Digital Transformation
▼ こんな方にオススメ
- DXとは何か?DXを推進する際の成功ポイント、日米間のDXの違いに興味がある方
- CVC担当、新規事業担当
- 世界における最新のスタートアップの取組み状況と未来を知りたい方
▼ エキスパート
加藤 良太 氏:Cambridge Technology Partners Inc., Director
2001年ケンブリッジ・ジャパン入社。コンサルタントとして大手商社の予算管理システム刷新など大型プロジェクトに従事。大学院卒業後はニューヨークで楽天マーケティングの経営戦略、M&A、シリコンバレーで楽天USAのVP of Business Developmentとしてデータビジネスの立ち上げを担当。2018年Stanford StartXの自動運転ロボット開発スタートアップの立ち上げから参画。2019年ケンブリッジ北米展開をリードするため出戻り。在米歴29年。ニューヨーク大学経営学修士(MBA)
- 01 Expert Pitchとは?
- Cambridge Technology Partners 加藤 良太氏プロフィール
- DXとは何か?
- アメリカではDXという言葉は使われていない
- ビジネスモデルを根底から覆すシリコンバレー企業
- 重要なことは「目指すべきビジョンが明らかであること」
- 株主還元ではなく事業成長に投資する米国企業
- ⽇本企業が抑えるべきDXのポイント
- 困っていることより「困っていないこと」に目を向ける
- 何より⼤切なのは「目指すべきビジョンが明らかであること」
- 注目スタートアップ
- まとめ
小川:皆様、こんにちは。お待たせいたしました。それでは、12時になりましたので、本日の01 Expert Pitch第13回を始めてまいります。「シリコンバレー発!世界のエキスパートが最新情報を日本語で解説」ということで、本日はDXをテーマに「シリコンバレーから見たDX ~DXを推進する際の成功ポイント・日米間のDXの違い~」をテーマにお送りしてまいります。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
さて今回は、Cambridge Technology Partners Inc., Directorの加藤 良太さんをエキスパートとしてお迎えしております。加藤さん、どうぞよろしくお願いいたします。
加藤:よろしくお願いします。
小川:そして、本イベントの主催者であります、Tomorrow Access, Founder & CEOの傍島さん、本日もよろしくお願いいたします。
傍島:よろしくお願いします。
小川:そして、私、本イベントのナビゲーターを務めてまいります、小川りかこと申します。どうぞよろしくお願いいたします。
傍島:お願いします。
01 Expert Pitchとは?
小川:それでは、早速ですが、傍島さん、この01 Expert Pitchの狙いなどを少しお話いただけますでしょうか。
傍島:はい。あらためまして、Tomorrow Accessの傍島と申します。よろしくお願いいたします。Tomorrow Accessという会社は、シリコンバレーを拠点にしたコンサルティング会社になります。主に日本とアメリカのクロスボーダーのビジネスのご支援をさせていただいている会社になります。この01 Expert Pitchは昨年から始めてちょうど1周年になろうかということになります。今回で13回目ということで、狙いとして3つあります。
1つ目は、日本とアメリカの情報格差の解消ということで、いろいろな日本の企業さんとお会いしている中でも「シリコンバレーやグローバルの情報を教えてください」という声をたくさんいただきますので、そういった声を迅速にお届けしたい、そして日本とアメリカの情報格差を埋めたいというのが1つ目の狙いです。
2つ目は、正しい情報をお届けしたいということで、同じニュースなんですけれども、アメリカで伝わっているような温度感と日本で伝わっている温度感が若干違うなと感じることがあります。ですので、今回ご登壇いただいている加藤さんのようなエキスパートの方に、正確にその情報を解説していただいてお届けしたいというのが2つ目の狙いです。
3つ目は、日本語での解説ということで、英語の情報はたくさんありますので集めることも可能ですけれども、やはり大変ですので、きちんと日本語で解説していきたいと、この3つの狙いでこのウェビナーを運営しております。
今日もDXに関して、日本ではすごくキーワードになって話題になっていると思いますが、シリコンバレー、アメリカの視点からどうなっているのかということも含めて解説していただこうと思っていますので、非常に楽しみにしてまいりました。よろしくお願いいたします。
小川:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
本日のイベントでは、皆様からのご質問を随時受け付けて進行を進めてまいります。参加者の皆様、ぜひ加藤さんにご質問のある場合は、Zoom画面の下にありますQ&Aボタンからご質問をぜひお寄せください。随時、私のほうでも拾ってまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。
それでは、加藤さん、早速ですが、簡単に自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。
Cambridge Technology Partners 加藤 良太氏プロフィール
加藤:了解です。では、画面共有させていただきます。よろしくお願いします。今日は「シリコンバレーから見たDX」というテーマでお話させていただきます。
目的としては、DXというコンセプトは、皆さんも伺っていると思いますが、すごくぼやっとしているというか、10人に聞いたら10人とも違う答えが返ってくるような、そういうコンセプトですので、もう少しそこに取っ掛かりをつけて、DXに取り組む際の成功のポイントをお伝えできたらいいなと思っています。
流れとしてはこんな感じです。自己紹介と、シリコンバレーから見たDXという話をさせてもらって、日本の企業がおさえるべきDXのポイントはこの辺ですよというところをお伝えするのと、最後に少し注目のスタートアップというか、シリコンバレーっぽい話ができたらなと思っています。
ということで、早速、自己紹介から入っていきます。加藤と言います。通称Ronです。昔からこういう名前なんですけれども。
小川:Ronさん。
加藤:はい、Ronです。経歴としては、一番下にありますが、海外が長くて33年、主にアメリカですが、イギリスにも少し住んでいたりという感じで、日本には、ちょっと年齢がバレてしまいますけれども、日本には10年しか住んでいないという感じです。
楽天で長く、MBAを出たあとに楽天で10年近く、戦略や買収の仕事をしていました。そのあと楽天を辞めて、こちらの本当のスタートアップというか、資金をまだ集めていないプリシードのアーリーステージのスタートアップを何年か経験して、資金が集まらなくて失敗しているという、そういう経歴です。
小川:失敗してしまったんですね。
加藤:そうです。でも、スタートアップに失敗はつきものですので、これも1つの勲章です。(笑)
傍島:そうですよね。シリコンバレーでは勲章ですよね。失敗していないというほうが怪しまれるぐらいですよね。
小川:なるほど。
加藤:(笑)「人生に一度はチャレンジしてみないと」というので、自動運転の小型の宅配ロボットを開発する会社を、私の知り合いでそういう技術者がいて、その会社のビジネス側を全部見るというので一緒に立ち上げました。それを諦めたタイミングで、Cambridgeという今のコンサルティングファームがアメリカに進出するというので、実は昔、私はCambridgeで働いていたことがありましたので、12年ぶりに出戻って、アメリカの立ち上げやUSの責任者をしています。
簡単に会社の説明をさせてもらいますと、経営コンサル、ITコンサルという感じですが、一言で言うと、プロジェクト成功請負人ということでして、業務改革だったり、ITを構築するところだったり、DX系のプロジェクトだったり、最近は新規事業の立ち上げといったところも行っているような会社です。
また、会社としてDXの本も書いています。例えば、住友生命さんの営業の方が3万人いらっしゃるのですが、彼らが持ち歩いているタブレットを刷新するという大型のプロジェクトで、まさにDXというか、ガラッと皆さんの行動を変えるような、活動を変えるような、そういう大きな取り組みのお手伝いをしたりしている会社です。
よろしければ、ここから本題に入りますが、進めていいでしょうか。
小川:お願いいたします。
DXとは何か?
