1軒目の家を出ることになった理由

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2015年から2017年まで2年間暮らした最初の家を出ることになったのは、リース契約更新の際に1ヶ月あたり500ドルの値上げをされたからだ。家のリース契約は1年間。最初の年は割と丁寧な文面で夫宛てに2016年は月100ドルの値上げをさせて欲しいと大家からテキストがあった。家を借りる前から「日本と違ってシリコンバレーでは完全に借主よりも貸主の力が強く、マーケットの状況に合わせて家賃の値上げをしてくるから覚悟しておくように」と周囲から聞かされていたが、まさにそのとおりであった。

月100ドルぐらいの値上げなら仕方ないと受け入れたが、2017年はなんと月500ドルの値上げ(年間6000ドル)。それもある朝、子供を学校に送り届けて家に帰ったばかりのところを大家が奇襲攻撃の如くやって来て、「今、ちょっと話していいか?」と玄関に上がり込み、「月500ドルの値上げの件をお前から旦那に話して、返事をするように。(値下げの)交渉には乗らない”No negotiations”」と言われた。

多少の値上げは覚悟していたが、一気に月500ドルも値上げされるとは思っていなかったため、結構ショックだった。というのも大家さん一家と我が家の関係は至って良好で、お互いの家でホームパーティーをしたり、日本に一時帰国した時はちょっとしたお土産を渡したりと、いわゆる日本人感覚でいうとそれなりの人間関係を築いている相手に対して、さすがに大幅な家賃の値上げはしてこないだろうと思い込んでいたからだ。

これには私と同様に夫も少なからずショックを受けたようで、「L(大家)一家とは友達だと思っていたのにな・・・」と寂しそうに言っていた。交渉には乗らないとは言われたものの、一応夫が大家と話したが両者が納得する形での合意には至らなかった。値上げを受け入れるか、それとも引っ越すかについて夫婦で話し合った結果、家の不具合や頻繁に出没する蟻に悩まされ続けながら月500ドルの値上げというのは見合わないという結論に達し、引っ越すことを大家に告げた。

この出来事で「大家とテナントは友達にはなり得ない」ということを思い知らされた。親しくしていようが、いまいが、大家とテナントはビジネスの関係なのだ。家賃を上げても、借りる人がいると判断すれば、大家は容赦なく家賃を上げてくる。現に次の家を探してる時に知り合ったアメリカ人男性のBさんの場合は月1000ドルの値上げをされたとのこと。彼には3人の子供がおり、そして奥さんは4人目の子供を妊娠中なので、引っ越しはできるだけ避けたいと大家に家庭の事情を説明して値下げ交渉をしたものの応じてもらえなかったと言っていた。「アメリカ人には情がない」と言われるのはこういうことがあるからかもしれない。

まあ一括りにアメリカ人と言っても、アメリカは移民の国。アメリカの市民権(国籍)を持っていてもバックグラウンドはさまざまだ。我が家の大家は子供の頃にアメリカに移住したチャイニーズアメリカンであった。

この話を日本に一時帰国した際に、子供の幼稚園を通じて知り合ったママ友で、日本人の旦那さんを持つ中国人のAさんにしたところ、「中国人はね、例えば飲食店に場所を貸したら、しばらくそのお店がうまく行ってるかじーっと観察してるの。それでもしも、このお店は流行ってるな、お客さんがたくさん入って儲かっているなと思ったら、翌月から家賃を値上げするのが当たり前なの。アメリカで中国人が嫌な思いをさせてごめんね。でも中国人のことを嫌いにならないでね」と言われたので、もしかするとそういった文化的な面もあったのかもしれない。

また、知り合いのアメリカ人女性のNさんは「私は大家と家族ぐるみの付き合いなんてしない。そして多少家に不具合があっても修理するように依頼もしない。だって修理を依頼すると、結局その分のコストを家賃に上乗せしてくるのがわかってるから。毎月黙って決められた家賃を払うだけで、できるだけ関わらないようにしている」と言っていた。

日本の場合はどちらかというと大家は「借りてくれてありがとう」的に借主に感謝をすることが多くて、滅多なことでは値上げしないような気がするが、ここシリコンバレーで同じような心構えでいるとちょっと傷つくことがあるかもしれない。

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