S-1 ジャーナル
S-1解説・10の問い
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IPO目論見書を、事実だけで読み解く

Oura

黒字なのに、
1 株あたり 89 ドルの赤字

2026 年 9 月 3 日、Oura Inc. が SEC に S-1 を提出した。指にはめるスマートリングで、睡眠や心拍を測る会社である。有料会員は 500 万人。直近 9 か月(2026 年 6 月末まで)の売上は 12 億 1,450 万ドル(約 1,822 億円)で、前年同期比 74% 増。純利益も 6,080 万ドル(約 91 億円)の黒字だ。

ところが同じ 9 か月に、この会社は自分の株を 11 億 7,290 万ドル(約 1,759 億円)分、買い戻している。売上の 96.6% にあたる。銀行の借入枠からは 3 億 7,500 万ドル(約 563 億円)を引き出している。会社は経営陣による分析の節で、この借入を主として普通株と優先株の買い戻しに充て、そのほかは一般的な事業目的に充てたと書いている。

1,822 億円
REVENUE / 9M
9 か月の売上

1,759 億円
BUYBACKS / 9M
同じ 9 か月の買い戻し

−89.53 ドル
LOSS PER SHARE
1 株あたりの損益

このうち優先株の買い戻しでは、買い戻しの値段が帳簿の値段を上回った差額が、会計のうえで「優先株主への配当とみなす」扱いになる。その額が 9 億 8,500 万ドル(約 1,478 億円)。黒字 91 億円から差し引かれ、普通株主に帰属する損益は 9 億 2,430 万ドル(約 1,386 億円)の赤字に反転する。1 株あたりでは 89.53 ドルの赤字だ。

会社はこれを隠していない。目論見書の資本配分の節に「1 株あたりの長期的な価値を複利で増やすように事業を運営している」と書き、この 2 年で、直近に発行した優先株の 1 株価格が 260% 上がったのに対し、含意される企業価値の伸びは 215% にとどまったと、成果として並べている。500 万人が指にはめている会社と、株を買い集めている会社。同じ 1 つの書類の中にある。

10 の問いで、事実だけを並べていく。

問 1

そもそも、何の会社?

一次ソース/S-1 から読み解く

Prospectus Summary(Our Mission & Founding、p.1〜) と Business(The Oura Platform、p.122〜) から読み解く

一言でいうと、ほぼ 1 日中、体を測り続ける指輪の会社だ。

Oura が売っているのは、チタンの輪である。最新の Oura Ring 5 は幅 6.09 ミリ、厚さ 2.28 ミリ。画面も通知もない。内側に光を当てるセンサーが並んでいて、指の血管を通る血の動きを読む。読んだ信号はスマートフォンのアプリに送られ、睡眠、活動、ストレス、心臓、代謝、女性のからだにまたがる 50 を超える指標になる。

この設計思想は 1 行で説明できる。画面を持たないから、外さない。直近の四半期で、有料会員がリングを身につけていた時間は 1 日あたりの中央値で 約 23 時間だった。腕時計型のように夜に充電のため外す必要がない。

我々の使命は、人々がより健やかに、より長く生きられるようにすることだ。

“Our mission is to empower people to live healthier, longer.”

OURA S-1 (SEP 2026) — OUR MISSION & FOUNDING

なぜ指なのか。目論見書の説明は明快だ。指は血管が密で、光で測る信号(PPG)が 手首の最大 100 倍強いという。強い信号は、そのまま測定の精度になる。

そして会社は、その精度を数字で書く。心拍 約 99%、心拍変動 98%、排卵の推定 96%、そして 睡眠の精度 96%。約 87% が「精度は購入を決めた重要な理由の 1 つだった」と答えたとも書かれている。

ただし、同じ書類の後ろのほうに、睡眠計測技術の精度に関する広告が虚偽だという集団訴訟が 2026 年 8 月に起こされたことも書いてある。訴訟がどの表示を対象としているかは、S-1 には書かれていない。この 2 つの記述の距離については、問 9 で扱う。

積み上がったものは、指標ではなくデータの量として表現されている。約 418 億時間ぶんの生体データ。1 人がほぼ 1 日中はめ続けることを、10 年以上、世界 56 市場で続けた結果だ。

画面を持たないから外さない。外さないから、データが貯まる。

問 2

何で勝負している?

一次ソース/S-1 から読み解く

Business(Our Competitive Strengths、p.147〜) と Business(Competition、p.162〜) から読み解く

Oura の戦い方には、3 つの柱がある。

相手は小さくない。目論見書が競合として挙げるのは 3 種類だ。Apple、Google(Fitbit を含む)、Samsung のような汎用のスマートウォッチ。Coros、Garmin、Whoop のような、主に手首型のフィットネス機器。そして機器を選ばずに助言を出すソフトウェアの会社。「その多くは潤沢な資源、多様な製品群、確立した供給網と流通網、強い世界的なブランド認知を持つ」と書かれている。

それでも勝てると書く根拠が、3 つある。

測る場所を、手首から指に変えた

1 つ目は、問 1 で見た信号の強さである。指は光が通る血管が密で、腕時計型より強い信号が取れる。とくに夜は体が静かで、信号のばらつきが小さい。会社はこれを「基準からのわずかなずれを早く見つけられる」と説明する。

加えて、腕時計型が抱える宿命がない。通知も画面もないので、会議中でも寝ている間でも外す理由が生まれない。この「ほぼ常時の装着」を、目論見書は 「独自のデータの堀」と呼ぶ。

1,140 件の特許と、社内の博士 50 人

2 つ目は、指という形に対する権利と体制だ。2026 年 6 月末時点で、特許と出願は 1,140 件を超える。ハードウェアの設計、センシング、長期の生体データの取得と解析にまたがる。