加藤:では、「シリコンバレーから見たDX」という話です。よくある始め方ですが、取りあえずWikipediaを見てみましたというので、誰でもしますよね。(笑)
「DX」の定義からすると、Wikipediaによるとこんな感じです。「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させることです」と、そういう概念です。ビジネス的には「企業がテクノロジーを利用して会社を根底から変化させる」、そういう定義がDXということです。
ただ、日本で言われるDXは、このようにそもそもの言葉として定義されている抜本的なビジネス変革だけではなくて、わりと日々の業務のデジタルシフトというか、例えば、経理の人が一部の請求書発行業務をRPAを使って自動化しましたといった場合もDXと言いますよね。わりと日本にいると結構大きく捉えるんですね。DXと言っても粒度の細かいものから、本当に会社を変えるような大きな話まで、全部含めてDXと呼んでしまっていますし、一旦そう捉えてもいいのかなと思っています。
傍島:結構、昔から言われているんですね。「2004年に提唱」と先ほどスライドでありました。
加藤:そうですね。
傍島:日本ではここ数年のような気がしますが、そんなに前から言葉としてはあったんですね。
加藤:言葉としてはあったようですね。日本でもすごく言われるようになってきたのは、2019年ぐらいですかね。
傍島:ここ2、3年ですもんね。
加藤:そうですね。特にコロナがあって一気にそれが広がったということはあると思います。
傍島:確かに。なるほど。
小川:そうですね。
アメリカではDXという言葉は使われていない
加藤:一方、シリコンバレー的に言うとどうなんだと言うと、2つあって。1つは、DXという言い方自体あまりアメリカではしないんですよね。
小川:そうなんですね。
加藤:そうですね。
傍島:誰も言ってないですよね。
加藤:(笑)そうですね。
小川:誰も? 誰もなんですね。
傍島:誰もと言ったら変ですけれども、アメリカにいる大手企業のトラディショナルな人というか、昔ながらの人が「DX」という言葉をたまに使いますが、いわゆるシリコンバレーの人はほとんど言わないですよね。
加藤:言わないですね。
小川:違う言葉があるということですか。それとも、その言葉自体がもう言われていないのですか。
加藤:そうですね。シリコンバレー的に言うと、たぶんもうこの世界はすべてがデジタルをてこに世の中を変えてという話ですので。
小川:もう当たり前というか。
加藤:ビジネスそのものがDXのような感じになっていますね。この間、どこかの広告に「DXのセミナーを行います」とあったので、どんな話をするのだろうと思って行ってみたら、デジタル・トランスフォーメーションではなくて、デジタル・エクスペリエンスの略として使っていたりして、そもそも言葉の使い方が違うようです。もともとはスウェーデンの教授がつくった言葉ですけれども、もはや和製英語のような感じなのかなと思います。
小川:なるほど。そうだったんですね。
ビジネスモデルを根底から覆すシリコンバレー企業
加藤:そうですね。先ほどご質問があったように、シリコンバレー的にDXとはどういうことかと言うと、結局、こちらの会社はやはり業界を根底からひっくり返しているような会社が勝ち組なんですよね。例えば、ホテルという昔からあるビジネスモデルを根底からひっくり返して新しい価値をつくり出したのがAirbnbだったり、タクシーという昔からある、もう何百年もあるようなビジネスモデルをそもそも見直して新しい価値をつくり出したのがUberだったり、会社の在り方そのものやビジネスそのものを変革するという感じがしているので、シリコンバレー的に捉えるDXと日本で言う大企業の業務を良くしていくというDXは、わりと違うものという感じがします。
傍島:抜本的に変えるというところが実はキーワードですよね。何か新しいものを取り入れたらDXだというような感じの人も結構多いと思いますが、抜本的に何かを変えるというところがわりとキーワードかなと思って聞いていました。
重要なことは「目指すべきビジョンが明らかであること」
加藤:そうですね。こういった勝ち組の会社には共通していることがあるんですね。それは何かと言うと、目指すべきビジョンが明確である、明らかであるということです。これはあとでお話しますが、こういう抜本的な変革においてもそうですし、日々の業務のデジタルシフトにおいても目指すべきビジョンというのがやはりキーになってきます。もう少し地に足のついた話をするときもこの辺がキーワードになってきますが、一旦もう少し大きい話を続けますね。
ビジョンということでAmazonの話をさせていただきます。Amazonのビジョンはここに書いてあるように“earth’s most customer-centric company“です。地球上で最もお客様のことを大切に考える、そういう会社になるんですというのがあって、この下にあるちょっとした図が、ジェフ・ベゾスが会社を立ち上げるときにちょちょいと書いたような戦略の絵です。このCUSTOMER EXPERIENCEを生み出すものが何かと言うと、低価格と品揃えの2つなんですね。その2つを揃えるとお客さんの経験価値がどんどん上がっていきます。お客さんの経験価値が上がると人がどんどん集まってくるんですね。人が集まるとその人たちにモノを売りたい販売者も集まってくるんです。販売者が集まると当然品揃えがさらにより高いものになります。そこで生み出したお金を事業成長に投資してコストを下げていくことによってより低い価格でモノを提供しますというので、ループしてどんどん顧客価値を高めながら、事業成長に投資しながら、どんどんより良いサービスを提供して、より良い品揃えを提供してというのがぐるぐる回るのがAmazonの戦略というか、そういうビジョンなんですね。
傍島:シンプルですよね。「うまい・安い・早い」じゃないですけれども。
加藤:そうです。そんな感じですね。
傍島:とにかく安く早く届けて、品揃えを増やすという、すごくシンプルなんですよね。
