Wella
美容室のヘアカラー、ウエラ。
黒字 93 億円で残るのは 4 億円
黒字 93 億円で
ウエラが上場を申請した。美容室のヘアカラーで知られるブランドで、同じ会社が Clairol、OPI、ghd も持つ。会社は、2026 年 6 月期の直販の美容室の売上維持率を 97% と示す。会社の名前は The Wella Company。2026 年 8 月 31 日にニューヨーク証券取引所への上場に向けて目論見書(S-1)を出し、9 月 23 日に訂正版(S-1/A)を出した。本記事は訂正版に基づく。
率いるのは、消費者ブランドの会社を率いてきた 2 人である。最高経営責任者(CEO)は、スポーツウェアの Lululemon で 2018 年から CEO を務めた Calvin McDonald。2026 年 4 月に着任した。会長は、衣料品の Gap で会長兼 CEO だった Glenn K. Murphy。支配しているのは投資会社の KKR である。
2026 年 6 月期の売上は 29.39 億ドル(約 4,409 億円)。4 年続いた赤字のあとの黒字で、純利益は 6,230 万ドル(約 93 億円)だった。ただし、そのうち 5,871 万ドルは、子会社が出している優先株の持ち主に先に配分される。その他の少数株主への 90 万ドルを引くと、親会社に残るのは 270 万ドル(約 4 億円)である。
優先株の配当は年 6% か 8% の複利で積み上がる。償還されるまで現金では払われず、取り分の合計は 6 月末に 31.61 億ドル(約 4,742 億円)になった。上場のとき、英国の旧会社の優先株と普通株は新しい会社の株に交換される。訂正版は、想定する公開価格では旧会社全体の株の価値が、旧会社の年 8% の優先株(B 優先株)の取り分に届かないと書く。だから旧会社の普通株には何も残らず、新しい株は 1 株も渡らない。想定価格の数字は、まだ空欄である。
10 の問いで、事実だけを並べていく。
問 1
そもそも、何の会社?
一次ソース/S-1 から読み解く
Prospectus Summary(Who We Are、p.1〜) と Business(p.118〜) から読み解く
一言で言うと、美容室のカラー剤を軸に、髪と爪だけを扱う会社だ。
目論見書は自社を「世界最大の、髪と爪の専業会社」と呼ぶ。スキンケアは扱わない。100 か国を超える地域で売り、フルタイムの従業員は約 6,000 人。本社はニューヨークにある。
柱になるブランドは 7 つある。目論見書の年表にある年と役割を並べると、会社の形が見える。
- Wella Professionals(1880 年): 美容室向けのヘアカラーとケア。売上は 10 億ドル超
- Clairol(1931 年): 米国の家庭用ヘアカラー
- Wella / Koleston(1950 年): 中南米や欧州の家庭用ヘアカラー
- Sebastian Professional(1972 年): 美容室向けのスタイリング剤
- OPI(1981 年): ネイルカラー
- Nioxin(1987 年): 頭皮のケア
- ghd(2001 年): ヘアアイロンとドライヤー
出発点は 1880 年である。それから 145 年、持ち主は何度も替わった。目論見書によれば、いまの事業はかつて Bristol Myers Squibb と Procter & Gamble が持っていた。のちに化粧品大手の Coty に売られた。
2020 年 11 月、投資会社の KKR が Coty からこの事業の 60% を買った。Coty は 40% を残した。目論見書は、KKR がこの事業を「独立した、世界的な有力ブランド群」に変える構想で過半を取得したと書く。
経営を任されているのは、次の 2 人である。CEO の Calvin McDonald は、2018 年 8 月から 2026 年 1 月まで Lululemon の CEO だった。その前の 5 年は、化粧品専門店 Sephora の南北アメリカ部門を率いた。ウエラに来たのは 2026 年 4 月である。
会長の Glenn K. Murphy は、Gap で 2007 年から 2014 年まで会長兼 CEO を務めた。前の CEO が 2025 年 1 月に辞めてから McDonald が来るまで、暫定の CEO も兼ねた。2 人の報酬と契約は問 7 で見る。
いまの姿は、KKR が支配する非上場の会社である。上場する The Wella Company は 2025 年 5 月に作られた器である。事業は英国の Rainbow Capital Group Limited とその子会社が営んでいる。載っている決算も、この英国の会社のものだ。
145 年続く美容室のブランドを、KKR が Coty から買って約 6 年。その会社が上場に向かう。
問 2
何で勝負している?