社内には 博士号を持つ研究者が 50 人超、医師が 5 人いて、外部の学術パートナーは十数機関ある。シンガポール国立大学とは 2019 年から組み、7 年間で 23 の研究、シンガポール国内の被験者 5,250 人超、論文 20 本を出した。2025 年 10 月に共同研究所の開設が決まり、公表は 2026 年 1 月である。

データが増えるほど、次の機能が早く出る

3 つ目は、その 2 つを回す輪だ。会社はこの輪を、6 つの段階が円をなす形で説明している。会員を集めて留める、長期のデータが深くなる、AI モデルが強くなる、ハードウェアと機能の開発が速くなる、会員がもっと使う、体の状態がよくなる。そしてまた最初に戻る。

この輪の強さは数字にも出ている。1 日に 1 回以上アプリを開く人の割合(DAU を MAU で割った値)は 約 65%。会員は 1 日に平均 3.5 回以上アプリを開く。ヘルスケアの製品としては、かなり高い頻度である。

ただし、競合の 1 社は原告でもある

3 本柱を並べたところで、目論見書はもう 1 つの事実を書く。競合として名指しした Samsung の 2 社が、2025 年 12 月 12 日、米国際貿易委員会(ITC)に申立てを行った。特許 4 件の侵害を主張している。求める救済には 一部の Oura Ring 製品の輸入制限が含まれうる、と書かれている。

競争と訴訟が、同じ相手で同時に起きている。詳しくは問 9 で見る。

外さない指輪が、データを貯め、データが次の機能を呼ぶ。

問 3

市場は、どれだけ大きい?

一次ソース/S-1 から読み解く

Business(Our Market Opportunity、p.144〜) から読み解く

市場の数字は、2 段階で示される。

1 段目は、いま戦っている場所である。調査会社 IDC によると、直近 12 か月に世界で出荷されたウェアラブル機器は 約 2 億 1,200 万台。同じ期間に Oura が売ったリングは 360 万個で、世界シェアは 約 2% にあたる。

2 段目は、その外側だ。フィットネス機器、ヘルスケアの指導アプリ、避妊や妊活のアプリ、デジタル治療、血糖や血圧のセンサー。この 5 つの分野を足すと、2026 年で 900 億ドル(約 13.5 兆円)超になる、と調査会社 Statista の推計をもとに書かれている。会社はこれを自社が届きうる市場(SAM)と位置づける。

この 2 段目の中身は、注記に細かく書いてある。フィットネス機器 449 億ドル、指導アプリ 223 億ドル、デジタル治療 84 億ドル、血糖や血圧のセンサー 131 億ドル、避妊や妊活のアプリ 26 億ドル。将来の販売承認を前提にした分野も含む、という断りつきだ。

さらにその先として、予防医療そのものが挙げられる。心血管の病気を持つ人が 世界に 約 6 億 1,200 万人、睡眠時無呼吸が 9 億 3,600 万人、不妊が 1 億 1,000 万人、過体重や肥満が 30 億人。会社は「多くの場合、最も費用がかかる結末は、防げたはずのものだ」と書く。

数字としては壮大だが、いま現実に売れている面はもっと狭い。直近 9 か月、ハードウェアの売上のうち 米国外は 20% 未満である。世界市場の 2% を、しかもほぼ米国で取っている会社だ。

世界の 2%。しかも、そのほとんどが米国での話である。

問 4

誰が使っている?

一次ソース/S-1 から読み解く

Prospectus Summary(Our Members、p.6〜) と Business(Partner Ecosystem、p.125〜) から読み解く

会員の中身は、ウェアラブルの平均像とかなり違う。

2026 年 6 月末の有料会員は 500 万人。その内訳が、この会社の性格をよく表している。

2026 年 6 月末の会員構成:

72%
WOMEN
女性
31%
GEN Z & UNDER
29 歳以下
37%
UNDER $100K
世帯年収 10 万ドル未満
15%
HEALTHCARE WORKERS
医療従事者(米国会員)

女性が 72%。しかも 2024 年度からの伸びは、女性が年率 約 143%、男性が 約 94% で、女性のほうが速い。生理周期、妊活、妊娠、更年期と、人生の段階をまたいで使い続ける導線が効いている、という説明だ。

もう 1 つ目を引くのは、持病を持つ人の多さである。2026 年の会員調査では、半数超が慢性の病気を 1 つ以上抱えていると答えた。そのうち 80% が、病気に関する判断のときに Oura のデータを見ると答えている。米国の会員の 15% は医療従事者だ。

新しく買った人の 33% は「ウェアラブルを持つのが初めて」、29% は「持っていたものから乗り換えた」、37% は「他の機器と併用している」。市場を奪うだけでなく、市場そのものを広げていると会社は主張する。

売り場は、大手小売に寄っている

買われ方の話をする。直近 9 か月で、ハードウェアの売上のうち 約 49% が小売チャネルを通っている。目論見書はこれを、直販と、小売・法人パートナーからなる卸チャネルを組み合わせた形だと説明する。取引先として名前が挙がるのは Amazon、Best Buy、Costco、Harrods、Target。世界で 約 8,400 の売り場に置かれている。

危険要因の節に、1 行だけ静かな但し書きがある。「最大の小売パートナーとは契約があるが、これらの契約は一般に、最低購入量その他の意味のある数量を求めていない」。ハードウェア売上のほぼ半分を運ぶ相手が、明日から買わなくてもよい契約になっている、ということだ。