加藤:そうですね。でも、これって実は結構真似できないんですよ。例えば、ウォルマートは、昔はAmazonの何倍もの大きさがあったんですね。でも、彼らの株主が求めているものは配当金だったり、売上だけではなくて利益を求めるんですね。利益を求めるというのはどういうことかと言うと、事業成長に全部投資することができないんですよ。このAmazonの差別化というか、彼らの強みの源泉は株主の期待値が違うんですね。株主が求めているのは事業成長のみなんですね。ですので、すべてのお金を事業成長にどんどん投資していくことができます。でも、古くからある会社は株主が配当金とか利益を求めるので、同じことを真似できないんですよ。そういうことがあります。それで言うと、ビジョンがあって、それに向かって邁進していっているからAmazonは強い、そういう話ですね。
傍島:確かに。私、ジェフ・ベゾスが何年ぶりかに出てきたイベントに1回行ったことがあって、誰かが質問したんですね。「10年後に何が起こるかとか、5年後に何が起こるかを予想してビジネスをするんですか?」みたいな質問をした人がいたんですけれども、「俺はそんなの関係ない。俺はとにかく安くお客様に1日でも1分でも早く商品を届けることしか考えてない」とすごく自信を持って言っていて、かっこいいと思いました。
小川:確かに、言い切れるところがすごいですね。
加藤:そうですね。
傍島:何も迷わず言ってましたね。
加藤:とことんこのループを回すことしか考えてないんですね。ですので、彼らが取る行動はすごく合理的なんですよね。すべては「どうすればお客さんの価値をもっと最大化できるのか」ということと「どうすれば事業成長をもっとできるのか」ということで、こればかり考えているので、例えば、ホールフーズを買収しましたとか、Zapposを買収しましたというのもそうですし、Amazonミュージックをプライムメンバーにあげますというのも全部合理的な活動というか、すべてが先ほどのループを回すための活動になるということですね。
こういうのを見ていると結構先も読めるというか、彼らはビジョンが明確ですので、とことんそこを取り組んでいくしかないんですね。ですので、Amazon Goという新しい事業、コンビニのようなものをアメリカで42店舗展開しています。店に入って改札のようなところを通って、専用アプリを持っていると、いろいろなものをかごに入れてそのまま出るともうチェックアウトが済んでいるという、そういうシステムです。これはもう利便性の追求というか、顧客価値をどのようにして高めるかということばかり考えているという発想に行き着きますし、先月ぐらいにドローンの配達も実証実験を開始しました。
傍島:ありましたね。
小川:はい、すごい!
加藤:はい。裏庭に荷物を届けてくれますというものです。私も自動運転の分野は少し経験がありますが、自動運転は、ドローンでやるのか、それとも路上を走るロボットでやるのか、どちらのほうが合理的なんだという論争があったりするので、両方いろいろ研究はしていると思います。空から配達するということの合理的なシチュエーションもあるので、そういうことを実証実験をしていたりするんですね。すべては先ほどのループをぐるぐる回すということですね。先週、大きな買収を1個したんですね。
傍島:しましたね!
加藤:One Medicalという。
傍島:これは大きいニュースでしたね。
加藤:そうですね。39億ドル、5,000億円以上で買収をしました。
小川:すごい。
加藤:医療分野ですね。要はプライマリーケアクリニックといって主治医のいるような、お医者さんのオフィスをチェーン展開というか、180店舗以上展開している会社を買収したんですね。ここは年会費を払ってメンバーになるような、そういう病院というかクリニックです。アメリカの医療制度は本当に複雑ですので、自分の主治医に会ってもらうのにすごく時間がかかったり待たされたりしますが、ここの年会費を払っているとすんなり会ってくれたり、オンラインで答えてくれたり、そういうことができます。買収理由は2つあって、1つは、おそらくプライムメンバーにそういうサービスを付加価値として提供してあげる、顧客の価値を最大化するためということと、もう1つは、Amazonはものすごく大きな会社ですので、彼らが事業成長するためには市場規模の大きい分野に入っていかないと成り立たないんです。
傍島:そうですね。必要ですもんね。
加藤:そうなんです。成長し続けるためには、医療業界って米国経済の20を占めるので医療業界に入らないわけにはいかないんですね。この今の成長スピードを止めるわけにはいかないので。株主がそれを求めているというので、先ほどのループを回すためには、大きい業界にどうしても入っていかないと、ストーリーが成り立たなくなってしまうという、そういう宿命を背負っているという感じですね。これがAmazonの1つのビジョンを具現化していって、それにとことんこだわり続けて活動していくとこうなりますという、そういう姿ですね。
傍島:便利になりそうですかね。先ほどAmazon Goで決済が要らない、もうお買い物してかごに入れたらそのままお店を出られるというのがありましたけれども、病院についても、日本でも待ち時間がすごく長かったり、薬をもらうのに大変だったりあるんでしょうけれども、たぶん先ほどのAmazon Goのような感じでいくと、待つとかお金を払うとかなくなるんでしょうね。
加藤:そうですね。どんどんその辺を便利にしていくと思います。One Medicalはすごく良いサービスを提供していますが、スケールがそれほどありませんし、やはり資本金が必要でしたので、ちょうど利害が一致して買収に至ったようですね。
小川:皆様ぜひ、ここまででご質問などございましたら、Q&Aのコーナーからご質問をお寄せください。お待ちしております。
株主還元ではなく事業成長に投資する米国企業
加藤:ついでにもう1つAmazonの話をしておくと、研究開発費、R&D(Research & Development)にいくら使っているのかを調べてみたら、5.9兆円の予算がありました。
小川:えーっ、すごい!
