系・遠隔医療系ですかね。
傍島:医療系か、確かに。
安川:ここがすごくいいですね。
傍島:そうですよね。コロナで拍車がかかりましたよね。病院に行きたくなかったですからね。(笑)
安川:そうなんですよね。(笑)やはりそういうときにスタートアップがササッと現れてビジネスを拡大していくというのがすごくアメリカらしいなと感じるところではありますね。
傍島:確かに。ありがとうございます。たくさん質問が来ていますね、小川さん。
小川:そうですね。たくさんご質問いただいております。皆様ありがとうございます。
安川:ありがとうございます。
北米で主流になっている通信方式
小川:では、私のほうから。「IoTの通信方式はさまざまでユースケースに依存するとは思いますが、北米で主流となっている通信方法について何か言及いただけることがありましたらご紹介ください」ということですが、いかがでしょうか。
安川:すごく専門的なご質問をいただきましてありがとうございます。私もこういう質問が来ると楽しくて少し技術方向に行き過ぎてしまうかもしれないので適宜止めてくださいね。
傍島:(笑)
安川:北米はやはりすごくエリアが広いんですよね。東京の都心ではどんなネットワークも繋がりますが、やはり北米の場合は町と町の間にすごく長い距離の何もないところがあったり、それこそアメリカの真ん中のほうに行くと山間部や砂漠といったところはなかなか通信環境がなかったりするので、いろいろと北米特有のチャレンジはあります。でも、やはりそうは言ってもセルラー通信ですね。広域をカバーできて非常に使いやすいという意味だと3G、4G、5G含めてセルラーがいろいろIoTのユースケースで使われていますので、われわれもそこにサービスを提供しているというのが中心になります。
特にLTE-Mとご質問の中でキーワードを出していただいていると思いますが、LTEはたぶんスマートフォンで皆さんお使いで、聞いたことがある方もいらっしゃると思います。その通信の規格の中でもいわゆるそういうマシン向けに、通信速度は早くなくてもいいので広域で低消費電力で使えるLTEが欲しいというニーズをもとに生まれたLTE-Mという企画があります。それを必要とされているお客様は非常に多いですね。われわれのところにも「LTE-Mを使いたいのですが、お宅は提供してくれますか」といった問い合わせが非常に多いです。
傍島:なるほど。
安川:低消費電力でしようとすると、先ほどのPebblebeeさんの例もそうですが、低消費電力でしようとするとLTE-Mという技術が必須になってきます。そこはわれわれも提供していますし、非常に喜ばれるところですね。
それから、たぶんすごく詳しい方からのご質問だと思いますが、SigfoxやLoRaWANといった「Low Power Wide Area Network(LPWAN)」と呼ばれる技術、これも興味のある方がたくさんいます。実は日本やヨーロッパと比べてSigfoxという規格、われわれも実はSORACOMプラットフォームでも提供している規格がありますが、これはなかなか逆にアメリカは国土が広過ぎてSigfoxでもなかなか全体がカバーされているわけではありません。そのため、なかなかそれを選択肢にしにくいという事情が北米にはあります。
傍島:確かに。
安川:ですので、ほかのもう1つの規格であるローラWANという規格で自分でネットワークをつくって、その裏側にセルラー通信LTEを使ったり。あるいは別のもう全然Publicではない、プロプライエタリーな無線の規格を使ったり。いろいろなかたちで皆様工夫されているので、必ずしもこれだけで済むというような、いわゆる銀の弾丸みたいなソリューションがないという状態ではあります。
傍島:確かに。ありがとうございます。
小川:ありがとうございます。それでは、もう1つご質問をさせていただきます。2つ目は、「規制緩和が進んでいないので、IoT発展を阻害しているという意見がありますが、アメリカでは日本に比べて規制緩和が進んでいるのでIoTが進んでいるのでしょうか。あるいは日本でも規制は案外厳しくなくて、アイデアが乏しくて産業が発展していないのでしょうか」というご質問です。いかがでしょうか。
