NRF2023 レポート


2023年1月15日 〜 2023年1月17日
近藤 典弘氏 RxR Innovation Initiative株式会社 代表取締役社長 CEO
2023年1月15日~17日、NRF(全米小売業協会)の主催により、小売業の世界的な見本市であるNRF2023-Retailʼs Big Show(NRF2023)がアメリカ・ニューヨーク市で開催されました。今年のテーマは「Break Through(克服)」。パンデミックからの脱却、世界的サプライチェーンの課題、急激なインフレ、国際紛争など歴史的に見ても困難なことからの「克服」を意味しているとのこと。今年は世界75か国から35,000人以上が来場し、展示ブースやセッションともに、大変な賑わいを見せた。本レポートでは、既にネット上で紹介されている展示ブースの様子ではなく、「セッション」から、筆者が興味を持った5つのトピックをご紹介します。
NRF2023(左)とNRF2022(右)の来場者比較

1. 消費者のニーズと期待の変化に対応

“アジャイルビジネス戦略がビジネスの維持と成長を実現させる”

Macy’sの会長兼CEOであるJeff Gennette氏は、同氏のセッションで、現在、どのように店舗改革を行い、サプライチェーンの俊敏性を高めているかについて説明。重要なアクションは以下の3つとのこと。

  • 需要予測やトレンド予測等を活用し、消費者が求める商品や在庫の所在を把握
  • UPSとのパートナーシップにより、次世代技術を用いたオリジナル倉庫を開発し、店舗面積を縮小
  • 消費者の利便性ニーズの高まりに対応するため、オフモールの小型店舗をさらに展開し、BOPIS(オンラインで購入し、店舗で受け取る)等のオムニチャネルサービスを展開

“新しいソリューションが実現する適応性と俊敏性”

マイクロソフトによるセッション「レジリエント・リテール:マイクロソフトのクラウドでさらなる進化を」では、グローバルリテール・消費財産業担当副社長であるShelley Bransten氏が、現在のマクロ経済環境において、同社がいかに”適応性”をもってリードすることを目指しているかを示す、テクノロジー企業としての「レジリエント・リテール」の定義について解説しました。同氏は、レジリエンスとは、不確実な時代における適応力、将来の市場や消費者の変化を予測し、財務や経営上の問題点を解決する能力によって達成されるものであると説明。

マイクロソフトが定義する”レジリエント・リテール”

また、Bransten氏は、マイクロソフト・クラウド の新製品である「ストアオペレーションアシスト」とスマートストア・アナリティクスの「AiFi」を発表し、店舗従業員の能力向上とショッピング体験の向上により、小売企業の生産性向上と成長を支援することを強調しました。

マイクロソフトの新製品「ストアオペレーションアシスト」(左)とAiFi(右)

“ドローンはラストワンマイルの問題を解決できるか?”

『それでも飛ぶのか?ドローンの現状について』のセッションでは、Flytrex社のCEO兼共同設立者であるYariv Bash氏、Walmartのサプライチェーン・オペレーション担当上級副社長のDavid Guggina氏、JD Fashionのグローバルビジネス開発責任者のHarlan Bratcher氏が、ドローン配送の機会について、ラストワンマイルの課題解決のためにドローンをどこでどのように活用できるのかについてパネルディスカッションを実施。

  • Guggina氏は、Walmartのドローン配送サービスは約30分と高速で、すぐに商品を入手したいという消費者の要望に応えていることを強調。また、ドローン配送はまだかなり高価ですが、配送のためのコミュニティ・ハブがこれらのコストを大きく引き下げる可能性があると述べました。
  • Bash氏はFlytrex社のドローン配送サービスの普及について触れ、Harlan氏はJD.com社のドローン配送サービスが中国のロックダウン時に特に人気があったことを紹介し、同社は、パンデミック時に250万個以上の小包(医療品や食料品など)を配達した言及。
  • セッションでは、ドローンは2024年半ばまでに飛躍的な成長を遂げ、サステナビリティの観点から、ドローンは省エネや環境保護に貢献し、食料品やファッションの分野、病院サービスなどのコミュニティサービスにも自律型配送が広がると思われると締めくくった。
  ドローン配送の可能性を語る
(左から)Weinswig氏、Bratcher氏、Guggina氏、Bash氏

“焦点は製品から消費者へシフトしている”