傍島:桁が違いますよね!
小川:すごい額ですね。
加藤:これはだいぶ違うんですよ。日本の防衛にかかる国家予算を超えています。
傍島:年間ですよね?
小川:すごい!
加藤:そうですね。42Bドルですので相当ですよね。やはりAmazonと勝負しようとすると、なかなかフェアな戦いはできないんですね。
傍島:これね、当たり前ですが利益から出していかなきゃいけないわけですから、先ほどの株主に還元するお金があったら、こういう研究開発費に投入して、おそらくドローンの配達だったり、決済がなくなるコンビニだったり。
加藤:そうですね。
傍島:5.9兆円ってもう本当に国家予算ですよね。(笑)
加藤:5.9兆円あれば、それはドローンの自動配達などにもこの数パーセントを投資するだけで相当な技術の進化が望めるというか、それをいろいろなところでやっているんですよね。
傍島:すごいですね。
⽇本企業が抑えるべきDXのポイント
加藤:ここまでの話はわりと大きい話をしてきたので、もう少し地に足が着いた話もしたいのですが、意見は大丈夫ですかね。質問は来ていますね。
傍島:はい、もちろんです。アメリカではもう、先ほど冒頭の質問にあったDXという言葉は使われていないというのは、もう当たり前過ぎてみんな普通に取り組んでいますということだったと思います。では、具体的にどのようなことをしているかというのは、日本の事例も交えて話していただけますか。
加藤:はい。
小川:お願いいたします。
加藤:アメリカというか、本当にシリコンバレーだともうこの辺が会社のあるべき姿というか、そういう感じになっています。ただ、やはりAmazonはタイガーウッズですので、私のようなへなちょこゴルファーが見ても参考にならないんですね。
傍島:(笑)
加藤:ですので、きちんと勉強しようとなると、もう少し地に足の着いたところを見て、学ぶべきことをしっかりおさえるというので、その辺の話を少ししたいと思います。日本企業の事例をお話するんですけれども。
先ほど言いましたように、DXというのは両極端というか両方あって、抜本的なビジネス変革という話もあれば、日々の仕事のデジタルシフトという両方の側面があります。それはそれで両方ありだと思うんですね。われわれは日本で主に180ぐらいコンサルで展開していますが、やはりいろいろな企業からDXについての相談を受ける機会があります。そういったところでどういう傾向があるのかなと少し見てみました。まず、よくあるのが「とりあえずDX戦略室をつくってみました。社長に、あなたはDX戦略室長になってくださいと任命されました。でも、それ以上何も言われていない」というパターンですね。「とりあえず」症候群と呼んでいます。
傍島:「とりあえず」症候群。(笑)
加藤:とりあえず室長になっちゃった。でも、何をしたらいいのか分からないというパターンですね。こういう方もすごく多いんですよ。こういう方がいらっしゃいました。
傍島:確かに。
加藤:次に、これもよく聞く話ですが、「それっぽいコンセプト」だけがあるDXです。
傍島:それっぽいコンセプト。(笑)
加藤:それっぽいじゃないですか。「顧客情報を統合したいんですよ」と、確かにしたいのは分かりますが、それをどう活用するのか、それによってどういうメリットが生じるのか、この辺がまだ詰め切れていないような、少しぼやっと、なんかこういうことをしたいという、これはこれで全然悪い話ではありませんが、そういうコンセプトだけがあるというパターンですよね。
もう1つはソリューションが欲しいというパターンですね。
傍島:(笑)
困っていることより「困っていないこと」に目を向ける
加藤:マーケティングオートメーションをやりたいんですという話。でも、この辺もやはりこれだけだとなかなか動けないというか、ソリューションを入れようと言っても周りを巻き込んでいかなければならないですし、そういうときに「マーケティングオートメーションをやるんです」というだけだと掛け声として弱いんですね。こういう人たちはやはりどうしても苦労していて、なぜ苦労しているのかと言うと、一言で言うと、特に困っているわけではないんですよね。困っているわけではありませんが、何かしなければならないというのでDXとなってしまっているという状態がよくあります。
本質的な難しさ、DXは何が難しいかと言うと、今まで取り組んできたプロジェクト、企業変革のプロジェクトやITを刷新するんだというプロジェクトというのは、基本的に今困っているプロジェクトなんですね。ここがかさみ過ぎて何とかしなくちゃいけないとか、今あるITのシステムが古過ぎて保守できるITの人が来年リタイアするから今何とかしなければいけないとか、本当に今困っているから何とかしなければいけないというのが普通の今まで取り組んできたプロジェクトです。一方、DXは、困っていない人たちが会社をもっと良くしたい、もっと明るい未来があるはずというところを起点にスタートしているプロジェクトですので、難しいんですよね。もっと良い何かって何なの? それってどういう絵なの?とか、その辺を描けていなかったり、ぼやっとしてしまっているので伝わらなかったり、そういうのがDXプロジェクトの本質的な難しさなのかなと思っています。
傍島:なるほど。結構、左側のような従来プロジェクトをしていて「DXだ!」と言っている人はたぶん多いですよね。とにかく紙や手作業でしていることを何かしたいんですと。
加藤:そうですね。その辺のプロジェクトもDXと呼んでしまっているパターンも結構あります。
傍島:そうですよね。
加藤:ええ。でも、それは5年前でも行っていたプロジェクトだと思うんですよね。DXという言葉がある前から、今困っているからこれを何とかしなくてはいけない、業務改善プロジェクトを立ち上げるんだという話だったと思うんですよね。それがたまたまDXというラベルを付けているだけで、本当のDXというのはやはり未来を見ていて、今困っているわけではないんだけれども、明日のために何かしていきたいというのが本来のDXのあるべき姿なのかなと思います。
傍島:なるほど。これはなかなか深いですよね。
加藤:そうですね。
傍島:本質的な難しさってね、抜本的に何かを変えようというところが冒頭にあったDXの定義だったりするので、少し困っているところが直りましたというよりは、未来に向かって取り組もう、何だろうな、未来の健康予防ではないですが、こういうのに近いでしょうか。もっとこうなりたいというようなことで。