一次ソース/S-1 から読み解く
Business(What Sets Us Apart、p.122〜) と Business(Go-to-Market Approach、p.131〜) から読み解く
美容室のカラー剤を先に押さえ、そこからケア製品と消費者へ広げる。
会社はプロ向けの戦い方に「Gain with Color, Grow with Care」という名前を付けている。カラーで美容室を獲得し、ケアで取引を太くする、という意味だ。
カラー剤は、替えるのに手間がかかる
目論見書は、ヘアカラーを「大半の美容室の主な収益源」と位置づける。そして、一度選ばれたカラー剤は替えられにくいと書く。
数字も添えられている。2026 年 6 月期、カラーを買う取引先の 76% がケア製品も買った。カラーを採用した美容室は、1 年以内に平均 4 つのケアの製品ラインを加えるという。
750 人の営業と 300 人の先生
美容室に直接売る営業担当は 750 人を超える。直販の取引先は 65,000 店超。会社全体では、卸を通す分も含めて 25 万店を超える美容室とネイルサロンに製品を届けている。
営業のほかに、美容師に技術を教える担当者(エデュケーター)が 300 人以上いる。教育の拠点は世界に 100 か所を超え、約 60,000 店の美容室と年 85 万回を超える接点を持つ。
会社は、直販の美容室の「売上維持率」を 97% と示す。その年の請求額を、その請求額と、前の年に買ってその年は買わなかった取引先の請求額を足した額で割った数字だ。その年に新しく取引先になった美容室は計算に入らない。8 月の最初の提出では 98% で、計算の定義も訂正版で書き換えられた。
費用のかけ方にも表れる。2026 年 6 月期は、売上の約 10% を営業部隊に、約 3% を教育の担当者に充てた。
プロの信用を、消費者の棚に持っていく
3 本目の柱は、美容室で得た信用を一般の消費者に広げることだ。美容室向けの処方を家庭用に作り替え、通販や量販店で売る。
消費者向けの販路が請求額に占める割合は、2023 年 6 月期の約 45% から 2026 年 6 月期に約 52% へ上がった。通販とマーケットプレイスは約 23% を占める。
手本として挙げられるのが ghd である。美容室で生まれたヘアアイロンのブランドで、いまは請求額の約 86% が消費者向けの販路から来る。
研究開発は 6 つの拠点と 300 人を超える科学者が担う。過去 5 年の投資は合わせて約 3 億ドル。新製品が売上に占める割合は 2026 年 6 月期に約 7% で、2023 年 6 月期から 2 ポイント上がった。
カラーで入り、ケアで広げ、消費者に届ける。入口は 750 人の営業と 300 人の先生である。
問 3
市場は、どれだけ大きい?
一次ソース/S-1 から読み解く
Prospectus Summary(Our Market Opportunity、p.3〜) と Industry and Market Data(p.ii〜) から読み解く
会社が示す市場は約 1,200 億ドル。伸びは年 5% 台である。
目論見書は、髪と爪の製品に髪用の機器を加えた世界の市場を、約 1,200 億ドル(約 18 兆円)と示す。2025 年から 2029 年の伸びは年 5.6% ほどと見込む。数字の出どころは調査会社の Euromonitor と Kline である。
いずれも 2025 年の数字で、図には「縮尺どおりではない」と注記がある。伸びの見込みがいちばん高いのは髪用の機器で、2029 年まで年 6.3% とされる。
会社は、景気に左右されにくいことも挙げる。根拠に、2008 年から 2009 年の金融危機のあいだも市場が伸び続けたことを挙げる。
美容室でカラーをする人は、年に平均 4 回から 6 回通うという。世界の美容室は約 300 万店ある。
販路の中身は動いている。美容製品の通販は 2022 年から 2025 年に年 11.9% 伸び、店頭は年 2.9% だった。問 2 で見た消費者向けへの移行は、この流れに沿っている。
大きく、ゆっくり伸びる市場。会社自身の売上は約 29 億ドルである。
問 4
誰が使っている?