小売企業は、消費者を戦略の中心に据えるようになってきています。スポーツウェア・靴小売企業のFoot Lockerのコアリテールテクノロジー担当副社長のDanny Knopp氏と、ソフトウェア企業Blue Yonderのグローバル・フィールドオペレーション責任者のCorey Tollefson氏は、Foot Lockerがテクノロジーを導入することで顧客体験をいかに変化させたかについて説明。Knopp氏は、投資先を製品主導から消費者主導へと転換させることから始めたと述べ、同社は消費者のニーズに対応するためのテクノロジーに投資し、Blue Yonderとのパートナーシップを通じて Eコマース、モバイルアプリ、デジタル機能を構築してきたことのことについて言及。それにより、Blue Yonderはリアルタイムの在庫可視化機能をFoot Lockerに提供。また、Foot Lockerはリアルタイムの店舗データを活用して配送能力を向上させ、BOPIS(オンラインで購入し、店舗で受け取る)および自宅配送サービスも展開や、スニーカーやアパレルの品揃えを充実させやパフォーマンスウェア、アスレチックアパレル、アクセサリーの専用エリアを設けた大型のコンセプトストアを実験的に展開ているとのことです。これらの店舗では、買い物客のエンゲージメントを高めるため、デジタルコンテンツの充実にも力を入れているとのことです。

2. 消費者に対しインタラクティブでソーシャルな新しい体験

“音声技術で変化するエンゲージメント”

競争の激化やその他の課題により、小売企業は消費者とのエンゲージメントを高めるための新しい機能やソリューションを模索しています。『音声技術が小売業に与える影響』と題されたセッションでは、音声はユビキタスであり、魅力的でインタラクティブな機能として組み込まれることが自然な流れであることが説明されました。Vendors in PartnershipのCEOであるVicki Cantrell氏は、「米国では毎日9000万人が音声技術を使用しており、その反応の速さはタイピングの3倍です。」と述べました。音声の利用シーンは、AlexaやSiriのようなデジタルアシスタントをはるかに超えて拡大し、パーソナライズされた対話の可能性によって、大きなマーケティングの機会を生み出している。Tractor Supply社の顧客向けアプリケーション担当副社長であるGlenn Allison氏は、同社がすでにモバイルアプリで音声技術を活用し、自然言語とAI(人工知能)を統合して、商品を素早く探せるようにしていることを紹介。同社は、カーブサイド・ピックアップのアシスト機能に音声を活用し、顧客の到着を従業員へ通知、このツールによって利便性と効率性を高め、カーブサイド・ピックアップにかかる時間を7分から数秒に短縮することができているといいます。また、店舗でも音声技術を活用し、従業員の役割を見直し、トレーニングや入社手続き、販売計画などにも応用し、さらにはこうした作業にゲーミフィケーションを導入しています。このセッションでは、Lullaboo Studiosの共同代表でTreehouse Consultingの創設者であるDonald Buckley氏と、Schwarz Digitalのイノベーション責任者であるMirko Soul氏が、音声によるデータ収集と、新しいマーケティングチャネルとして適切な店頭での対応について予測することについての意見も交わされました。Cantrell氏は、「消費者は昔のようなショッピングモールではなく、ライフスタイルを体験できるような、新しいショッピングモールを求めて戻ってくるでしょう」とし、より没入感のあるショッピング体験を提供できるツールとして、音声技術の導入が有望であると述べました。

(左から右へ)Cantrell氏、Allison氏、Buckley氏、Soul氏

“ラグジュアリー分野は2023年も好調か?”

新型コロナウィルスの大流行の最中、ラグジュアリーブランドは驚くほど影響を受けず、むしろ好調とさえ言える状況でした。LVMHの会長兼CEOであるAnish Melwani氏は、NRFのステージで、2023年のラグジュアリー分野の展望と、同社が体験とテクノロジーへの投資を通じて、どのように関連性を保ちつつ、その基本理念に忠実であり続けるかについて語りました。Melwani氏は、ロックダウン後に解禁された旅行がラグジュアリー分野の成長を後押ししたことを紹介しました。多くのアメリカ人は、VAT還付制度に惹かれてヨーロッパに旅行し、LVMHではBelmondやCheval Blancのポートフォリオの需要が急増したといいます。また、高級品の顧客層は超富裕層だけではないので、不況と完全に無縁だとは考えていないものの、LVMHは弱い経済環境に耐えるために控えめな資金調達を行い、よりソフトな着陸を見込んでいると述べました。Melwani氏が語った中で最も興味深かったのは、ラグジュアリーブランドとテクノロジーやWeb 3.0との関わり、そしてこの関わりによって”ブランドやメゾンの伝統やDNAが強化される”とした点です。例えば、デジタル証明書を備えたNFTは、ラグジュアリー品を入手する消費者にとって重要な真正性、倫理的生産、原材料の出処を証明することができます。一例として、Tiffanyの250個のクリプトパンクNFTiffコレクションは、最も成功したNFTプロジェクトの一つで、わずか1年足らずで1250万ドルを売り上げたとのことです。