加藤:そうですね。この写真にあるように、対処療法的に対応してきたのが今までのプロジェクトでしたが、これからのプロジェクトというのは体を鍛えるとか、食事を気を付けるとか、たばこをやめるとか、そういう確実に良くしていくのですが、何に向かっていくのかというのがはっきりしていないとモチベーションに繋がりにくい、そういう基軸のものなんですよね。
傍島:なるほど。ありがとうございます。
加藤:コンセプトとしてはそんな感じだと思っています。一言で言うと、問題解決型の取り組みなのか、ビジョン駆動型の取り組みなのか、その違いなのかなと思っています。
小川:なるほど。ありがとうございます。それでは、ここでご質問が届いておりますので、どうぞお答えいただいてもよろしいでしょうか。
加藤:はい。
傍島:3つぐらい来ていますね。
小川:はい。3ついただいております。まずは「レガシー企業、装置産業などがトランスフォーメーション、ビジネスや組織の変革を実現する1つの方法として、企業ビジョンや目的から別の方法はないの?と新規事業を考えるスタイルもありでしょうか」というご質問ですが、いかがでしょうか。
加藤:ビジョンの描き方について、このあと少しお話しますけれども、ビジョンの描き方はトップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチの両方あると思います。今こちらでおっしゃっているのは、わりとトップダウンの企業ビジョンとして、会社としてこういう姿を目指すんだというところからスタートして、それを少しブレークダウンするとデジタルを活用したり、こういう新規事業が立ち上げられますよねとか、これをすると今のわれわれが向かっているビジョンに対してプラスに働くよねというような、そういう会社として向かう方向に沿ったかたちでのデジタルの活用、それはDXであると完全に呼べると思いますし、そういうスタイルも当然ありだと思います。
小川:ありがとうございます。そして、もう1つご質問が来ております。「アメリカでもデジタイゼーションからデジタライゼーションというステップを踏んだ時期があるのでしょうか」というご質問です。
加藤:デジタイゼーションからデジタライゼーションに、どうでしょうね。業界によるのでしょうか。デジタライゼーションと言うより、わりと基盤というか、ビジネスがデジタル上で発生するという感じなんですよね。ちょっと分からないです。
傍島:言葉が難しいですね。また、ワタナベさん、こっそりQ&Aを入れていただければ、追加でまたお願いします。
小川:ありがとうございます。それでは、もう1つご質問をご紹介いたします。「困り事ドリブンだと、既存ビジネスを問い直すことのない事例が多いのであまり良くない。いわゆる経産省が定義しているDXではない気がしていますが、最初の一歩としてはありなのでしょうか」というご質問です。
加藤:そうですね。やはりDXの定義が広過ぎて、どうとでも取れるので何とも言えませんが、本来のDX、狭義のDXという意味ではやはり根底からビジネスを良くするとか、根的から何かを変えていくという話ですので、今困っている、このプロセスを少し直しますというものには本来はあまりDXというのは必ずしもフィットしないと思います。ただ、日本のDXの使い方ですと、そこも含めてDXと言ってしまっても良いと思いますし、会社を良くしていくことは必ずしも戦略的なポジションにいなければいけないとか、経営者でないと変えられないという話ではなくて、まずは自分の部署や自分の領域を自動化することからスタートして、それが少しずつ派生的に周りに広がっていくようなかたちだとすると、すごく草の根的な会社を良くしていく活動になってきますので、まずは自分のできる範囲で行っていくということがすごく良い取り組みだと思います。
傍島:そうですよね。まずは最初の一歩として行っていくというのがいいですよね。
加藤:逆に、社長の大号令が出ないと動けないというのはやはり良くないと思います。まずはやはり自分の領域から、また、周りに自分の味方を見つけたりして草の根的なところができると結果も出やすいかなと思います。
小川:ありがとうございます。ご質問をいただいた皆様もありがとうございました。それでは、やはりビジョンが大切ということですが、ビジョンをどのように描いていけば良いでしょう、加藤さん。
何より⼤切なのは「目指すべきビジョンが明らかであること」
加藤:そうですね。ここにある通り、ビジョン駆動型の取り組みが基本的にはDXプロジェクトだと思いますので、当然、何よりも大切なのはビジョンを描くことです。先ほど言ったシリコンバレーの勝ち組の会社もビジョンが明確だからいろいろな活動が明確になって、それに沿ったかたちで動けるというのがあります。
目指すべきビジョンを明らかにするとはどういうことなのかというのを説明します。良いビジョンとはどういうものかと言うと、具体的なビジョンなんですね。それは一言で言うと、世界観が伝わるビジョン。ちょっと大きい話ですが、ここに例があるのは「スペースコロニー」という発想、プリンストン大学の教授がつくったデザインですが、これは説明がなくても見ているだけでわくわくしますよね。こういうわくわくが伝わるような、それが具体的な絵姿だという話です。逆に、先ほど話に出ていた「顧客データを統合したいです」というのはビジョンではありません。これは手段であって、顧客データを統合すると何がどううれしいのかが伝わらないですし、具体的にどう動いていいかが伝わらないですね。そのためには具体的な絵姿、世界観を伝えようとすると、例えば、顧客データをデジタルマーケティングで使いたいんですと。どう使いたいのかと言うと、個々のユーザーに対してコンテンツを押し出していって、その人たちの行動を見ながらカテゴリー分けして、彼らが興味・関心を持っていそうなコンテンツをさらにレコメンドして、ファンになってもらうんですと。そのためにこういうデータが必要で、こういうかたちで、この人たちに訴求するような、そういうツールがバックエンドで必要なんですというような話をしていくと、より目指す姿が伝わりやすいというか、確かにそういう世界があったらうちの会社にとってもプラスだし、うちの知名度も上がるしファンが増えるよねとか、そういうことが伝わるような、そういうレベルで仕組んでいく、それが伝わるビジョン、良いビジョンなのかなと思います。