安川:そうですね。たぶん分野や業界によるのかもしれませんが、先ほどご紹介したような医療系となると、なかなか日本だとどこまでやってよくて、どこからがアウトなのかというところのそもそも境界線が分かりにくかったり、実際にチャレンジしようと思ってもいろいろな制度や規制でできないというところはあるのかもしれないですね。
一方でアメリカだとHIPPAという業界標準、業界の認証プログラムがありますので、それに認可されて、ユースケース的にも許可されている領域であれば結構スタートアップもガンガン参入できる環境があるので、そこは少し差があるのかもしれないですね。
一方で例えば先ほどのElectron-to-Goさんのサービスは、これはたぶん特に日本でしようと思ったときに何か障害になるような規制はあまり思いつかないので、たぶんできるのではないかと思います。
傍島:確かに。
安川:BeeHeroの養蜂家さん向けのサービスも、おそらくこれが何かの規制に引っ掛かるというイメージはないですよね。結構、適用できるものはあるのではないかと思います。
傍島:確かに。
小川:なるほど。ありがとうございます。それでは、事例をたくさんご紹介いただきましたが、ソラコムさんはそこで一体何をされているのか、教えていただきたいです。
安川:そうですよね。ここまでいろいろな話をしてきて、全然違う業界の、全然違う事例を紹介していて、「じゃあ、一体あなたたちは何をしているんですか。」ということになると、本当にその通りだと思います。
ソラコム社の役割
小川:いえいえ。そうでもないです。(笑)
安川:われわれは何をしているかという話ですが、一旦立ち止まって、先ほどお話した典型的なというか、IoTのシステムはどんな構成になっているかというのをすごく高いレイヤーでハイレベルで見てみたいと思います。基本的によくあるパターンというか、だいたいこんなパターンになります。いろいろなものが、実際の皆さんの身の回りや、それこそ建設現場だったり、養蜂家のハチの巣のところだったり、いろいろなところにデバイスがあって、それが何らかのかたちでインターネットなりネットワークに繋がって、そこから先、クラウド上にあるサーバー環境、例えばここにデータを集めて、マシンラーニングの技術だったり、AIのロジックを適用したりするというのがだいたいよくあるパターンですね。
例えば、BeeHeroさんはハチの巣の成長の過程をサポートするシステムをつくられていましたけれども、ハチの巣のデータを集めるデバイスがあって、クラウド上に彼らのAIロジックがあってという構成になっています。それを仲介しているのがインターネットです。先ほどから「インターネットに繋がない」と言っているのに、真ん中にインターネットがあるじゃないかという話なんですよね。おっしゃる通りです。なぜかと言うと、「インターネットを通じて」というのがやはり一番つくりやすいシステムのかたちなんですよね。何らかのかたちでインターネットに繋げば、そこから先クラウドの環境に繋ぐというのは基本的にはスムーズにできると思いがちですので、こういうかたちになるのが一般的です。
一方で、これはこの絵で見るとすごく簡単に見えますが、実際につくろうとするとすごく大変なんですよね。まず、当然ですが、何らかのかたちでネットワークに繋がなければいけませんので、先ほど言っていたLTE-MやSigfox、LoRaWANなど何らかのかたちでネットワークに繋ぐコネクティビティというのが必要ですし。先ほどから何回も言っているセキュリティは大事ですと。これはもう何回言っても言い足りないぐらい、皆さんに知っておいていただきたいところですが、これは非常に大事です。インターネットに繋いだ瞬間に考えることがたくさん出てきます。そのため、ここも考えないといけないですし。
また、一旦クラウドに繋ぐと言っても、クラウド側をきちんとつくって環境構築しておかないといけないので、そこも当然技術と労力がかかります。また、デバイス側も…。ごめんなさい、「成約」という字を間違えていますが、リストリクションのほうの「制約」ですね。それも考えてあげないと、バッテリー駆動していたら、クラウドと通信するのに一生懸命そこでデータ通信にバッテリーを使っていたらすぐ電池がなくなってしまうので、そういうことも考えないといけません。