(左から右)LVMH会長兼CEOのAnish Melwani氏、
CNBCのエディターのRobert Frank氏

“店舗での消費者体験向上のためのテクノロジー導入”

消費者が店舗に戻るにつれて顧客の期待は変化し、小売企業はテクノロジーへの投資を増やし、よりつながりのある、便利なショッピング体験を提供することが求められています。Coresight Research CEOのDeborah Weinswig氏が司会を務めたセッションでは、T-Mobile for BusinessとTractor Supplyの経営陣により、進化する消費者需要に応えるために店舗にどのようにテクノロジーを統合しているかが紹介されました。T-Mobile for Businessのリテール戦略アカウント担当マネージングディレクターであるRoopender Crowley氏は、パンデミックによる人材不足で、同社は技術戦略の見直しを迫られたことを説明(Tractor Supplyは、2023年末までに1,000以上の店舗で直接ブロードバンドを展開するなど、店舗でのコンピューティングパワーを高めるための投資を行っていることを説明)。店内テクノロジーの向上は、顧客によりパーソナライズされた店舗でのショッピング体験を提供することにも役立っているとし、例えば、消費者が「(自分が)どんな商品を見ているのかを知り、意思決定に役立つ、製品に関するより高度な洞察を提供する」ことができることを、Tractor SupplyのIT担当SVPであるAl Lettera氏は説明。Tractor Supplyは将来に向けて消費者の要求が刻々と変化する中で、より速く革新を遂げるためのテクノロジーに投資する予定であることについて言及。併せて従業員体験にもより投資し、最前線で消費者の要求に応えてくれている従業員に、より良いツールを提供することが重要だと語りました。

(左から右)Coresight ResearchのCEO兼創設者であるDeborah Weinswig氏、Tractor SupplyのIT担当SVPであるAl Lettera氏、T-Mobile for Businessの小売戦略アカウント担当マネージングディレクターであるRoopender Crowley氏、T-Mobile for Businessのソリューション工学担当ディレクターであるSteven Crowley氏。

“美容業界は消費者中心の体験を促進するために新たな技術を活用”

美容ブランドや小売企業は、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、ライブストリーム・ショッピングなどの新たな技術を活用し、消費者にとってより魅力的な体験を生み出しています。『テクノロジーで色づく美容業界』と題したセッションでは、Macy’sの美容部門担当副社長Nicolette Bosco氏、The Estée Lauderのデジタル技術・イノベーション担当副社長Ophelia Ceradini氏、BeautyMatterのCEO兼創設者Kelly Kovack氏が、テクノロジーを活用して消費者中心の超個性的美容体験を実現する方法について意見を交わしました。例えばCeradini氏は、Estée Lauderの顔分析ツールは、非常にパーソナルで、複数の異なる目や眉の形を検出し、より個性を感じさせることができることを説明。Kovack氏が、経営陣が最も期待しているテクノロジーは何かと質問したところ、ライブビデオショッピング、バーチャル試着、AIが最も可能性があるものだと言及。ソーシャルメディア上の美容分野において、テクノロジーは重要な役割を担っており、売上を促進し、消費者との交流を広げる手段として活用することができると述べ、その一例として、Bosco氏は、Macy’sでは、ビューティーアドバイザーがブランドの歴史や最新トレンド、美容テーマ、インフルエンサーの洞察などを理解するための社内向けテクノロジープラットフォーム「Macy’s Beauty Playground」を取り入れていることについて説明しました。また、Ceradini氏は、新しいトレンドを広めるTikTokの役割や、Estée LauderがAIを使ってトレンド製品のデータを集約している方法についても紹介。最後に、登壇者たちは企業の血管としての従業員の役割について、美容ブランドや小売企業は、消費者が欲しい製品を見つけ、個人に合ったおすすめ品やアドバイスを提供するための、美容や技術の専門家でもある従業員の役割が大きいことを強調しました。