逆に、直接の関係は手放していない。どの売り場で買っても、会員登録は Oura に対して行う。だから会員課金の経済は全部こちらに残る、と書かれている。

指輪が、保険と医療の器具になっていく

もう 1 つの顔が、法人との提携である。目論見書は 7 件の事例を、写真つきで並べている。そのうち 3 件は、消費者向け機器の話ではない。

3 つの提携が示す、別の売り方

John Hancock
── 生命保険
開始2023 年 5 月
位置づけJohn Hancock Vitality
Program で提供された
初のスマートリング
会員の得るもの割引価格での購入、
睡眠や瞑想での
ポイント、保険料の
優遇
「Incentives are earned,
not surveilled」
── 保険会社は個人の
体のデータを見ない。
Oura が点数と
等級に変換して渡す。
Essence Healthcare
── 高齢者保険
開始2024 年 10 月
位置づけ対象のメディケア・
アドバンテージ会員に
追加費用なしで提供
2025 年の利用率対象プランで 25% 超
測られた差睡眠スコア +3.6%
(対照群 +1.0%)、
低強度の活動 +17.2%
(対照群 +0.5%)
会員 1,400 人と対照 800 人、
2025 年 1 月 20 日から
5 月 1 日までの調査。
Natural Cycles
── 避妊アプリ
開始2022 年 8 月
位置づけFDA が認可した
避妊アプリ(クラス II
医療機器)に体温を
自動で渡す
Oura Ring と併用45 万人超の女性
(2026 年 6 月末)
毎朝、口に体温計を
くわえる手間が
なくなった、
という位置づけ。

この 3 つに共通しているのは、Oura が単体の消費者向け製品としてではなく、他社のサービスの部品として使われることだ。

ただし関わり方は 3 つとも違う。生保は割引価格で買わせ、Vitality の等級が上がると保険料を優遇し、メディケア・アドバンテージの運営者は対象の会員に追加費用なしで出し、避妊アプリは体温の入力元として使う。目論見書が「追加費用なし」と書いているのは、真ん中の 1 つだけである。

残る 4 件は流通と研究である。Best Buy は米加 1,000 店舗超(米国人口の 70% が店舗から 10 マイル圏内に住む)、英国の John Lewis は全 34 店舗で「John Lewis によれば、同店で売れる指輪の 2 本に 1 本が Oura Ring」、Dexcom は処方箋なしで買える血糖センサー Stelo との連携、そしてシンガポール国立大学が研究の相手だ。

相手 始まり Oura にとっての意味
Amazon / Best Buy / Costco / Harrods / Target Best Buy は 2023 年 4 月〜(他社は記載なし) ハードウェア売上の約半分を運ぶ。最低購入量の定めは一般にない
John Hancock(生命保険) 2023 年 5 月 保険料の優遇と引き換えに、行動が続く仕組み
Essence Healthcare(メディケア・アドバンテージ) 2024 年 10 月 対象のメディケア・アドバンテージ会員に追加費用なしで提供。2025 年の利用率は対象プランで 25% 超
Natural Cycles(避妊アプリ) 2022 年 8 月 医療機器の入力装置になる。Oura Ring と併用する女性が 45 万人超
Dexcom(血糖センサー Stelo) 2024 年 11 月 血糖の波を、睡眠や食事と並べて見せる
米国防総省 (記載なし) 法人顧客。契約業者としてのサイバー要件が発生

買っているのが本人とは限らない。保険も、国も、顧客である。

問 5

どうやって稼いでいる?

一次ソース/S-1 から読み解く

MD&A(Core Principles of Our Financial Model、p.90〜) と Business(The Oura Platform、p.122〜) から読み解く

稼ぎ方は 2 階建てだ。指輪を売り、そのあと毎月もらう。

1 階は指輪である。Oura Ring 5 は 2026 年 6 月 4 日発売で、希望小売価格は 399 ドルから 499 ドル(約 6 万円〜7.5 万円)。直近 9 か月のハードウェア売上は全体の 約 80% を占める。

2 階が会員課金だ。米国では 月 5.99 ドル(約 900 円)、または 年 69.99 ドル(約 1 万 500 円)。9 か月の売上に占める割合は 約 20% だが、粗利率は 89% ある。

2 階に上がる率が高いのが、この会社の設計の要である。リングを使い始めた人の 94% 超が有料会員になる。30 日の無料期間を置き、そこで全機能を見せる。新規会員の 約 63% は最初から年払いを選んでいる。

つまり、指輪が売れた数と有料会員の数がほぼ同じ速さで増える。実際、有料会員は 2024 年 12 月末の 150 万人から 2026 年 6 月末の 500 万人へ。7 四半期連続で前年同期比 100% 超の伸びが続いた。

1 台あたりの単価は、下がっている

増えているものばかりではない。リング 1 台あたりの収益(RPU)は 2024 年度 332 ドル、2025 年度 326 ドル、直近 9 か月は 311 ドルと下がってきた。会社は理由を、チャネルの構成、世代の混在、提携の形、値引きと販売奨励の混合だと説明する。

新機種のほうは値上がりしている。Ring 3 は 299〜549 ドル、Ring 4 は 349〜499 ドル、Ring 5 は 399〜499 ドル。定価は上がり、実際に入る額は下がる。その差が、卸の比率が上がったことの値段である。

買い替えという、まだ小さい柱

もう 1 つ育っている数字がある。売れたリングのうち「すでに Oura を持っている人の買い替え」の比率は、2024 年度 5%、2025 年度 9%、直近 9 か月は 11% になった。2023 年度に入った会員層は、最初の 1 個から 30% 以上多くリングを買っている。

ただし、下取りも買い替え割引も、いまは制度として存在しないと明記されている。買い替えは、値引きなしで起きている。

薬と並ぶ画面

アプリの中身も、収益の説明の一部になっている。目論見書が載せた画面には、食事の写真から栄養を判定する機能、Dexcom の血糖センサーの波形、50 を超える血液検査を 99 ドル(約 1.5 万円)で受けられる案内、そして GLP-1 の投与を記録する画面がある。別の画面には、服用中の薬を登録する欄もある。