それから、一旦リモートに置いたデバイスはいつでも触りに行ってメンテナンスできるわけではないので、その管理もしないといけません。実はすごく考えることがたくさんあって大変なんですね。
われわれが提供しているのは、まずインターネットをそもそもオプションにしてしまいましょうと。繋がなくていいのであれば、インターネットなしでも使える仕組みがあれば、そもそもデバイスとクラウドを直接話せますよね。そんな考えでつくったプラットフォームがIoTプラットフォーム「SORACOM」の基盤にあります。
デバイスとSORACOMのクラウドがまず直接繋がりますと。そうすると、クラウドの仕組み、お客様のほうで何かAIのロジックを組み合わせるとか、いろいろなアプリケーションをのせるというときに、セキュリティの観点で心配しなくてもシステムが組めるような道具をたくさん用意しています。インターネットに繋ぐことももちろんできますが、要らなかったらもうそこはそもそもなしにしてしまっても大丈夫ですよといった仕組みを提供しています。
具体的にどのような機能を提供しているかという例をお見せすると、まず通信の部分、いわゆるコネクティビティと言われている部分、これがやはりわれわれの中でも一番基本の部分です。LTEやLTE-Mに加えて5Gのサービスだったり、2G/3Gという昔のセルラーの規格だったり、あとは先ほどご質問にもありました、Sigfoxという広域向けの低消費電力無線技術もサポートしています。
われわれは独自のクラウド上に構築したセルラーのコアネットワークの技術を持っているので、デバイスからすると、もう繋がった先がすぐSORACOMのクラウドなんですね。インターネットを通らずにいきなりSORACOMまで行けます。そのため、これを利用するといろいろな面白い便利な仕組みがつくれます。例えば、お客様のクラウド上のAIバックエンドやサーバーの環境があれば、そことSORACOMの間をプライベート接続してあげると、なんとお客様のデバイスとお客様のサーバーだけが直接通信できて、インターネットからはまったく触れられない、そういうプライベートな領域をつくったりすることができます。これでかなり安全度合いが一気に高まります。もちろんそれだけではだめですが、だいぶそれでも心配事が減ります。
傍島:確かに。
安川:また、いわゆるバッテリー駆動するデバイスだったりすると、データを送るにも結構気を付けないといけないことがたくさんあります。インターネット越しに、例えばクラウド環境にデータを送ろうと思ったら、きちんと私が正しいデバイスで認証してくださいと、正しいデバイスで暗号化した通信であなたしか受け取れないように送っているので信用してくださいということを常に行わないといけないわけですね。Publicのネットワークで。
そうしないと、誰かが隣で「私がPebblebeeのトラッカーです」と嘘をついて位置情報を送られても困ってしまいます。そのため、しっかり認証しなければいけないのですが、そこの構築やクラウド上のプロトコルに合わせた通信をしようと思うと、結構デバイス側も苦労がたくさんあるんですね。そこを仲介してあげて、SORACOMにすごくシンプルに、一番シンプルな方法でSORACOMまで送ると、それをクラウドサービスに連携するというような機能を提供しています。
ほかにもデータの保存や可視化のサービスもあります。クラウドは別にほかの外のクラウドを使わなくて、SORACOMだけで済むようなケースですと、このサービスだけを使ってもシステムを構築することができます。
それから、管理者の方が例えばデバイスにリモートからアクセスして、少しコマンドを打ちたいとか、ログを見たいというときに、インターネットに直接繋がっていればできなくはありませんが、そもそも繋いだら危ないので繋ぎたくないという前提があるので、そういうときにSORACOMに繋がっているデバイスであれば、そのお客様だけが通信できるような通信路を、必要なときにだけ提供するような仕組みを持っていたりしますので、遠隔地にあるデバイスに安全・安心に繋ぎたいときだけ繋ぐといったことができたりします。
また、セルラーやSigfoxの通信で繋ぐという話をしましたが、昨年新しいサービスをローンチして、インターネット越しであってもセキュアな回線をSORACOMとの間で張って、Wi-FiやEthernetで通信するようなデバイスであっても、このSORACOMのセキュアな環境に参加することができるというような仕組みも提供しています。非常に幅広いIoTのユースケースにおいて、開発を楽にするいろいろな道具を提供しているというのがわれわれが行っていることです。