一次ソース/S-1 から読み解く
Notes to Financial Statements(Note 3 Segment Information、p.F-24〜) と Risk Factors(p.24〜) から読み解く
買い手は美容室と量販店と通販。売上の 6 割は欧州・中東・アジアから来る。
売上を地域で分けると、欧州・中東・アフリカとアジア太平洋が 61%、南北アメリカが 39% である。国として数字が出ているのは 3 つだけだ。
残る 15.51 億ドルは「その他」にまとめられている。会社は米国を今後の大きな成長源と見込むが、米国の割合は 1 年で約 26% から約 25% に下がった。
買い手は 2 層に分かれる。1 つは美容室で、個店との契約はふつう 1 年、大きなチェーンとは 3 年から 5 年である。もう 1 つは小売と通販だ。
売上の 10% を超える取引先は 1 社もない。ただしリスク要因の章には、顧客 3 社で売上の 19% を占めたとある。社名は書かれていない。会社は大口の顧客として、美容品の小売、通販の運営会社、食品・ドラッグストア・量販店の販路を挙げる。
日本について書かれていること
日本の売上は開示されていない。国別の表に日本の行はない。
事業の説明で日本が出てくる箇所は多くない。美容室向けの髪製品で、会社が合わせて「2 位タイ」とする上位 20 の市場の 1 つとして。Wella / Koleston の販売地域の 1 つとして。そして、頭皮ケアの開発拠点が東京にあると書かれている。リスク要因の章は、競争上の重要な地域の 1 つに日本を挙げ、為替の影響を受ける主な通貨に円を数える。
競合の欄には日本の会社も載る。髪と爪の分野の主な競争相手は 5 社挙げられている。L’Oréal、Henkel、Unilever、Estée Lauder、そして Kao Corporation(花王)である。
美容室 25 万店と、小売・通販の大口。顧客 3 社が売上の 19% を占める。
問 5
どうやって稼いでいる?
一次ソース/S-1 から読み解く
MD&A(Results of Operations、p.95〜) と Business(Supply Chain, Manufacturing and Distribution、p.135〜) から読み解く
売上の 68% が粗利として残る。その大半を、販売費と管理費が使う。
稼ぎ方は単純である。製品を作り、美容室と小売に卸す。売上は 4 つの分類で示される。
- 美容室向けの髪製品: 16.36 億ドル(全体の 56%)
- 家庭用の髪製品: 5.93 億ドル(20%)
- ヘアアイロンなどの機器(ghd): 4.78 億ドル(16%)
- ネイル: 2.32 億ドル(8%)
2026 年 6 月期の粗利は 20.11 億ドルで、売上の 68.4% にあたる。そこから販売費と管理費に 15.85 億ドルが出ていく。売上の 54% である。
2026 年 6 月期の成長は、為替の影響を除くと 5.1% だった。会社によれば、そのおよそ半分は数量と製品の組み合わせから、残りは値上げから来た。ドル建ての見た目の伸びは 9.2% で、差の 1.08 億ドルは為替の追い風である。
自分で作るのは 6 割
髪と爪の製品は、ドイツ、メキシコ、タイにある 3 つの自社工場が約 60% を作る。残りは 40 社を超える外部の工場に任せている。
ghd は作り方が違う。製造はすべて外部に委託する。製品の定義、設計の監督、調達、品質の管理は社内に残す。2026 年 6 月期の ghd の粗利率は 69% だった。
会社はこの形を「垂直統合だが、資産は軽い」と表現する。2026 年 6 月期の設備投資は 6,500 万ドルほどで、売上の約 2% である。
2 つの事業の利幅は、ほぼ同じになった
事業の区分は 2 つある。髪と爪(売上 24.80 億ドル)と、ghd だけで成る機器(4.59 億ドル)だ。機器の額は、上の分類別の 4.78 億ドルとは一致しない。
会社が物差しにする利益は「調整後 EBITDA」である。2026 年 6 月期の利幅は、髪と爪が 18.9%、機器が 19.8% だった。機器は 2 年前の 13.8% から上がり、髪と爪を追い抜いた。
※ 調整後 EBITDA:Adjusted EBITDA。利息、税金、償却費に加え、減損やリストラ費用など会社が本業の外と見る項目を足し戻した利益
髪と爪の利幅は、前の期の 19.3% から少し下がった。会社は、関税と為替が原価を押し上げたことと、広告費を増やしたことを理由に挙げる。
粗利率 68%。髪と爪の製品は 6 割を自分で作り、粗利の大半は販売費と管理費に回る。
問 6
数字は健全か?