薬の側からも線が引かれている。目論見書は、イーライリリーのデジタル基盤 LillyDirect を「治療につなぐ提携先」として挙げる。金額の側は、注記にある。2026 年 6 月に「適格投資家」と 5,000 万ドル(約 75 億円)の SAFE を結んだ、と。そして別の節に、2026 年 7 月にイーライリリー本体へ SAFE を発行した、とある(こちらに金額の記載はない)。上場の直前に、普通株へ変わる。

区分 2024 年度 2025 年度 直近 9 か月
売上(合計) $406.8M $907.9M $1,214.5M
うちハードウェア 81% 83% 80%
うち会員課金 19% 17% 20%
売れたリング 100 万個 230 万個 310 万個
有料会員(期末) 130 万人 290 万人 500 万人
1 台あたりの収益 $332 $326 $311

定価は上がり、1 台から入る額は下がっている。

問 6

数字は健全か?

一次ソース/S-1 から読み解く

MD&A(Results of Operations、p.97〜) と MD&A(Liquidity and Capital Resources、p.109〜)と連結財務諸表の注記(F-1〜) から読み解く

数字を見ると、4 つの違和感がある。順に種明かしをしていく。

表面はきれいだ。売上は 2024 年度の 4 億 700 万ドルから、直近 9 か月で 12 億ドル超へ。粗利率は直近 9 か月で、前年同期の 51% から 55% へ上がった。営業活動で入ってくる現金は 9 か月で 3 億 2,800 万ドル(約 492 億円)ある。

違和感 1: 2025 年度の純利益は、1 万 2,000 ドルだった

2025 年 9 月期の税引前利益は 2,357 万ドル。そこから法人税を 2,356 万ドル引くと、残った純利益は 1 万 2,000 ドルである。9 億ドル超を売り上げた 1 年の最終利益が、日本円で 180 万円ほどしかない。

実効税率は 99.9%。理由は同じ節に書いてある。繰延税金資産への評価性引当だ。平たく言えば、将来の黒字と相殺できるはずだった税務上の資産を、いまは使えないものとして落とした。

注記は、消極的な証拠として直近 3 年を含む世界全体での累積赤字の履歴を挙げ、積極的な証拠として将来の課税所得の見積りを挙げたうえで、消極的な証拠のほうを重く見た、と書いている。黒字になったばかりの会社が、過去の赤字を理由に、税の資産を評価し直した年だった。

違和感 2: 売上が 74% 増えたのに、利幅は薄くなった

会社が本業の実力として示す指標(Adjusted EBITDA)は、直近 9 か月で 1 億 670 万ドル(約 160 億円)。前年同期の 8,350 万ドルより増えている。

ところが売上に対する比率は、前年同期の 12% から 9% へ下がった。売上が 74% 増えて、利幅が 3 ポイント薄くなったということだ。

目論見書は、この比率の低下そのものについては理由を書いていない。数字を並べると、粗利率のほうはむしろ 51% から 55% へ上がっている。差が出たのは営業費用で、売上が 74% 増える間に、営業費用は 2 億 9,576 万ドルから 5 億 9,098 万ドルへ 100% 増えた。

粗利率については、会社が自分から書いていることがもう 1 つある。直近 9 か月と前年同期の粗利率は、Oura Ring 4 の一部の個体で電池の不具合が出たことにともなう保証引当の増加の影響を受けた、と。

なお年度で切ると、粗利率は 2024 年度 65% から 2025 年度 52% へ 13 ポイント下がっている。同じ会社の利幅が、切り取る期間によって上がりも下がりもする。

違和感 3: 黒字の会社が、銀行から 563 億円を引き出した

直近 9 か月、財務活動で出ていった現金は 7 億 4,180 万ドル(約 1,113 億円)。前年同期は 4,450 万ドルだった。1 年で 16 倍以上に膨らんでいる。

同じ期間に、会社は借入枠から 3 億 7,500 万ドル(約 563 億円)を引き出した。枠自体も 2026 年 1 月 23 日に 2 億 5,000 万ドルから 5 億ドルへ、6 月 4 日に 5 億 2,500 万ドルへと、半年で 2 度広げている。

使い道は書いてある。「主として、当社の普通株および償還可能転換優先株の買い戻しに充て、そのほかは一般的な事業目的に充てた」。黒字で、営業から現金が入ってくる会社が、自分の株を買うために借りたということだ。

違和感 4: 黒字なのに、1 株あたりは 89.53 ドルの赤字

そして損益計算書の最後の行で、数字が反転する。純利益は 6,080 万ドルの黒字。その下に「償還可能転換優先株の保有者へのみなし配当」として 9 億 8,500 万ドルが引かれ、普通株主に帰属する損益は 9 億 2,430 万ドルの赤字になる。1 株あたり 89.53 ドルの赤字だ。

種明かし ── 買い戻しの値段と、帳簿の値段の差

仕掛けは単純である。会社が優先株を買い戻すとき、支払った額が帳簿に載っていた額を上回れば、その差額は「優先株主に余分に渡した分」として扱われる。会計はこれを配当とみなし、普通株主の取り分から引く。

直近 9 か月、会社は優先株を 2,793 万株、10 億 9,190 万ドルで買い戻した(この明細は、売主に代わって払ったフィンランドの資本移転税 140 万ドルを含まない)。落とした帳簿価額は 1 億 830 万ドル。差額の 9 億 8,500 万ドルのうち、9 億 7,950 万ドルは累積赤字の増加として処理された。