傍島:確かに。なまじっか情報を知っている人が、世の中にある「こういうツールがいいんだよ」という話を聞いてきて、「これを使ってやりたいんです!」と言って手段から入っていく人は結構多いかもしれませんね。
加藤:そうですね。
傍島:「ここでデータをこうこうこうして、こうやってマーケティングして」と語るのですが、「それで何をするんですか」というところがないという、そんな感じですよね。
加藤:そうですね。結局、そういう目指す姿があると、だいたいの場合、1つのツールを入れておしまいではないんですよね。銀の弾丸というか、Silver bulletと言いますけれども、1つのソリューションですべての問題が解決できる話ではありません。そんなに単純な会社は世の中にありませんし、何か中核となるソリューションはもしかしたらあるかもしれませんが、それにどういう付随したものを付け加えなくてはいけないかとか、どのようにマインドを皆さんに変えてもらわなければいけないかとか、DXの取り組みはシステムを1つポンと入れておしまいということは基本的にはありません。ですから、具体的な絵を描くと、例えばここの顧客データの話ですと、ITの視点からするとどういうデータをどういう仕組みで取らなければいけないのかなど出てきますし、顧客データを集めるということは本部の視点からするとプライバシーの観点から、どういうデータを持つのであればこういうことを行わなくてはならないなど、いろいろな関係者がそのビジョンを見ると、自分はこう動かなくてはいけないんだなとか、ここはここまで考えなくてもいいんだなとか、そういうのが伝わるんですね。「顧客データを統合するんです」という掛け声だけだとどう動けばよいのか分かりません。でも、それをもっと具体的な世界観として語られると、動き方が分かりますし、もしかしたら賛同して、これだったら自分も少し残業しても手伝おうというような、そういうわくわくが伝わったりします。だから、ビジョンというのは具体的な絵姿で語る必要があるんですよという、それがここで伝えたかったことです。
傍島:大事ですよね。きちんと言語化して語るというのも大事かなと思いますね。先ほど絵を見せてもらいましたが、「こんなふうにしたいんだ」というのをきちんと言葉にして語って、仲間を増やしていくといった活動が重要かなと思いますね。
加藤:はい。やはり企業の中で活動していく、会社を変えていこうとする限り、仲間は絶対に必要ですし、経営陣のバックアップがあると千人力ですよね。そういうところをどうやってみんなに助けてあげたいと思わせるかと言うと、それは抽象的な掛け声ではなくて、具体的な絵姿、世界観ですね。
傍島:確かに。結構ありますね。「あれを少しこうして、こんな感じでいい感じにしておいて」と、そういうふうに言われるとちょっとね。(笑)
小川:(笑)
加藤:そうですね。
小川:抽象的です。
傍島:「なんですか、それ?」となりますよね。
加藤:そういうのはビジョンではありませんよね。
傍島:たまにアメリカのスタートアップと打ち合わせをするときに通訳をすることがありますが、今のようなことを言われても英語にできないんですよね。
加藤:分かります。(笑)
傍島:「今、何を言いました?」となってしまいます。(笑)
加藤:ええ。でも、スタートアップのピッチもそうですよね。やはりきちんと資金を集められるスタートアップは、将来のビジョンというか、将来の目指している姿がすごく鮮明に描かれていて、しかもそれを数値でバックアップしています。だから、説得力があって何億円単位でお金を投資したいと思うようになるわけですね。
傍島:確かに。こういう世界観を語っているCEOの社長の会社に、その解決策となる技術を持つ人、すごいプログラムを書けるような人が集まってくるんですよね。だから、手段はあまり関係ないですね。CEOというか、ビジョンを語る人はね。やり方は関係ないですよね。
加藤:ええ、そうです。世界観がどれほど共感を得られるか、どれほどみんなが賛同できるかというものと、あとは人をどう集められるかというだけで、もう「how」の世界は別に語らなくても、ビジョンさえあれば動けるようになってくるはずなんですよね。ちょっと熱く語り過ぎていますが…。(笑)
小川:ありがとうございます。(笑)
加藤:そういうスタートアップやAmazonの話もしていますが、組織がどのレベルにあるにしても、DXに取り組むのであれば、やはりまずはビジョンの鮮明さということを考えたほうが良いです。参考になるのは、よく言われる話ですけれども、DX銘柄など自分自身の業界でほかの会社がどういうことを行っているのかを見て、確かにこういう面白い考え方があるんだというヒントを得るというのは結構大事なステップだと思います。ただ、最終的にやはりビジョンは自分の言葉で語らないといけませんので、こういうものを参考にしながらも…。そうだ、変な例えですが、「ビジョンは、歯ブラシと同じ」なんですね。(笑)
小川:(笑)
加藤:絶対必要ですが、でも、他人の歯ブラシは使ってはだめですよね。
小川:そうですね。(笑)
傍島:なるほど。(笑)
加藤:大事なものですし、自分のものをきちんと持たないといけないのですが、他社のものを参考にしていいけれども、きちんと自分のものを持ちましょうねという、それがビジョンです。
傍島:面白い。(笑)確かに、分かりやすい。(笑)
小川:なるほど。ありがとうございます。それでは、またご質問をいただいておりますので、お答えいただいてよろしいでしょうか。
加藤:はい。
小川:「現在の日本型DXの課題の本質は、困っていないとのこと、納得です。一方、AmazonやUberをはじめ、抜本的にビジネスモデルを変えた米国型DX企業が増えていくと、日本型DX企業は将来的には淘汰されてしまうのでは?と危機感を感じています。登壇者のお二方は将来的にどうなるとお考えでしょうか。日本企業は危機感が弱過ぎて気付いたときには手遅れになっていそうな気がしています」というご質問です。いかがでしょうか。
加藤:そうですね。DXという観点で言うと、やはり日本はどうしても出遅れた感があるというか、それは否めないと思うんですね。Amazonも日本ですごく成長していますし。とはいえ、やはり日本発のIT企業で頑張っているところもあるという話もそうですし、淘汰についても、世界的な日系の企業というのも、中の人の優秀さを見ていると、そう簡単には負けないというか。現場力というか、海外の現場の人たちの力を見ていると、このまますんなりと日本の企業が負けていってしまうというほどの危機感を私はまだ持っていないです。