一次ソース/S-1 から読み解く
MD&A(Results of Operations、p.95〜) と Notes to Financial Statements(Note 20、p.F-64〜) から読み解く
黒字になった。ただ、その利益は誰のものか。順に見ていく。
表紙に近いページで、会社は数字を大きく掲げる。売上 29 億ドル、22 四半期続く成長、調整後 EBITDA 5.22 億ドル(約 783 億円)。純利益 6,200 万ドルの横には、「過去 4 年度の純損失のあと」と小さく添えてある。
5 年のうち 4 年が赤字だった
リスク要因の章は、同じことを別の言い方で書く。2026 年 6 月末の時点で、直近 5 つの年度のうち 4 つが純損失だった、と。
営業利益は出ている。2026 年 6 月期は 2.43 億ドル。そこから利息に 1.52 億ドル(約 228 億円)が出ていく。営業利益の 6 割強が、借入の利息で消える計算になる。
利息は減ってきた。2 年前は 2.03 億ドルだった。会社は、2025 年 3 月に利息を元本に積む型の借入を全額前倒しで返し、借入の平均残高が減ったことを主な理由に挙げる。
純利益の 94% は、子会社の優先株に帰属する
2026 年 6 月期の純利益は 6,230 万ドル。その行き先は 3 つに分かれる。
- 子会社の優先株の持ち主へ: 5,871 万ドル
- 子会社のその他の少数株主へ: 90 万ドル
- 親会社へ: 270 万ドル
優先株には、年 6% または 8% の配当が毎日積み上がり、年に 1 度、複利で元本に足される決まりがある。目論見書は、この配分が会社の業績と関係なく行われると書く。
これは会計上の利益の帰属である。5,871 万ドルをその年度に現金で払ったという意味ではない。払われていない配当は、優先株の残高に積み上がる。
実際、会社全体が 1.15 億ドルの赤字だった 2024 年 6 月期にも、この行には 4,691 万ドルが配分された。配分額は年ごとに増えている。
親会社にも、同じ仕組みの優先株がある
損益計算書に出てこない動きが、もう 1 つある。親会社自身も優先株を出していて、こちらも年 6% と 8% で積み上がる。現金は払われない。帳簿の上で優先株の額を増やし、ほぼ同じだけ過去の損失の累計に足す。
この調整は 2026 年 6 月期に 1.68 億ドルだった。2 年前は 1.34 億ドルで、複利なので毎年大きくなる。
2 つを合わせた優先株の側の取り分は、1 年で約 2.27 億ドル増えた。同じ年の純利益の 3.6 倍にあたる。6 月末の残高は 31.61 億ドルで、借入の 22.92 億ドルより大きい。
資本の合計はマイナス 15.32 億ドル(約 2,297 億円のマイナス)である。会計監査人は、会社の存続に疑いを示す注記を付けていない。現金は 3.22 億ドルあり、2026 年 6 月期に営業で入った現金は 2.25 億ドルだった。
買ったブランドの商標を、3 年かけて全額落とした
利益を押し下げてきた項目の 1 つが、商標の価値の引き下げである。3 年続けて計上され、合わせて 2.78 億ドルになる。
いちばん大きいのは Briogeo だ。2022 年 6 月期に買ったヘアケアのブランドで、米国と海外の商標を合わせて 3 年で 1 億 9,470 万ドル(約 292 億円)を落とした。2026 年 6 月期に、帳簿の上の価値は無くなった。理由は、売上が見込みを下回ったことだと書かれている。
2026 年 6 月期には OPI の商標も 1,550 万ドル引き下げた。会社は、OPI を含む 3 つの商標について、今後さらに引き下げる恐れが高まっていると自分で書いている。
| 項目 | 2026 年 6 月期 | 2025 年 6 月期 | 2024 年 6 月期 |
|---|---|---|---|
| 売上 | $2,939.1M | $2,692.2M | $2,590.3M |
| 営業利益 | $243.3M | $228.6M | $47.5M |
| 支払利息(純額) | −$151.8M | −$177.9M | −$203.3M |
| 純損益 | $62.3M | −$8.7M | −$115.2M |
| うち子会社の優先株へ | $58.7M | $50.7M | $46.9M |
| うちその他の少数株主へ | $0.9M | −$14.8M | −$39.4M |
| うち親会社へ | $2.7M | −$44.6M | −$122.7M |
| 調整後 EBITDA | $522.2M | $474.0M | $415.3M |
| 営業で入った現金 | $224.6M | $173.1M | $73.2M |
本業は稼いでいる。利息と優先株の取り分が、その先に並んでいる。
問 7
誰が動かしている?