黒字 61 百万ドルが、普通株主の帳簿では 924 百万ドルの赤字になる。
2025 年 10 月〜2026 年 6 月の 9 か月
Oura の 9 か月の純利益プラス 6,080 万ドルから、優先株主へのみなし配当 9 億 8,500 万ドルを差し引き、普通株主に帰属する損益が 9 億 2,430 万ドルの赤字になる流れを示した図

現金は本当に出ている。普通株の買い戻しは別に 7,950 万ドルある。そしてキャッシュ・フロー計算書の財務活動には、普通株と優先株の買い戻しとして 11 億 7,290 万ドル(約 1,759 億円)の 1 行が立っている。同じ 9 か月の売上 12 億 1,450 万ドルの 96.6% にあたる。

項目 2024 年度 2025 年度 直近 9 か月
売上 $406.8M $907.9M $1,214.5M
営業利益 $13.4M $45.3M $71.2M
純利益 $3.6M $0.012M $60.8M
優先株主へのみなし配当 −$12.2M −$186.1M −$985.0M
普通株主に帰属する損益 −$8.6M −$186.1M −$924.3M
1 株あたり損益 −$0.59 −$17.07 −$89.53
加重平均株式数 14,398,386 10,901,942 10,323,194
営業活動の現金 $28.2M $121.7M $328.0M
財務活動の現金 −$41.7M $653.9M −$741.8M

現金は本当に出ている。減ったのは、株の数のほうだ。

問 7

誰が動かしている?

一次ソース/S-1 から読み解く

Management(p.176〜)と Executive and Director Compensation(p.184〜) と Business(Legal Proceedings、p.173〜) から読み解く

この目論見書には、創業者の名前が 1 つも出てこない。

役員、取締役、取締役候補として名前と年齢が並ぶのは 12 人。誰の経歴にも「Oura の創業者」という記述がない。「創業者」「共同創業者」という言葉は何度も出てくる。ただし、そのどれもが Lateralus Holdings、Utomic、Wolt といった よその会社についての説明だ。Lifeline Ventures の「創業パートナー」を数えても、結論は変わらない。

創業期の人間が現れる場所は、この 300 ページを超える書類にただ 1 か所ある。財務諸表が終わった直後、裏表紙の手前のページに、屋外で撮った十数人の集合写真が置かれている。添えられた文字は 「The Oura Team, 2015」の一行だけ。名前は 1 人ぶんも書かれていない。

いま指揮しているのは、消費者向けソフトの人たち

CEO の Thomas Hale(57 歳)は 2022 年 3 月に就任した。経歴は Adobe、Linden Lab、旅行サイトの HomeAway、アンケートの SurveyMonkey(後の Momentive AI)。ヘルスケアではなく、消費者向けソフトウェアを作ってきた人である。

CFO の Sean Brecker(51 歳)は、瞑想アプリ Headspace の CEO と CFO を務めた。目論見書が載せたアプリ画面には、その Headspace が提供する瞑想コンテンツが並んでいる。

COO の Michael Chapp(48 歳)は 2019 年からいて、2021 年 12 月から 2022 年 4 月まで暫定 CEO を務めた。

会長の David Shuman(57 歳)は 2016 年から取締役、2025 年 9 月から会長、そして S-1 提出の同じ月に Executive Chairman になった。Goldman Sachs の投資銀行部門出身で、その後 10 年以上を公開市場の投資家として過ごした人物だ。

特許 1,140 件の会社で、発明への報奨金は 1,829 ドル

報酬の表には、思わず二度見する行がある。2025 年 9 月期、COO の Michael Chapp が受け取った賞与の欄に 1,829 ドル(約 27 万円)とある。注記にはこう書かれている。「当社の特許 1 件への貢献に対する、1 回限りの現金による発明報奨金」。

同じ会社が、問 2 で見たとおり 1,140 件を超える特許と出願を持つ。1 件あたり 1,829 ドルという単価ではなく、この 1 件に対してこの額が支払われた、という記録である。

同じ表で、CEO Thomas Hale の 2025 年 9 月期の給与は 55 万ドル(約 8,250 万円)、業績連動を足した合計は 104 万 5,952 ドル。この年、報酬表の株式報酬の欄は、CEO も CFO も空欄である。

前の CEO が、会社と CFO と取締役を訴えている

Legal Proceedings の節に、前 CEO の Harpreet Singh Rai の名前が 2 回出てくる。

1 件目は 2025 年 11 月 7 日。2021 年 12 月の退任にあたっての株式報酬をめぐる訴えである。2 件目は 2026 年 5 月 29 日、デラウェア連邦地裁。相手は 会社と、CFO と、一部の取締役だ。争点は、Rai が 2024 年 9 月に結んだ株式の買い戻し契約である。

主張されている中身は重い。equitable fraud、州および連邦の証券詐欺、忠実義務違反とその幇助、過失による不実表示。求めているのは 契約の取り消しと、原状回復などだ。会社は「いずれも根拠がなく、断固として争う」と書いている。

補助線を 1 本引いておく。この訴えの対象は 2024 年 9 月の買い戻しであり、問 6 と問 8 で見る 1,759 億円の買い戻しは、その 1 年後に行われた。

株式報酬をめぐる訴えは、ほかに 3 件

同じ節には、アドバイザーやマーケティングの見返りとして株を約束されたと主張する訴えが 3 件並ぶ。原告の 1 人は Peter Attia である。2023 年 7 月に提訴し、陪審審理は 2026 年 8 月 31 日に予定されていると記載されている。

もう 1 つ、金の流れの話がある。子会社が CFO の Sean Brecker に、2025 年 12 月に 250 万ドル、2026 年 3 月と 4 月に 50 万ドルずつを貸した。取締役会が決めた枠は 500 万ドル。3 本は 2026 年 7 月 8 日に全額返済され、消滅している。S-1 提出の 2 か月前だ。

創業者の名前がない書類で、前の CEO だけが訴訟として登場する。

問 8

誰が握っている?