(左から右)BeautyMatterのCEO兼創設者Kelly Kovack氏、
Macy’sの美容部門担当副社長Nicolette Bosco氏、
The Estée Lauderのデジタル技術・イノベーション担当副社長Ophhelia Ceradini氏。

3. Socially Responsible(社会的責任)に関する取組み

“未開拓市場であるインクルーシブ・アダプティブ・アパレル分野”

Mindy Scheier氏は、アダプティブ・アパレル市場への参入を支援するコンサルタントおよび人材管理会社GAMUTの創設者兼CEOであり、また、アパレルへのアクセスを支援する財団、Runway of Dreamsの創設者兼CEOでもあります。Scheier氏は、アダプティブ・アパレル市場における大きなビジネスチャンスと、企業がどのように市場参入戦略を立てればよいのかについて、小売企業の幹部数名と意見を交わしました。同氏によると、アダプティブ・アパレル分野は未開拓市場であり、インクルージョンは使命ではなく、ビジネスチャンスであり、参入の余地がまだまだあると述べました。2022年7月、GAMUTは、製品の制作やマーケティングにPWD(障害のある人々)が関わっていることを示すGAMUT認定シールを発表。Scheier氏によると、それらは、ブランド、小売企業、そして最も重要である消費者へ、信頼性を示すものになると説明しました。セッションの中で、Kohl’sのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)責任者のMichelle Banks氏は、ビジネスチャンスと必須事項としてのインクルージョンについて強調し、インクルーシブ分野に注力することで、小売企業の価値観とビジネス目標を一致させることができることを説明。また、Victoria’s Secretのダイバーシティ&インクルージョン責任者であるLydia Smith氏は、Scheier氏と提携することで、市場参入戦略の各段階を慎重に検討することができ、消費者の声が本当に届くようになったと述べました。その結果、多様で十分なサービスが行き届いていない複数の市場においても、新たな顧客層にサービスを提供することが可能になったとのことです。

アダプティブ・アパレルにおける参入余地の可能性について説明を行うScheier氏

“リーダー企業となるためにはインクルージョンとダイバーシティが不可欠”

優秀な人材を集め、前向きで生産的な職場環境をつくるためには、包括的で柔軟かつ多様性のある企業文化が不可欠です。NRFでは、TargetのCEOであるBrian Cornell氏と同社の複数の女性社員が、同社の15年に渡るDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)戦略の実践経緯について、従業員がサポートされていると感じられるような、”人”を中心に据えた戦略であることを説明。Targetは、インクルージョンとダイバーシティが小売企業にとって今や不可欠であることを実証しており、同社のDEIの取り組みには、子どもたちへの教育支援や黒人コミュニティへの支援なども含まれると述べました。

“サステナビリティへの取り組みには、さらなる自動化が必要”

URBNのPIM(製品情報管理)プログラム・マネージャーのMorgan Lawrence氏とStibo SystemsのMiriam Molino Sánchez氏は、消費者と小売企業の価値観の変化に対し、URBNにとってサステナビリティが不可欠になっていることを説明。その一例として、URBNでは、衣料品レンタルサービス「Nuuly」や、衣料品のヴィンテージ、リサイクル、再加工を行う「Urban Renewal」シリーズ展開を説明。Lawrence氏とSanchez氏は、サステナビリティに関連した法律や規制について、自動化を強化する必要性があることを説明しました。例えば、EUでは、梱包材にリサイクル・プラスチックを導入する提案が行われていますが、こうした取り組みは有益ではあるものの、小売企業としては、このような規制により、製品に関する影響が消費者まで及ぶことを望んでいないといいます。また、同じくEUでは、アパレル・繊維メーカーに透明性の向上を求める法案が提出されており、一部はすでに可決しているものの、積極的な取り組みとは裏腹に難しい面が多々あるといいます。このように、透明性の向上などを含むサステナビリティに関する取り組みがサービスを停滞させることがないよう、自動化を進める必要性があると述べました。

4. ビジネスの生産性や顧客コンバージョンを高めるため「テクノロジーの活用」

“テクノロジーの活用による消費者タッチポイントの改善”