一次ソース/S-1 から読み解く
Management(p.146〜) と Executive Compensation(p.153〜) から読み解く
問 1 で見た 2 人を、契約と報酬から見る。CEO の着任は 2026 年 4 月である。
最高経営責任者(CEO)の Calvin McDonald は 54 歳。就任は 2026 年 4 月 2 日で、訂正版が出た日から数えて半年足らず前である。
Lululemon を率いた人
問 1 で見たとおり、McDonald は Lululemon と Sephora を経てきた。いまは The Walt Disney Company の取締役でもある。
会社が彼に出した採用の書面は、2026 年 1 月 29 日付である。年俸は 150 万ドル。入社時の一時金は 60 万ドルで、正当な理由なく 2 年以内に辞めた場合などには返す約束になっている。
リスク要因の章は、この人事を率直に書く。
暫定 CEO が率いた 1 年あまり
前の CEO は 2025 年 1 月に辞任した。目論見書に名前は出てこない。会社は、その人が持っていた株を、当初の払い込み額より高い値段で買い戻すことに合意したと書く。
後任が来るまで、会長の Glenn K. Murphy が暫定の CEO を兼ねた。64 歳。衣料品の Gap で 2007 年から 2014 年まで会長兼 CEO を務めた人である。2017 年から 2023 年には Lululemon の取締役だった。
Murphy は 4 月 2 日に暫定 CEO の役を終えた。年俸は暫定 CEO のあいだの 110 万ドルから 20 万ドルになった。会長としての任期は、遅くとも上場の 2 年後に自動的に終わる。
報酬の大半は、普通株に連動する
2026 年 6 月期の McDonald の報酬は、合わせて 2,146 万ドル(約 32 億円)。在籍は 3 か月だった。そのうち約 2,000 万ドルは、6 月 26 日に与えられた株式報酬の、与えた日の時点の評価額である。現金で受け取った額ではない。
この報酬は、旧会社の普通株 567,677 株を受け取る権利である。勤務を続けることと、上場などの出来事が起きることを条件に、4 年かけて 4 分の 1 ずつ確定する。目論見書は、McDonald の権利が「普通株だけ」に連動すると注記している。
問 8 で見る記述は、この種類の株式報酬にも及ぶ。訂正版は、想定する価格では、旧会社の普通株に変わるはずだった株式報酬にも、新しい会社の株や株式報酬は渡らないとする。上場に合わせて裁量で与える予定の新しい株式報酬は、これとは別の付与である。対象には役員も含まれ、数と金額は空欄だ。
Murphy の報酬は 963 万ドルだった。2026 年 2 月に与えられた普通株 220,000 株分の権利のうち、106,667 株分には条件が付く。上場のあと、KKR が投じた資金の 2.25 倍以上を現金で回収したときにだけ確定する。
ほかの役員には、L’Oréal の出身者が目立つ。営業を統括する Hugo Kunetz、マーケティングの Yannis Rodocanachi、ghd の CEO の Jeroen Temmerman である。3 人とも、L’Oréal に 18 年から 20 年以上いた。
2026 年 4 月に来た CEO と、暫定を務めた会長。2 人の株式報酬は、上場などの出来事が確定の条件に入っている。
問 8
誰が握っている?