傍島:なるほど。分かりやすい。ソラコムさんに預ければ、もうあとはその先も繋いでくれるし、外からも入れるしということですよね。分かりやすいですね。
安川:そうですね。結果として、IoTのシステム開発で考えることが減って楽になって、お客様のほうは本当に行いたかったビジネスやアプリケーションのところに集中してもらうというのがわれわれが目指しているところですし、提供しているサービスです。
傍島:なるほど。
ソラコム顧客事例
安川:具体例としてお見せすると、これは先ほどご紹介したHORTAUさんというAIで灌漑システムを管理してくれるサービスです。ここの場合、例えば灌漑システムだって外からテロリストがハックして水浸しにして農作物をだめにして、食糧危機を起こすなんていう、そういうSFのようなことがあり得てしまいますよね。そんなことがあってはいけないので、やはりこのAIの管理、バックエンドとデバイスは安全に通信して、外からまったく触れられないようにしないといけないというのが彼らの要件としてありました。それを前はプライベートなデータセンターとキャリアさんにお願いして専用の通信回線を用意してもらって、そこにだけ繋ぐようにするという。
傍島:高い。(笑)
安川:傍島さんはよくご存じだと思いますが、キャリアさんのメニューでそんなことをしたらすごいお値段になるじゃないですか。
傍島:高いですよ。(笑)
安川:そうですよね。(笑)SORACOMの場合は、先ほど言っていた閉域接続の仕組みを使って、これはHORTAUさんのAmazon Web Service(AWS)上のクラウドのインフラと彼らのデバイスだけが通信できるネットワークというのを、彼ら自身でWebのインターフェースをポチポチしていくだけで組むことができて、しかもランニングコストとしても、われわれは仮想化されたソフトウェアで提供しているプライベートネットワークの機能があるので、非常に低コストでこういった安全・安心な仕組みを提供されているという事例になります。
もう1つだけ事例をご紹介します。これも先ほどご紹介したRemote Care Partnersさんの例ですが、彼らのデバイスにリモートのお医者さんや看護師さんが彼らのクラウド越しにアクセスするというときに、当然このデバイスが外から触られては困るので、やはりSORACOMのリモートアクセスサービスを使っていただいていて、これ自体はインターネットに直接さらされていないのですが、アクセスすべきRemote Care Partnersさんのクラウドインフラだけが、必要なときだけ必要なポートを開けてアクセスすることができるというような仕組みを使われている事例になります。これによって安心でセキュアなシステムを提供されているという事例ですね。
傍島:なるほど。
安川:こういうようなところで、先ほども言ったIoTのシステム開発を加速させるというところをわれわれは共通の部品を事業として提供しています。
小川:とても大事な部分を担っていらっしゃるということで、ありがとうございます。
安川:これだけ説明すると少し分かりにくいんですけれども。(笑)
傍島:いやいや、すごく分かりやすいですね。
安川:こういう事例の裏側でこういうことを行っています。
小川:ありがとうございます。興味深いお話でお時間があっという間に過ぎてしまったんですけれども、最後に1つだけご質問をご紹介したいと思います。ご質問なんですけれども、「IoTプラットフォームは国内でも北米でもマーケットシェアを掴みづらいのですが、ソラコム様の立ち位置はどのようなかたちでしょうか」というご質問です。いかがでしょうか。
安川:いいご質問ですね。ありがとうございます。IoTのシステム開発はすごく考えることがたくさんあって大変ですので、それを解決するためのプラットフォームは皆さんやはり提供されることが多いですし、われわれもそれが中心です。でも、なかなかそこを知ってもらって使ってもらってというのは難しいんですよね。皆さん、気付かずに自分たちで始めて苦労されるというパターンがやはり多いので、われわれの場合はそこをまず知ってもらうというところのアプローチがそうなのですが…。
