Arm
99% を動かすのに、
1 円も受け取らない上場
2023 年 9 月、Arm Holdings plc(アーム)は Nasdaq 上場にあたり、最終目論見書を提出した。英国企業のため、上場登録書類は米国の S-1 ではなく Form F-1、価格確定後の最終版が Form 424B4 だ。本記事は、この目論見書に書かれた事実だけを読み解く。世界のスマートフォンの 99% 超に Arm の CPU が載り、累計 2,500 億個超のチップが Arm 設計で動く。世界人口の約 70% が Arm ベースの製品を使っている。コンピューティングの、文字どおりの土台だ。
だが、この目論見書には奇妙な点がある。Arm は IPO で新株を公募せず、売り出された ADS はすべて親会社 SoftBank が保有する既存株だ。つまり Arm 自身は、この売り出しから 1 円も受け取らない。
IPO 価格は 1 ADS あたり $51.00、基本の売り出しは 9,550 万 ADS。売出代金(引受手数料控除後・費用控除前)約 47.7 億ドル(約 7,060 億円)は、すべて売出株主である SoftBank に入る。目論見書によれば、上場後も SoftBank は 約 90.6% を保有する(引受会社が追加売り出しを全部行使すれば 89.9%)。時価総額 約 520 億ドル(約 7.7 兆円)の会社の、浮動株は 1 割ほどだ。
しかも、Arm の売上の 24% を生む最大顧客 Arm China を、Arm は支配していない。頂点に立つ会社が、自社の IPO で手を出さず、自社の生命線すら握れない。10 の問いで、その構造を並べていく。
10 の問いで、事実だけを並べていく。
- 問 1そもそも、何の会社?
- 問 2何で勝負している?
- 問 3市場はどれだけ大きいか
- 問 4誰が使うか
- 問 5どう稼ぐか
- 問 6数字は健全か
- 問 7誰が動かすか
- 問 8誰が握るか
- 問 9何を恐れるか
- 問 10集めた金は何になるか
- おわりに10 の問いの先に
問 1・問 2 は無料。問 3 以降は $25(買い切り)でお読みいただけます。 $25 で全文アクセス →
問 1
そもそも、何の会社?
一次ソース/F-1/424B4 から読み解く
Prospectus Summary(Our Business、p.1〜) と Business(Overview、p.121〜) から読み解く
一言で言うと、「CPU を中心とする設計図をライセンスする会社」だ。
Arm は、半導体を 1 枚も作らない。作るのは CPU(中央演算処理装置、コンピュータの頭脳)を中心とする設計図(IP)と、GPU・System IP・開発ツールなどの関連技術だ。それを Apple、NVIDIA、Samsung、Qualcomm などの半導体企業や OEM にライセンスする。
例えるなら、家を建てる会社ではなく、世界中の工務店に売る「設計図」を描く会社だ。Arm は工場を持たず、在庫も持たず、設計図の使用料で稼ぐ。
その設計図の普及度が、桁外れだ。世界のスマートフォンの 99% 超に Arm ベースの CPU が載る。累計では 2,500 億個超のチップが、Arm 設計で動いてきた。
センサーからスーパーコンピュータまで、Arm CPU は世界のソフトウェアの大半を走らせる。スマホ、タブレット、PC、データセンター、車、スマートウォッチ、サーモスタット、産業ロボット。会社は世界人口の 約 70% が Arm ベース製品を使うと見積もる。
2023 年 3 月期の 1 年だけで、300 億個超(30,583 百万個)の Arm ベースチップが出荷された。2016 年 3 月期比で 約 70% の増加だ。
なぜ 1 つの設計図がこれほど広がったのか。答えは「命令セット」にある。CPU がソフトを動かす際の言葉づかい、その規格を Arm が握っているからだ。
この規格は Arm が 1990 年から磨いてきた。省電力という一点で携帯電話に食い込み、スマートフォン革命の心臓になった。以来、Arm の設計図は「作らずに、世界を動かす」立場を占め続けている。
チップ工場を持たず、ライセンスとロイヤリティで、世界の 99% を動かす会社。
問 2
何で勝負している?
一次ソース/F-1/424B4 から読み解く
Business(Our Competitive Strengths、p.121〜) から読み解く
Arm の堀は、3 つの層でできている。
命令セットという「共通語」の支配
CPU がソフトを実行するときの規格を、命令セットアーキテクチャ(ISA)と呼ぶ。Arm はこの ISA の事実上の世界標準を握る。世界中のアプリと OS が Arm の言葉づかいに合わせて書かれており、別の規格に乗り換えるには、その膨大なソフト資産の移植・再コンパイル・検証という大きな負担が生じる。
これが乗り換えを阻む壁になる。Arm 自身が「世界で最も広く使われる CPU アーキテクチャ」と書く。作った瞬間ではなく、世界のソフトがそれに合わせて積み上がった時間の厚みが、堀になっている。
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- 問 3 市場はどれだけ大きいか
- 問 4 誰が使うか
- 問 5 どう稼ぐか
- 問 6 数字は健全か
- 問 7 誰が動かすか
- 問 8 誰が握るか
- 問 9 何を恐れるか
- 問 10 集めた金は何になるか
- おわりに 10 の問いの先に