一次ソース/S-1 から読み解く

Description of Capital Stock(p.209〜)と Principal and Selling Stockholders(p.203〜) と MD&A(Capital Allocation、p.111〜) から読み解く

議決権の仕掛けはない。代わりに、株の数そのものが動いている。

まず、意外な事実から。上場が完了した時点で、Oura の株は 1 種類になる。1 株 1 票。創業者が 10 倍や 20 倍の議決権を握るデュアルクラスではない。いま存在している優先株は、上場の直前にすべて普通株へ転換される。理由は書かれていないが、問 7 で見たとおり、議決権を集中させるべき創業者がそもそもいない。

代わりに置かれるのは、組織の仕掛けだ。上場と同時に発効する定款で、取締役会は 3 つに分けられ、任期は 3 年で順にずれることになる。1 年で全員を入れ替えることはできない。加えて取締役会は、株主の承認なしに新しい種類の優先株を設計して発行できるようになる。

5% を超えて持っているのは、4 つ

名前が挙がる大株主は 4 つある。FMR LLC の子会社が運用・助言するファンド群、消費者領域を得意とする Forerunner Ventures、Bedford Ridge Investment Company I LP(BRIC I)、そしてフィンランドの Lifeline Ventures。

ただし、それぞれが何 % を持つのかは すべて空欄である。初版の S-1 では、売り出す株数も公募価格も決まっていない。株数も比率も、値決め後の訂正版で埋まる。

買い戻しの値段には、階段がある

ここからが本題だ。会社が過去 2 年に自分の株を買い戻した値段を、時系列に並べると階段になる。

2025 年 9 月期、普通株の買い戻しは 1 株 9.77 ドルから 17.98 ドルの幅にあった。直近 9 か月は、優先株と普通株を合わせて 17.71 ドルから 56.12 ドル(普通株だけなら 25.81 ドルから 56.12 ドル)。上限どうしで比べても、1 年で 3 倍を超えている。

自分の株を買い戻した値段は、上限どうしで比べても 1 年で 3 倍を超えた。
1 株あたりの買い戻し価格と、新しく売った株の値段
Oura が自社株を買い戻した 1 株あたりの価格の推移。2025 年 9 月期は 9.77 ドルから 17.98 ドル、直近 9 か月は 17.71 ドルから 56.12 ドルで、2025 年 9 月にシリーズ E を売った 53.57 ドルの水準線を示した棒グラフ

その階段の最初の 1 段が、1 株 17.71 ドルである。2025 年 9 月、会社は投資銀行 2 社と先渡しの契約を結び、優先株主から 543 万 8,236 株を買い戻す取り決めをした。2026 年 1 月 9 日に現物で決済し、支払総額は 9,640 万ドルだった。

同じ月に、1 株 53.57 ドルで新しい株が売られた

その 2025 年 9 月に、会社はもう 1 つ別の取引をしている。FMR 系のファンドに対し、シリーズ E の優先株を 1 株 53.57 ドルで、約 6 億 2,960 万ドル(約 944 億円)分売った。同じ月のシリーズ E 全体の調達額は約 9 億 800 万ドルで、その大半を FMR 系が占めている。

同じ月に、片側では 1 株 53.57 ドルで新しい株を売り、もう片側では 1 株 17.71 ドルで既存の株を買い戻す取り決めをした、ということになる。買い戻しの対象はシリーズ C と C-1 で、新しく売ったシリーズ E とは別の種類だ。目論見書は、この 2 つを別々の節に、別々の文脈で記載しており、値段の差についての説明はない。

いちばん大きな 1 段は、その 4 か月後にある。2026 年 2 月 19 日、会社は公開買付け(テンダーオファー)の形で、優先株 1,329 万 5,528 株を 1 株 40.18 ドル、総額 5 億 3,420 万ドルで買い戻した。取締役 Eurie Kim が籍を置く Forerunner Ventures からのシリーズ B 161 万 7,721 株・6,500 万ドル(約 98 億円。源泉徴収の見込み分を除く)も、この同じ 1 株 40.18 ドルでの買い戻しである。

1 株あたりの計算に使う株数が、2 年で 3 割近く減った

買い戻された株は、そのまま消却される。結果、1 株あたりの計算に使う加重平均の株式数は、2024 年度 1,439 万株、2025 年度 1,090 万株、直近 9 か月 1,032 万株と減り続けた。2 年で 3 割近く減っている。

会社はこれを狙ってやっている、と自ら書いている。資本配分の節の書き出しが、それだ。

我々は、利益ある成長、規律ある資本配分、慎重なバランスシート運営、そして希薄化への細心の注意によって、1 株あたりの長期的な価値を複利で増やすように事業を運営している。

“We manage the business to compound long-term value per share through profitable growth, disciplined capital allocation, prudent balance-sheet management, and careful attention to dilution.”

