テックニュース2026.08.26読了 約6分

米エネルギー省が電池供給網に最大5億ドル、黒鉛・コバルトなど海外依存低減へ7件選定

米エネルギー省が電池供給網に最大5億ドル、黒鉛・コバルトなど海外依存低減へ7件選定


米エネルギー省が電池供給網に最大5億ドル、黒鉛・コバルトなど海外依存低減へ7件選定


米エネルギー省(DOE)が8月20日、電池の供給網を米国内で組み直すため、助成交渉に進む7件を選定し、最大計5億ドルの配分計画を発表しました。

EV(電気自動車)向けの主要な税額控除が終了し、電池製造向けの優遇制度にも変更が加えられ、需要見通しが下振れしたとTechCrunchが報じる中での決定です。

助成は素材の精錬から電解液、電極・セル製造、リサイクルまで、電池供給網の上流・中流の工程に集中しています。



最大5億ドルはどこに配分されるのか

DOEの重要鉱物・エネルギー革新局(CMEI)が公表した連邦負担分の内訳は、1億ドルが3件、5,000万ドルが4件です。今回の選定は助成交渉に進む案件を決めた段階で、選定先の一つNth Cycleは自社発表で、DOEによる助成の確約ではなく、最終的な金額は変わり得ると説明しています。

1億ドルの3件はいずれも、リチウム、コバルト、ブラックマスの処理・精製に関わる案件です。Lilac Solutions傘下のWaterleaf P1 HoldCoは、ユタ州West Promontoryのグレートソルト湖北東岸にリチウムの抽出・精製施設を建設します。DOEによれば、処理した塩水を湖に戻して正味の水量を減らさない方式で、第1段階で米国の現在のリチウム生産量の倍増を目指します。

Jervoisとして事業を行うFormation Holdings USは、電池グレードの硫酸コバルトを生産するコバルト精錬所を建設します。立地は未定です。Nth Cycleは、使用済みリチウムイオン電池から出る「ブラックマス」を高純度の金属と電池グレードの素材に精製する施設を米国南東部に設けます。

5,000万ドルの4件は製造・リサイクル側です。Princeton NuEnergyはジョージア州Commerceで、低温プラズマで製造スクラップからニッケル系正極材を再生する実証施設を建設します。Arcanum Venturesは米国メキシコ湾岸で、電解液の主要材料である電池グレードのエチレンカーボネートを生産します。Elevated Materialsは極薄のリチウム金属膜とプレリチウム化材料を、Coreshell Technologiesはカリフォルニア州サンレアンドロでシリコン負極の電極とセルを手掛けます。



予算は2021年のインフラ法、変わったのは前面に出す政策メッセージ

この5億ドルは新規の予算ではありません。DOEの資料によれば、原資は2021年に成立したインフラ投資・雇用法(IIJA)の40207条(b)および(c)に基づく電池素材処理助成と電池製造・リサイクル助成で、今回は第3ラウンドです。2025年8月13日の実施意向から公募・申請を経て、8月20日に選定が公表されました。

変わったのは前面に出す政策メッセージです。DOEは今回の選定を、供給網の海外依存を減らし、国家安全保障を強化し、米国のエネルギー支配を進める枠組みで説明しています。エネルギー長官のChris Wright氏は「米国は長きにわたり、現代生活に不可欠な重要素材を海外の主体に依存してきた」と述べました(出典:米エネルギー省)。Nth Cycleの案件についてDOEは、中国など海外への依存を減らすと明記しています。

同じ法律に基づく同じ助成枠ですが、前政権下の2022年の第1ラウンドではEV普及やネットゼロ、クリーンエネルギー技術の国内製造拡大を前面に出していたのに対し、今回は供給網の安全保障や海外依存の低減が強調されています。もっとも、外国勢への依存を減らして国家安全保障を強化するという目的自体は、2021年の法律に当初から明記されていました。



黒鉛・コバルト・電解液という、日本の素材産業と重なる領域

DOEによれば、Coreshellは輸入黒鉛を国内調達の冶金級シリコンに置き換え、シリコン負極を専門とする米国初のギガファクトリーを作ります。Arcanumが手掛けるエチレンカーボネートは電解液の主要材料、Jervoisの硫酸コバルトは正極材の原料です。供給網の上流にあたる精錬・素材の工程を米国内に立ち上げる動きが、公的資金で前に進みます。

用途の側では防衛分野が受け皿として意識されています。TechCrunchによれば、Coreshellの広報担当者は防衛用途が議論に上がっていると同誌に述べ、同社は防衛関連企業ADSを親会社に持つADS Venturesを投資家に迎えました。Nth CycleのCEO、Megan O’Connor氏は同誌に、防衛分野からの明確な需要が見える一方、自動車分野の需要も残っていると述べています。

TechCrunchが引用した数字では、米国防兵站局(DLA)の電池調達は2021年時点で年2億ドル、2026年の米自動車業界の電池製造支出見込みは調査会社Mordor Intelligenceの推計で約180億ドルです。年も指標も異なるため単純には比べられませんが、自動車側の規模が大きく上回る構図です。米国では家庭用蓄電池のBase Powerが10億ドルを調達するなど、EV以外の電池分野への投資も続いています。



今後の注目点

Jervois、Arcanum Ventures、Elevated Materialsの3件は立地が決まっていません。DOEの資料でも「Location TBD」と記されています。

DOEの今回の選定資料では、各施設の着工や稼働の時期は示されていません。ただしLilac Solutionsは別途、グレートソルト湖の施設の第1段階で2028年のリチウム生産開始を計画していると公表しています。供給網の組み替えがどこまで進むか、防衛分野の需要が自動車向けの落ち込みをどこまで埋めるかも、現時点で確認できる数字は限られています。



情報源

U.S. Department of Energy – Energy Department Announces $500 Million to Secure America’s Critical Mineral and Battery Supply Chains

U.S. Department of Energy – Battery Materials Processing Grants

U.S. Department of Energy – Battery Manufacturing and Recycling Grants

Nth Cycle – U.S. Department of Energy Selects Nth Cycle to Enter Award Negotiations for up to $100 Million

Lilac Solutions – Lilac Solutions Selects Hatch as EPCM Partner for Great Salt Lake Lithium Facility

IRS – FAQs for modification of sections 25C, 25D, 25E, 30C, 30D, 45L, 45W, and 179D under the One, Big, Beautiful Bill (OBBB)

IRS – Instructions for Form 7207, Advanced Manufacturing Production Credit

TechCrunch – US battery startups have found a lifeline in defense


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