競争が激化し、経済的にも逆風が吹き荒れる中、小売企業はカスタマージャーニーの全体像を理解し、最適化することの重要性を認識するようになっています。SAPによるセッション『業界リーダーがいかに成長とイノベーションを推進しているか』では、消費者行動のあらゆるタッチポイントをテクノロジーによっていかに充実させてういるかについて各パネリストが語りました。陶磁器・クリスタル・銀器小売業のReplacementsのCMOであるLinh Calhoun氏は、消費者の行動パターンと個々の興味を理解することで、同社がよりシームレスなカスタマージャーニーを実現できるようになったことを説明しました。また、Abercrombie&Fitchのデジタル&テクノロジーの責任者であるSamir Desai氏は、同社がテクノロジーを活用してカスタマージャーニーの問題点を改善する対策として、興味深い例を紹介しました。2022年10月、同社は「Share2Pay」を開始し、若い消費者が両親や保護者とショッピングカートを共有し、承認と注文完了ができるようにしました。これは、10代の若者は経済的に自立していない場合が多いため、親にショッピングカートを見せることができず、決済までの時間を待たされ、注文ロスを防ぐのが目的です。

(左から右)SAPリテールマーケティング&マーチャンダイジング担当グローバル副社長Kristin Howell氏、Desai氏、Calhoun氏

“ニーズに合わせた返品ポリシーがコンバージョン促進につながる”

Riskified社の顧客管理担当副社長Shani Gadot-Klinger氏は、同社が掲げる「買い物におけるすべてのタッチポイントでお客様を獲得する」の中で、スムーズで安全な決済と、ニーズに合わせた返金・返品ポリシーの重要性について述べました。一般的に、返品に関連するコストを削減するために、ブランドや小売企業は、顧客が商品を購入する前に、彼らが求めるものを理解する必要があるとされています。しかし、Gadot-Klinger氏によると、ロイヤリティの高い顧客に対してはより寛大に対応することで、顧客維持を高めることができるため、返品ポリシーをカスタマイズすることを推奨することを説明し、今年、小売企業が返品ポリシーを最適化できるような、新しいダッシュボードを発表する予定であることも明言しました。また、このセッションでは、Krogerのコマース担当副社長であるBill Bennett氏が、同社が最もテクノロジー・ソリューションを活用している分野は、商品の検索と発見であることを強調。同氏によると、Krogerのデジタル・クーポン・プラットフォームは2桁の成長を遂げており、消費者はお得になる商品を簡単に見つけることができるようになったといいます。また、ホームページと検索機能にも投資し、ディスカバリー体験を向上させていると述べました。

(左から右へ)Deloitte & Touche LLPのマネージングディレクター兼消費者アイデンティティ管理責任者のAlex Bolante氏、
Riskifiedの顧客担当副社長のShani Gadot-Klinger氏、GoProのEコマース担当副社長Kacey Sharrett氏、Krogerのコマース担当副社長Bill Bennett 氏

5. オムニチャネル、海外市場、マーケットプレイスのビジネスモデルにおける成長分野

“オムニチャネル機能はまだ改善の余地がある”

「オムニチャネル」は新しいキーワードではありませんが、多くの小売企業はオムニチャネル機能をいまだ十分に備えておらず、収益と成長に支障をきたしています。OSF Digitalのエグゼクティブ・ディレクターであるKathy Kimple氏は、Wolverine WorldwideのグローバルEコマース担当社長のMatt Blonder氏、SalesforceのGM兼副社長のRob Garf氏、GoProのEコマース担当副社長のKacey Sharrett氏など、小売企業の経営陣数名にオムニチャネルの主要トレンドとサービス改善のためにできる点について言及。中でもKimple氏は、OSF Digitalのオムニチャネル小売業指数から得た知見をいくつか紹介しました。