一次ソース/S-1 から読み解く
Prospectus Summary(Organizational Structure、p.14〜) と Certain Relationships and Related Party Transactions(p.176〜) から読み解く
握っているのは KKR である。上場しても、それは変わらない。
上場のあとも KKR は議決権の過半数を持ち続ける、と目論見書は書く。比率の数字は空欄だ。会社は取引所の決まりのうえで「支配された会社」になり、取締役の過半数を独立した人にする義務などを免れることができる。
Coty の持ち分は、5 年で形を変えた
2020 年 11 月に 40% を残した Coty は、翌年に持ち分を 25.9% まで減らした。KKR は 74.1% になった。
2025 年 12 月、Coty は残る 25.8% を別の会社に売った。その会社の 77.5% を KKR の側が、22.5% を Coty が持つ。目論見書は、これで Coty は直接の株主でなくなり、残るのは議決権のない間接の持ち分だけだと説明する。
上場後の資本の図には、KKR の 2 つの投資の器と、経営陣、新しい株主が並ぶ。Coty の名前は、KKR の器の 1 つの上に載っている。
交換の順番 ── 優先株が先、普通株があと
上場に合わせて、英国の旧会社の株は、上場する新しい会社の株に交換される。旧会社には 3 種類の株がある。年 6% で積み上がる A1 優先株、年 8% の B 優先株、そして普通株だ。
交換の順番は決まっている。まず A1 優先株が、元本と積み上がった配当の合計を公開価格で割った数の株を受け取る。次に B 優先株が同じ計算で受け取る。残りがあれば、普通株に回る。
訂正版は、会社の成り立ちを説明する節で、この「残り」についてこう書く。
理由も書かれている。想定する公開価格(価格帯の中央の値)で計算した旧会社全体の株の価値が、B 優先株の取り分の合計を下回るからだ。B 優先株の取り分は、その価値に基づいて減らされる。普通株の持ち主は、新しい会社の株も株式報酬も受け取らない。なお、交換の説明に出てくるのは旧会社の株である。子会社の優先株のうち親会社以外が持つ分(6 月末で 8.08 億ドル)は、この説明に出てこない。
これは訂正版で加わった記述である。8 月の最初の提出では、普通株も一定の比率(数字は空欄)で新しい株に交換されると書かれていた。価格帯そのものは、訂正版でも空欄のままだ。
役員報酬の章は、従業員が会社の制度で買った B 優先株と普通株は、上場に合わせて権利の確定した普通株に交換されると書く。この一文は 8 月の提出から変わっていない。
普通株を持っているのは誰か。表紙によれば、KKR の投資の器は旧会社の普通株と A1 優先株、B1 優先株を持つ。役員と従業員も、会社の制度を通じて B 優先株と普通株を買ってきた。問 7 で見た CEO の株式報酬は、普通株だけに連動する。
会社は上場に合わせて、対象者に新しい株式報酬を裁量で与える予定だとも書く。半分は与えた時点で確定する。数と金額は空欄である。
KKR に残る権利
上場に合わせて結ぶ株主間の契約で、KKR は持ち分に応じて取締役を指名できる。50% 以上なら過半数。5% を切るまで、少なくとも 1 割の席を指名できる。
持ち分が 25% 以上あるあいだは、会社の重要な決定に KKR の承認が要る。対象には、CEO の任命と解任、1 億ドルを超える買収や売却、会社の支配が移る取引が含まれる。
上場時に置く予定の、役員の報酬を決める委員会は 3 人である。目論見書は、取締役会が 3 人とも「独立している」と判定したと書く。そのうち Nancy Ford は KKR のパートナー、Sir Roger Carr は 2000 年から KKR の上級顧問である。同じ章の別の箇所には、取締役の独立性はまだ判定していないという記述も残っている。
定款には、KKR とその系列ファンドや、会社に雇われていない取締役に持ち込まれた事業の機会について、会社は権利を主張しないという条項も入る。
旧会社の 3 種類の株は、新しい会社の普通株との交換にかけられる。何株になるかは、取り分の順番と公開価格で決まる。
問 9
何を恐れている?