OURA S-1 (SEP 2026) — MD&A, CAPITAL ALLOCATION

そして成果として、こう提示する。この 2 年で、直近に発行した優先株の 1 株価格は 14.87 ドルから 53.57 ドルへ 260% 上がったが、含意される企業価値の伸びは 30.65 億ドルから 96.56 億ドルへの 215% だった。1 株の値段の伸びが、会社全体の値段の伸びを上回った。

会長の株の一部は、本人の借金の担保に入っている

大株主の注記には、もう 2 つ書かれていることがある。

1 つは、Executive Chairman である David Shuman の保有株だ。本人と近親者のための家族信託を通じて 2 つの持株会社が保有し、そのうち一定数が Shuman 個人の借入の担保として質入れされている。株数は空欄である。

もう 1 つは、同じ注記の後半にある。Shuman の家族信託が唯一の社員である会社が、大株主 BRIC I の 無限責任組合員に本来配分されるはずの成功報酬と管理報酬の 50% を受け取る権利を持つ。ただし BRIC I が持つ株について、Shuman は議決権も投資権限も持たないと書き添えられている。

時期 買い戻した相手・種類 1 株の値段
2025 年 9 月期 普通株 $9.77 / $10.26 / $16.70 / $16.90 / $17.71 / $17.98
2025 年 9 月に締結、2026 年に決済 優先株(投資銀行 2 社を経由) $17.71
2026 年 2 月 19 日 優先株・公開買付け(テンダーオファー) $40.18
2026 年 2 月 Forerunner Ventures のシリーズ B $40.18
直近 9 か月(上記の先渡し決済を除く) 優先株・普通株(各種) $25.81 〜 $56.12
(参考)2025 年 9 月 FMR へのシリーズ E 発行 $53.57

議決権ではなく、株の数を減らすことで価値を寄せている。

問 9

何を恐れている?

一次ソース/S-1 から読み解く

Risk Factors(p.21〜) と Business(Legal Proceedings、p.173〜) から読み解く

会社が自分で書いている「いちばん心配なこと」を 7 つに整理する。

1. 睡眠計測の精度に関する広告が、虚偽だと訴えられている

本記事は、これを最も重い記述として読む。目論見書の 2 ページ目に、会社は「睡眠の精度 約 96%」と書く。同じ書類の 57 ページに、こう書いてある。

例えば 2026 年 8 月、当社が睡眠計測技術の精度について虚偽の広告をしているとする集団訴訟が提起された。

“For example, in August 2026, a class action was filed against us alleging that we falsely advertise the accuracy of our sleep-tracking technology.”

OURA S-1 (SEP 2026) — RISK FACTORS

会社は続けて、こうした主張が「当社の指標の精度に対する会員と消費者の信頼を損ないうる」と書く。精度は問 1 で見たとおり、購入者の 87% が重要な理由の 1 つに挙げた要素であり、この会社の商品そのものである。

背景として、米国の連邦取引委員会(FTC)には、客観的な効果をうたう広告に対して「主張した時点で合理的な裏づけを持っていなければならない」という原則がある。ヘルスケア関連の主張には、一般により高い水準が求められる。

2. Samsung が、輸入差止めを求めて申立てている

2025 年 12 月 12 日、Samsung の 2 社が ITC に申立てを行った。特許 4 件の侵害を主張し、そのうちにはソフトウェアと プリント基板の設計に関するものが含まれる。求める救済には、一部の Oura Ring 製品の輸入制限が含まれうる。

Oura は自社で工場を持たず、製造はすべて社外の受託先に頼っている。しかもその供給網は「北欧とアジア」に集中している、と書かれている。輸入が止まる救済が認められた場合に何が起きるかは、想像しやすい。

別に、Omni MedSci が 2025 年 12 月 20 日、テキサス東部地区連邦地裁で 約 1 億 2,000 万ドル(約 180 億円)の損害賠償を求めている。会社はどちらの請求についても「根拠がなく、断固として争う」と書いている。

3. 国防総省は、新規契約に 10 月末までの対応を見込んでいる

売り先のリストに、米国防総省がある。そのため会社は「管理された非機密情報」を守る契約上の義務を負い、NIST SP 800-171 という基準に従う必要がある。

その上に、CMMC という新しい認証制度が乗る。目論見書はこう書く。「国防総省は、ほぼすべての新規契約が 2026 年 10 月 31 日までに CMMC への準拠を求められると見込んでいる」。そして会社の現状は「準備状況を評価し、CMMC の要件に向けた準備を進めている最中」である。

4. ハードウェア売上の半分を運ぶ相手に、買う義務がない

問 4 で見たとおり、直近 9 か月のハードウェア売上の 約 49% は小売チャネルを通る。相手は Amazon、Best Buy、Target ら少数の大手で、契約は一般に、最低購入量を定めていない。会社は「今後この依存はさらに強まると見込む」とも書いている。

5. 工場を持たず、一部の部品は 1 社からしか買えない

「当社は製造施設を所有も運営もしていない」。部品の多くは 2 社以上から調達しているが、一部は単一の供給元に依存する。関税と通商摩擦も、独立したリスクとして挙げられている。

6. 医療機器かどうかの線引きが、国ごとに違う

一部の製品と機能は「一般的なウェルネス製品」として、米国 FDA の医療機器規制の外にある前提で売られている。ただし妊娠しやすい時期を示す機能は、一部の国ですでに医療機器として規制されている。

欧州では、妊娠しやすい時期を示す機能はすでに、自己認証によるクラス I の医療機器ソフトウェアとして登録されている。それでも線引きは読みにくい。生活や幸福のためのソフトウェアを除外する規定はあるが、どこまでが対象かは 加盟国ごとの当局が個別に判断する。判定が変われば、適合性評価や市販後調査の義務が一気に増える。

7. ロックアップに縛られない株主がいる、と会社が書いている

最後の 1 つは、上場のしくみそのものに関する自己開示である。

会社は「当社には多数の株主がおり、長期間にわたって、さまざまな契約のもとで持分を取得してきた」と前置きしたうえで、こう考えていると書く。名義上の株主ではない実質的な持分の保有者は、売却制限の契約に縛られていない場合があり、取引を行いうる、と。

そして「そうした取引、あるいはそうした取引が起きるという市場の見方は、当社の株価を押し下げうる」と続ける。ロックアップの日数そのものは、この初版 S-1 では空欄のままだ。

精度、特許、期限、売り場、部品、規制、そして株主の売り。

問 10

集めた金は、何になる?