分かりやすいところでは、われわれの場合は通信サービスも併せて提供しているので、通信のこのデバイスは走り回りながらネットワークに繋がらなければいけない、そうなるとセルラー回線が必要だと、探してみたらSORACOMが見つかったというパターンで知っていただいて。その先に、実は先ほどご説明したようないろいろなIoTのシステム開発を楽にする部品があるということに気付いていただいて、そこからSORACOMのIoTプラットフォーム部分の機能をどんどん使っていただくようになるという、そういうパターンが結構あるんですね。
これは日本でもアメリカでもそのパターンが見られるので、これが1つわれわれのちょっとユニークなところで、IoTプラットフォームなのですが通信回線もインテグレートされているというところがユニークに生きているパターンかなと思っています。
まとめ
小川:ありがとうございます。それではあっという間ではございましたが、最後に安川さんからまとめのメッセージや告知などがありましたらお願いいたします。
安川:ありがとうございます。私も楽しくて、いろいろしゃべっている間にいつの間にか時間が来てしまった感じです。(笑)
傍島:早いですね。(笑)
安川:こういう感じでアメリカのほうでもいろいろなユースケースでIoTの進化が進んでいて、たぶんご覧になった方の中には2種類のリアクションがあってもいいかなと思っています。1つは「こんな先進的な事例があるのね」というリアクションと、一方でもう1つは、「あれ、これどこかで聞いたことあるな」とか、「これは考えれば考えつくし、それはできるよね」というようなリアクションもあったのではないかなと思います。どちらも正しいと思います。
一方で思うのは、北米でいろいろなお客様と話していると、そういう考えつくことを実直に実行して、実際に本当にリアルな課題を解決していくというところを皆さん本当に真っ向から取り組んでいるなという印象があります。たぶんその中には先ほどの養蜂家さんのサポートのように、いろいろ日本でも適用できる事例やアイデアがあると思うので、これを「いや、それはもう誰かがやってるから」ではなくて、真っ向から「このアイデア適用できそうだ」という感じで皆様にも進んでやっていってもらえると、より一層世の中がよくなっていくのではないかなと思います。
われわれもそのときのお手伝いできればと思いますので、アイデアがある方はぜひつくり始める前にわれわれのサービスを見ていただいて、本当にやりたいことに集中していただいて、共通の課題の部分はSORACOMに任せていただけるとわれわれとしてもありがたいと思います。
そんな話を、実は7月6日~7日にわれわれ独自のカンファレンス「SORACOM Discovery」というのを実施する予定になっています。ここでいろいろな事例、今日お話させていただいただけでも本当に話しきれなかったぐらい、いろいろな事例があります。特に日本の事例を、たくさんいろいろな先進的なものが出てきているのでその辺りを紹介したり、われわれの取り組み、われわれの新しい技術もこの機会に紹介させていただこうかなと思っています。もし今日の話の中で何か心に残るものがあったらぜひこのイベントのほうにもご参加いただいて、IoTの最先端を一緒に見ていただければと思います。今年初めて2日間連続でオンラインで開催します。いつもは1日でしたが、今回は2日間になります。
傍島:楽しみですね。
安川:はい。オンラインですので、ぜひお気軽に登録してご参加いただければと思います。もしご興味あれば「discovery.soracom.jp」というページからお申し込みいただけますので、ぜひご覧いただければと思います。
小川:はい。安川さん、ありがとうございます。皆様ぜひご参加いただければと思います。
それでは、あっという間ではございましたがお時間となりましたので、本日の01 Expert Pitchは終了となります。安川さん、傍島さん、どうもありがとうございました。
安川:ありがとうございました。
傍島:ありがとうございました。
小川:ご視聴いただきました皆様も最後まで本当にありがとうございました。それではまた次回お会いしましょう。さようなら。
以上