一次ソース/S-1 から読み解く
Risk Factors(p.24〜) と Notes to Financial Statements(Note 18、p.F-62〜) から読み解く
会社が自分で挙げる心配ごとを、5 つに絞って見る。
白髪を染めない人が増えること
リスク要因の章には、流行の名前がそのまま出てくる。白髪を受け入れる(embracing gray)流れが続けば、ヘアカラーの需要が減りうる、と。
逆の心配も書かれている。髪の手入れが肌の手入れのように手厚くなる流れが止まれば、ケア製品に響く。消費者が、会社の扱わないスキンケアにお金を回す可能性にも触れる。ヘアカラーは売上の「かなりの部分」を占めると会社は書く。
ヘアカラーと、がんをめぐる訴訟
会社は、カリフォルニア州とニューヨーク州で多数の訴訟の当事者になっている。Wella Professionals や Clairol を含むヘアカラー製品が膀胱がんを引き起こした、という主張である。件数は書かれていない。この種の訴訟のための引当金は、いまは積んでいない。
縮毛矯正剤をめぐる訴訟もある。問題の製品は、いまの会社が事業を引き継ぐ何十年も前に、前の持ち主が作って売ったものだ。会社は一度も作っていないと書く。それでも原告は、事業を引き継いだ者の責任を問うている。この訴訟について会社は、結果は不確かで、重大な悪影響がありうると書く。一方で、いま続いている法的な手続きの全般については、不利に決着しても負担は重要な額にならないと考えている、とも書いている。
デジタルコンテンツをめぐる 4,000 万ドル
リスク要因の章は、会社のデジタルコンテンツで著作権のある音楽を使ったことをめぐり、第三者と争いがあると書く。決算の注記には、デジタルコンテンツに関する知的財産の争いについて、金額が載っている。訴訟はまだ起こされていない。
会社は 2026 年 6 月期に、見込まれる損失として 200 万ドルを計上した。そして期末のあと、決算を出すまでのあいだに見積もりを改め、3,800 万ドルを足した。合わせて 4,000 万ドル(約 60 億円)である。保険で 2,800 万ドルが戻る見込みだとして、その分も同じ期に計上している。
変わる金利と、23 億ドル近い借入
借入の 22.92 億ドルは、すべて金利が動く契約で、2029 年 2 月に一括で返す期限が来る。会社の試算では、金利が 1% 動くと、年の利息は約 2,290 万ドル(約 34 億円)増減する。金利の変動を抑える取引を義務づける条項は、契約にない。
6 月末の時点では、借入の一部の金利を固定する取引があった。元本は 6.2 億ドルで、1 年前の 15.7 億ドルから減っている。注記の表では、その 3 本の満期はいずれも 2026 年 8 月である。
人が辞めやすくなること
上場が完了すると、従業員が会社の制度で買った株はすべて確定する。会社はこれを、引き留めが難しくなる要因として挙げる。CEO が来たばかりであることも、同じ段落に書かれている。
内部の管理については、2024 年 6 月期に重要な不備が 2 件見つかった。税金の会計と、本社で持っていたのれんと無形資産の為替換算である。会社は、2 件とも翌年度に直したと書く。
流行、訴訟、著作権、金利、人。染める習慣そのものがリスクに数えられている。
問 10
集めた金は、何になる?
一次ソース/S-1 から読み解く
Use of Proceeds(p.81〜) と Underwriting (Conflicts of Interest)(p.199〜) から読み解く
※ 本記事は S-1(または S-1/A)の事実のみに基づく。実際の IPO 価格、上場日、上場後の株価動向、需給は S-1 提出後の公知情報であり、本記事の対象外。
使い道は 2 つ。借入を返すことと、税金を払うことである。
売り出す株の数も、価格帯も、集める金額も、訂正版ではまだ空欄である。株を売るのは会社だけで、KKR などの株主が持ち株を売るという記載はない。
借入を、新しい借入と手取金で返す
1 つ目の使い道は、いまの借入 22.92 億ドルを全額返すことだ。上場と同時に新しい借入の契約を結び、その借入と手取金を合わせて返す。
新しい契約の枠は、8.5 億ユーロ、5 億ドル、1 億ポンドの 3 本の融資と、5 億ドルの融資枠である。返済の期限は最初の借り入れから 5 年。上乗せの金利は当初 2.25% である。いまの契約で 6 月末に適用されている 3.25% から 4.50%(通貨で異なる)より低い。
返す相手の 1 社は、KKR の関連会社である。6 月末の時点で 3,810 万ドル(約 57 億円)を貸していた。条件はほかの貸し手と実質的に同じだと会社は書く。目論見書は、この会社が返済で受け取る元本と利息と手数料の額を書く欄を設けている。数字は空欄だ。
株の交換にかかる税金を払う
