先日家の近くのコストコに買い物に出かけた時のこと。24本入りの炭酸水のケースをカートに積もうとしてバランスを崩した私の姿を見て、近くにいたアメリカ人男性がさっと手を差し伸べてカートに積むのを手伝ってくれた。「大丈夫か?よろけてたぞ(笑)」とニコッと笑顔の男性。「ありがとう。確かによろけてた(笑)」とこちらも思わず笑顔。
コロナ前はこういった他人の親切な行為をよく受けることがあったが、コロナが発生して他人との接触が禁止されてからはしばらくなかったので、久しぶりの見知らぬ人からの親切に心が暖かくなった。
コロナウイルス(COVID-19)がアメリカで問題になり始めたのは、2020年3月。当時はどういう経緯でコロナが感染するのかよくわからないまま、多くのアメリカ人が次々とコロナで亡くなっていき、私達一家が住むカリフォルニア州は感染拡大を防ぐために全米で最初にロックダウン(lockdown)を実施した州となった。外出禁止令が出たとはいえ、心身の健康を保つための散歩や、食料買い出しのための外出は認められていたので、必ずしも家に閉じこもっていなくてはいけなかったわけではない。
とはいえ、スーパーに買い物に行けばソーシャルディスタンス(social distance)を保つために店内に入れる人数が制限され、入店するまでに長い列を作って待たなければならなかったり、当時は感染者が触った物を介してコロナが移る可能性があるのではという懸念から、スーパーへのマイバッグの持ち込みは禁止となり、買ったものは全てマスク&手袋をした店員がレジ袋に入れて購入者に渡していた。レジ精算が終わるたびに毎回消毒作業が行われ、透明のアクリルパネルで仕切られた店員と客の精神的な距離は遠くなり、気軽に店員と世間話を交わす人も徐々に少なくなっていった。
我が家もできるだけ他人との接触を避けるために、買い物はアマゾンフレッシュ(Amazon Fresh)やインスタカート(Instacart)などの食料配送サービスを利用することが必然的に多くなったのだが、当時は食料品が届けられる度に全ての商品を除菌ウェットティッシュで拭き取っていた。
こういう状況になってくると、例えば誰かが物を落としたのを見たとしても、さっと拾って渡してあげるという当たり前の行為をすることに躊躇いが出てくる。他人が素手で自分の持ち物を触るという行為を快く思わない人がいる可能性があるからだ。
さらに追い討ちをかけるように、当時のトランプ大統領がコロナウイルスをChinese Virus (中国ウイルス)と呼んだことが原因で、アメリカ全土でアジア系住民へのヘイトクライム(Hate Crime)が激増し、普通に外を歩いているだけでアジア系住民が見知らぬ人にいきなり殴られたり、憎々しげに”Go back to your country!”(自分の国に帰れ!)と怒鳴られるといった事件が多発した。
幸い実際に被害に遭うことはなかったとしても、当時アジア系住民は皆少なからず次は自分がターゲットになり得るかもしれないという恐怖心を抱いていたことと思う。それにしても何も悪いことをしていないのに、見た目がアジア系というだけで憎悪の対象となってしまう恐ろしさ。移民の国、アメリカの闇を見た気がした。
ロックダウンから約2年半が経過し、人々の生活はコロナ前とほぼ同様に戻りつつある。先週から新学期が始まった息子の高校でもマスク着用義務はなくなり、マスクを着用するかどうかはそれぞれの生徒の判断に任されている。外出先でもマスクを外している人の姿が多く見られるようになり、長い間マスクの下に隠されていた人々の笑顔が見られるようになったのはとても嬉しい。