傍島:確かに。
加藤:もう少し言うと、デジタルという話は今が旬というか、今もう使える技術としてあると思いますが、このあとに出てくる環境価値の世界だとか、脱炭素だとか、そういう世界に入ってくると、今は投資すべき時期だと思うんですよね。日系企業が、特にメーカーが多い中で、そういう投資にどれぐらい国を挙げて力を入れられるか、それによっては、デジタルも1つの手段でしかありませんので、その次にくるもの、環境系の分野に、今、力を入れておくと、5年後10年後の糧になってくるのかなとは思います。
傍島:No.1はきちんとありますよね。そもそもトヨタさんの看板方式ではありませんが、オペレーションをいかに無駄なく行うかということは、日本の人たち、企業さんは強いですからね。それを便利なツールを使ってもっとよくしましょうということですので、確かにあまりツールの部分だけで日本が淘汰されるかという感じはないかもなという感じはしますよね。あくまでツールはツールだということで。特にアメリカの企業は合理的ですので、便利なものがあったら何でもぽいぽい使うんですよね。この歯ブラシも、「あー、これ使いやすいからいいじゃん」とちょっと使ってという話ですけれども。合理的ですからね。でも、日本は日本で良い点がすごくありますので、まだまだ頑張らないといけないですね。
加藤:そうですね。危機感を持たなければいけないというのは本当に事実ですね。
傍島:そうですね。頑張りましょうということですね。
小川:ありがとうございました。(笑)それでは、続いてのスライドをお願いいたします。
注目スタートアップ
加藤:はい。この辺の話は結構しているので、次にいきます。注目のスタートアップの話を少しします。先ほど少しお話しましたけれども、DXの取り組みというのは1つのソリューションを入れておしまいという話では基本的にはなくて、どういう姿になりたいのかという将来の絵があって、それに向けてどういうピースが必要なのかということを考えなくてはいけませんので、必ずしもこのスタートアップ良さそうだな、じゃあ、話してみようという話ではありませんが、ただ、面白いですし、世界ではこんなことをしている人たちがいるんだというのは参考にはなると思いますので、いくつか紹介しようと思います。
私は一応コンサルタントですので、何でも軸で考えてしまうのですが、業界の汎用性による軸で、どの企業・どの業界でも使えるサービス・システムに対して、業界に特化している話と、また、技術の成熟度として、すぐに使える、わりと成熟している技術と、今はまだ開発中・研究中の本当にこれからの技術と、両方用意して、この4象限を取ってお話をしていきたいと思います。
私は職業柄、この右上のほうというか、今すぐ、今困っているお客さんだったり、そういうところを相手にしていますので、どうしても右上のほうを見がちですが、やはり左のほうも面白い会社がありますので、私が注目しているところをいくつかご紹介します。
1つ目はcelonisという会社です。ここはもう、市場価値も10Bドルを超えているところですので、わりと大きいです。
傍島:スタートアップではないレベルですよね。10Bドルと言うと何兆円という規模ですね。
加藤:そうですね。スタートアップではないですね。ドイツの会社で、シリコンバレーではありませんが、すごく面白いんですよ。彼らの技術内容を聞いて、私は面白いことを考えるなと思いました。要は、SAPやERP系のシステムやSalesforceのシステムは大量のイベントログデータが出るんですね。それって誰がいつどのレコードをどう変えたかというのを詳細に捉えるデータがあって、それが山積みになっているのを全部取り込んで分析してくれて、プロセスの課題をデータから浮き彫りにしてくれるような、そういうサービスなんですね。
見ると分かりやすいのですが、例えば、受注から始まって支払いを受け取るまでのプロセスというのが、普通のコンサルタントがヒアリングして例を出すとこの真ん中の主流の線が出てくるのですが、これに対して、データとしてどこのプロセスにどれぐらい時間がかかっていて、どれぐらいの戻りが発生していて、本来いくべき次のステップではなく横道にどれぐらい逸れているのかとか、そういうのが浮き彫りになってきますので、課題がどこにあるのか、ここの課題をこれだけ短縮できるといくらの投資対効果が出るんだということがデータで語れるというのが彼らのサービスです。コンサル泣かせですが、よくできているなと思うサービスです。この辺は日本でも大きいですし、使われている会社もたくさんあると思います。
右下の領域に入っていくと、もう技術的には結構成熟していて、でも、この場合は物流というところに特化しているようなスタートアップで、OSAROという会社です。ここはもしかしたらKenさんのほうが詳しいかもしれませんけれども。
傍島:会いましたね。2016年ぐらいかな。
加藤:そうなんですね。始まった当初にお会いしているんですね。
傍島:そうですね。
加藤:彼らは、ピッキングと言って、例えばAmazonにオーダーしたとき、何を何個箱にいれなければいけないかということがありますよね。あれを倉庫の中で歩き回ってピックしている人いるのですが、それをロボットを使って動かしてしまえという話です。そのためにはコンピュータビジョンで商品が何なのかというのを見なければいけませんし、掴んで持ち上げて箱に入れるためには、形や重さを計算してどこを掴むべきかとか、バーコードがどこにあるのか等を分析して、それをピッとしたり、そういうことを技術として開発している会社です。結構、日本にも大きなお客さんがたくさんいるようで、サンフランシスコの会社ですが、東京にも拠点がある、そういう会社です。
傍島:面白かったですよ。唐揚げの山の中から唐揚げを取ってお弁当箱に詰めるということをしていて。
加藤:すごいですね。(笑)
傍島:唐揚げの山からどれが唐揚げかって1個の唐揚げを取るのって、コンピュータ的には結構難しいんですね。
加藤:そういうの難しいと思います。
傍島:難しいですよね。透明のものをピックアップして取ったりするのも難しいようですが、すごく頑張っているスタートアップですよね。