2 つ目の使い道は、従業員と役員が株の交換や株式報酬で受け取る株にかかる税金を、会社がまとめて納めることである。この額も空欄だ。
8 月の最初の提出には、残りは一般的な事業の目的に使うと書かれていた。訂正版では、この一文が消えた。資金の使い道について経営陣に広い裁量があるというリスクの項目も、合わせて削られている。
上場で KKR に流れるお金
KKR が株を売るという記載はない。一方で、上場にともなって KKR の側が受け取るものが書かれている。
- 貸し手としての返済(上で見たもの)
- 引受の手数料: KKR Capital Markets が引受会社 21 社の 3 番目に並ぶ
- 助言の契約を終える手数料: 年に約 460 万ドルの助言料(うち 75% が KKR へ)の契約が上場で終わり、将来の分を現在の価値に直して、手元の現金から払う
支配する株主の関連会社が引受に入るため、この上場は利益相反の規則に従って進められる。Goldman Sachs が、独立した立場で内容を確かめる引受会社の役を引き受けた。
引受会社には、日本の Mizuho と MUFG の米国法人も入っている。上場先はニューヨーク証券取引所で、記号は WELA。会社と役員、既存の株主のほぼ全員は、180 日のあいだ株を売らないと約束する。
会社は、普通株に配当を出す計画は今のところないと書いている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上場先 | ニューヨーク証券取引所(記号: WELA) |
| 売り出す株数・価格帯 | 空欄(訂正版 S-1/A) |
| 株を売る人 | 会社のみ |
| 使い道 | 借入の全額返済、株の交換にかかる税金 |
| 新しい借入の枠 | 8.5 億ユーロ+5 億ドル+1 億ポンド、融資枠 5 億ドル |
| 引受会社 | 21 社。代表は Goldman Sachs と BofA Securities |
| 売却の制限 | 180 日 |
集めた金は、借入の返済と税金に向かう。事業に回す額は書かれていない。
おわりに
10 の問いの先に
The Wella Company が売っているのは、美容室との長い関係である。カラー剤を替えるには手間がかかり、直販の美容室の売上維持率は 97% である。そこにケア製品を重ね、消費者の棚へ広げる。売上は 29 億ドル、粗利率は 68%、2026 年 6 月期に営業で入った現金は 2.25 億ドルである。
だが、その稼ぎの上には、先に取る人たちが並んでいる。まず貸し手で、利息は営業利益の 6 割強を占める。次が優先株で、取り分は 2026 年 6 月期に約 2.27 億ドル増えた。純利益 6,230 万ドルのうち、親会社に帰属したのは 270 万ドルだった。
上場では、旧会社の優先株などが、上場する会社の普通株に交換される。訂正版は、想定する価格では B 優先株の取り分が旧会社の株の価値を上回り、旧会社の普通株には新しい株が渡らないと書いた。この交換の説明は旧会社の株についてのものである。子会社が出した優先株(6 月末で 8.08 億ドル)の扱いは、この説明には出てこない。集めた金は、借入の返済と税金に向かう。
LIGHT
光
・売上 29.39 億ドル、22 四半期続けて成長(為替の影響を除く)・粗利率 68.4%、調整後 EBITDA は 5.22 億ドル・直販の美容室の売上維持率は 97%・営業で入る現金は 2 年で 3 倍の 2.25 億ドル・利息は 2 年で 2.03 億ドルから 1.52 億ドルに減少
SHADOW
影
・直近 5 年度のうち 4 年度が純損失。資本の合計はマイナス 15.32 億ドル・純利益の 94% は優先株の側へ。取り分は 1 年で 2.27 億ドル増えた・想定価格では、旧会社の普通株に何も残らない・借入 22.92 億ドルは変動金利の契約。使い道は返済と税金・上場後も KKR が過半数。CEO は 2026 年 4 月に着任
目論見書は、会社を世界最大の髪と爪の専業会社と紹介し、KKR が「独立した、世界的な有力ブランド群」に変える構想で過半を取得したと書く。数字は、本業が稼いでいることを示している。そして同じ書類が、その稼ぎを誰がどの順番で受け取るかも書いている。価格帯と株数は、まだ入っていない。それが入るとき、旧会社の優先株が何株に換わり、新しい株主が全体の何 % を持つのかが、初めて数字になる。
その判断は、ここまで読んだあなたの手の中にある。
出典:すべての事実は The Wella Company の S-1/A(accession 0001628280-26-063205、2026-09-23 提出)から抽出。「8 月の最初の提出」と比べた記述は、原本の S-1(accession 0001628280-26-059572、2026-08-31 提出)による。円換算は 1 ドル = 約 150 円(draft_date 2026-10-10 時点)の概算。