  • 検索に関する優れた機能が多く採用されている:33%の小売企業がホームページにアクセシビリティに関するリンクを設けており、31%がカスタマーサービスに関する情報を表示してアシスト機能を強化している。
  • 商品リストページに十分な機能がない:28%の小売企業しか、カーブサイド・ピックアップでのフィルタリングができない。
  • 再入荷通知機能は、商品をすぐに入手したい、予算重視の消費者にとって便利な機能だが、未だ24%の小売企業しか再入荷通知機能を提供しておらず、消費者コンバージョンに影響する可能性がある。
  • 購入時のフリクションを減らすことも重要な課題であり、40%の企業が「後で買う」機能を、33%の企業が「欲しいものリスト」「保存リスト」機能を設けている。また、決済時に入力が必要な項目数が平均11~12個なのは多すぎる。
  • 顧客サービスの向上は、ブランドや製品を支持するチャネルを提供し、売上向上やロイヤルカスタマー獲得、大きな収益増につながる可能性がある。
  • BOPISは今や必要最低限な機能である。カーブサイド・ピックアップは利用が減速しているものの、依然として人気がある。カーブサイド・リターンを提供しているのはわずか13%しかいない。
  • サステナビリティは実践的なプログラムになりつつある。
(左から右へ)Kimple氏、Garf氏、Blonder氏、Sharrett氏

“オンラインマーケットプレイス拡大のための考察”

McFadyen DigitalのCEO兼著者のTom McFadyen氏は、『マーケットプレイス、ドロップシップ、ハイブリッド:マルチベンダーによるEコマース拡大戦略』と題したセッションで、Eコマース事業者やマーケットプレイスの成熟度や準備レベルを5段階で評価する同社の「マーケットプレイス成熟度モデル(MMM)」(下画像参照)について説明しました。

現在、グローバルなオンラインマーケットプレイスの人気が高まっていることについて、パネリストたちは、オンラインマーケットプレイス機能を拡張・導入する際に企業が取り組むべき検討事項として、カテゴリーの拡大、市場への投入期間、値下げコストについて取り上げました。

McFadyen Digitalの「5段階のマーケットプレイス成熟度モデル」

Walgreensのデジタルマーチャンダイジング担当シニアディレクターである
Janae Pasquinelli氏(右)とオンライン市場の拡大について話し合うMcFadyen氏(左)

“グローバル・ラグジュアリーブランドが中国での成功を模索中”

ブランドや小売企業が拡張性を高める方法のひとつに、海外市場でのビジネスチャンス追求が挙げられます。Coachのグローバル・デジタル・エクスペリエンス&カスタマーマーケティング担当副社長であるRenee Klein氏は、『ラグジュアリーブランドはいかにホリデーショッピング体験を革新しているか』と題したセッションで、Alibabaのファッション&ラグジュアリー北米、英国、北欧・グローバリゼーション担当ディレクターのMei Chen氏と共に、CoachがAlibabaのTmall Luxury Pavilionと提携して中国のデジタルネイティブな若い消費者へのアプローチをいかに成功させているかについて語りました。Coachは、2017年に開始されたTmall Luxury Pavilionにおいて、数億人の中国人消費者とのつながりを目指すパイオニア的なブランドです。Tmall Luxury Pavilionは海外市場における有益なパートナーとして、テクノロジーの活用や同モールにおけるさまざまな消費者層との関わり方、商品やマーケティング面などでCoachを支援し、同プラットフォーム上で急成長を遂げました。Chen氏は、中国では祝祭日が特にショッピングの大きな機会であり、限定商品の発売やインフルエンサーとの提携による特別なブランドキャンペーンなど、Z世代とつながりを持つための重要な時期であることを説明しました。最後に、パネリストたちは2023年の中国のラグジュアリー分野の見通しについて述べ、それは欧米の将来の見通しとも一致する可能性が高いということで意見を一致させました。そして、ラグジュアリーブランドは、デジタル付加価値サービスを高め、ライフスタイルとしてのラグジュアリーの概念を強化するようになると述べました。

Tmall Luxuryの6つの戦略的消費者区分
(左から右)The Business of FashionのシニアコレスポンデントSheena Butler-Young氏、Klein氏、Chen氏

【レポート作成者】

RxR Innovation Initiative株式会社

代表取締役社長 CEO

近藤 典弘氏

小売(Retail)と地域(Region)の未来を創造するボーダーレスなコミュニティをつくる”をビジョンに掲げ、「小売(Retail)」と「地域(Region)」をテーマに国内外・業種を問わない企業コミュニティをつくり、業界最先端の情報提供、スタートアップ含む企業マッチングや実証実験の場の提供など、これからの時代に求められる新たな課題解決のアプローチを提示することで企業のイノベーション創出をサポートしています。

近藤 典弘氏