加藤:ええ、そうですね。ここからはもう少しアーリーステージの会社の話になります。Flowcarbonという会社がありまして、カーボンクレジットをブロックチェーンで取引可能にするということを考えている会社です。カーボンクレジットは、そもそもいろいろな事業者がいて、彼らがCO2の排出を削減するとクレジットになって、それをCO2を排出したい会社が買うんですよね。でも、それが成り立つためには、今の世界ですと、真ん中に政府などがドーンと入って一元管理しなければいけなくて、総量として何億トンのCO2が今年は削減できたので、何億トン分のクレジットを売っていいというふうな仕組みなのですが、ブロックチェーン上で事業者がCO2を削減したタイミングでトークン化してしまうと、より細かい粒度で売り買いができるんです。ある航空会社が、例えば、CO2を1万トン排出した分を、できればこの州やこのエリアで削減した事業者から買いたい、地産地消というか、もしくはこういうやり方でCO2を削減した事業者から買いたいなど、より細かい粒度で取引ができるようになるんですね。ブロックチェーンの使い方としてすごく素直というか、良い使い方をしている会社で面白いなと思っています。
傍島:良いことをしていますが、WeWorkの元CEOのお騒がせ男がこうして良いことを。
加藤:そうですね。悪名高い人ですけれども。(笑)
傍島:実は悪名高い人なんですよ。
加藤:ええ。
傍島:孫さんがすごく大変だったWeWorkの元CEOの方ですが、今回また、世の中のためにこういうことをやろうと、またお金が集まるのが面白いですよね。シリコンバレーらしいですね。
加藤:そうですね。結構、ブロックチェーンのこの使い方は、彼らが初めてではなくて、いろいろな会社が今まで行っているのですが、今回、Andreessen Horowitzが70Mドルなど多額の資本金を調達していますので、今はたぶん資金的に言うと、彼らがリードしているという感じです。
傍島:面白いですよね。
加藤:面白いです。まだまだアーリーステージの会社ですので、どうなるか分かりませんが…。
もう1つ、もっとアーリーステージな話です。物流に特化した話で、これはどこかのサイトで見つけて、もう単純に面白いことを考えるなというので感動しました。アメリカでは、たぶん日本もそうだと思いますが、モノの物流は最終的にはトラックに頼るんですよね。拠点、いろいろな場所に移動させるのに。1台のトラックは年間で32万ドルの燃料費がかかるんですよ。32万ドルと言ったら4,000万円以上ですね。
小川:えーっ!
加藤:それはディーゼルだけの金額です。かつ、1台1台のトラックはすごく高いものですので、簡単には買い替えられないですよね。このスタートアップが何をしているかと言うと、これは絵を見せたほうが早いのでお見せすると、この真ん中の部分をつくっているんですね。このアタッチメントはディーゼルで走っている車をハイブリッドに変えてくれるという優れもので。
傍島:おおーっ!
小川:すごい!
加藤:よくこんなことを考えるなと思いました。
傍島:考えますよね。
加藤:ハイブリッドの車は、普通は初動のところで力が必要ですのでガソリンやディーゼルを使いますが、そのあとは電気に切り替えますよね。そこを電気に切り替えたあとの走行はこの真ん中のアタッチメントが行ってくれるので、これが付くとディーゼルの消費量が9割減るんですね。
小川:へえー、9割、すごい!
傍島:9割!
加藤:9割ですね。そうすると、先ほどの4,000万円が単純計算で400万円になるんですね。3,600万円のコストが1台あたり削減できるはずという。
小川:はず。
傍島:はず、はず。(笑)
加藤:そうですね。はずなんですけれども。(笑)彼らのビジネスモデルは、これを売るのではなくて、そういう長距離バスや長距離トラックが停まる拠点、ガソリンスタンド等にこういうチャージングステーションを置いておいて、これは3分で付け替え可能らしいので、すでに充電済みのアタッチメントが置いてあって、トラックが来ると外して新しいのを付けてまた行くという、そういうビジネスモデルを考えているようですね。まだ実証実験前ですので、本当にできるのか、その辺はまだこれからですが、でも、投資対効果を見せやすいビジネスですし、温室効果ガスという話でもアメリカの全体の温室効果ガスの26%がトラックが出している排気ガスなんですね。ですので、そういった環境面でもいいですし、なかなか新しいし面白みもあるという、そういうスタートアップですね。SIX WHEELという会社です。
まとめ
小川:ありがとうございます。それでは、お時間が迫ってまいりましたので、そろそろRonさんからまとめを頂戴してもよろしいでしょうか。
加藤:はい。私が今日お伝えしたことというのは、日本的に言うとDXは大きく捉えていいと思います。抜本的な技術変革しかDXではないんだと言ってしまうと動けないですし、やはり社長が「やれ」と言わないと動けないというよりは、日々の仕事でもデジタルシフトでやっていけるのであれば、会社のカルチャーが変わってきますし、波及効果で会社が良くなっていくと思いますので、両方含めてDXと考えても良いと思います。
シリコンバレー的にはやはり抜本的なビジネス変革をもってDXというか、トランスフォーメーションだという話ではありますが、一番ポイントとなるのが目指すビジョンを明らかにしましょうということです。それはなぜかと言うと、DXというのは本質的には問題解決型ではなくて、ビジョン駆動型の取り組みだからですということがお伝えしたかったことです。ビジョンはいかに具体的な絵姿を語れるか、世界観を語れるかということが勝負です。ハブラシですので、人のビジョンを使って「これが俺のビジョンだ」と言ってはいけませんよ、具体的にどのように世界が良くなるのかということを伝えられるようにしましょう。そうすると、周りも巻き込めますし、DXが成功できるのではないですかということが今日お伝えしたかったことになります。
小川:Ronさん、ありがとうございました。それでは、あっという間にお時間となりましたので、本日の01 Expert Pitchは終了とさせていただきます。Ronさん、傍島さん、どうもありがとうございました。
加藤:ありがとうございました。
傍島:ありがとうございました。
小川:ご視聴いただいた皆様もありがとうございました。また、8月30日にお会いしましょう。それでは、さようなら。
以上