一次ソース/S-1 から読み解く

Use of Proceeds(p.80〜)と Capitalization(p.82〜) と Underwriting(p.228〜) から読み解く

※ 本記事は S-1 に書かれた事実のみに基づく。実際の IPO 価格、上場日、上場後の株価動向、需給は S-1 には書かれておらず、本記事の対象外。

使い道について、会社は「決まっていない」と書いている。

この S-1 は初版で、株数も価格レンジも調達額も空欄だ。それでも使い道の節は書かれている。そこにあるのは、次の 1 文である。

「相当部分について、具体的な計画はない」

原文はこうだ。「本目論見書の日付時点で、調達資金の相当部分について具体的な計画はない」。続けて「一般的な事業目的、たとえば技術開発、運転資金、営業費用、設備投資などに充てる」と書き、最後に「調達資金の使い道について、会社は広範な裁量を持つ」と締める。

金額が特定されている使途は 1 つだけある。上場に伴って権利が確定する譲渡制限付株式(RSU)について、会社が納める源泉徴収と納付のための資金だ。ただし、その金額も空欄である。名指しされた使途はもう 1 つあって、事業を補完する製品・技術・企業の買収や投資に一部を充てることがある、と書かれている。ただし現時点で重要な買収や投資の合意はない、と続く。

ここで 1 つ、書かれていないことに気づく。問 6 で見た借入である。買い戻しのために引き出した 3 億 7,500 万ドルのうち、2026 年 8 月 13 日に 2,500 万ドルを返し、残高は 3 億 5,000 万ドル(約 525 億円)ある。この返済は、使い道の候補として挙がっていない。逆に、上場そのものが枠を広げる。6 月の契約変更で、上場の完了と一定の条件を満たすことを条件に、2 億 4,500 万ドルの追加コミットメントが使えるようになると書かれている。

会社が売る株と、株主が売る株

この上場では、会社が新しく発行する株と、既存の株主が持っている株の両方が売り出される。会社は後者の代金を 1 ドルも受け取らない。

引受人が追加で買える枠(オーバーアロットメント)も、既存株主の持ち株が対象である。会社の増資枠ではない。行使されれば、そのぶん既存株主の現金化が進む。

引受人 18 社と、その中の 1 社

表紙に並ぶ引受人は 18 社ある。Goldman Sachs を筆頭に、Morgan Stanley、J.P. Morgan、Allen & Company、Jefferies と続き、末尾に Robinhood Securities の名前がある。なお、ロックアップの解除を判断するのは、引受人の代表である Goldman Sachs 1 社だ。

同じ書類の取締役候補の欄に、Jason Warnick の名前がある。2018 年から 2026 年まで Robinhood Markets の CFO を務め、2026 年は同社の戦略顧問だった人物だ。上場後、Oura の取締役に就任する予定になっている。

加えて、従業員と経営陣が指定した個人・法人に公募価格で株を回す枠(Directed Share Program)も設けられている。割合は空欄だ。

中継ぎ地点 ── この上場は、何のための調達なのか

普通の上場は「集めた金で事業を加速する」ためのものだ。Oura の場合、営業活動から 9 か月で 3 億 2,800 万ドルの現金が入ってきており、その使い道の節には具体的な計画が書かれていない。

目論見書が挙げる目的は 3 つある。資本と財務の柔軟性を高めること、株式の公開市場を作ること、そして「当社と当社の株主のために公開の株式市場へのアクセスを可能にすること」。

3 つ目に、株主が並んでいる。この会社は直近 9 か月だけで 1,759 億円ぶんの株を買い戻し、その原資に FMR 系ファンドの出資と銀行の借入を充ててきた。今回の上場では、会社の新株と既存株主の持ち株が同時に売り出される。株主が現金に換える場が、非公開の買い戻しから公開市場へ移る、とも読める。

項目 内容
上場先 Nasdaq Global Select Market(ティッカー: OURA)
売り出す株数・価格レンジ 未確定(初版 S-1 では空欄)
売り出しの主体 会社と、既存株主の両方
追加購入枠(オーバーアロットメント) 既存株主の持ち株が対象。30 日間
使途(明示) 一般的な事業目的。相当部分は具体的計画なし
引受人 18 社。筆頭は Goldman Sachs、末尾に Robinhood Securities
ロックアップ 日数は空欄。解除の判断は Goldman Sachs
借入枠(RCF)の残高 3.5 億ドル。返済は使途に挙がっていない

集める理由は書いてある。使う理由は、まだ書かれていない。

おわりに

10 の問いの先に

Oura が売っているのは、指輪だけではない。500 万人がほぼ 1 日中はめ続け、418 億時間ぶんのデータが貯まり、そのデータが次の機能を生む。会員の 72% が女性で、半数超が持病があると答え、米国の会員の 15% が医療従事者である。ある生命保険会社は割引価格で買わせて Vitality の等級が上がると保険料を優遇し、あるメディケア・アドバンテージのプランは対象の会員に追加費用なしの給付として出し、避妊アプリは体温の入力装置として使う。指にはめる機械が、いつのまにか制度の部品になりつつある。

だが、同じ書類のもう半分は、株の話でできている。直近 9 か月の売上 1,822 億円に対し、自分の株の買い戻しに 1,759 億円。売上の 96.6% である。銀行の借入枠からは 563 億円を引き出し、その残高 525 億円は、上場で集めた金の使い道の候補に挙がっていない。会計はこのうち優先株の買い戻し価格と帳簿価額の差額 1,478 億円を「優先株主へのみなし配当」として扱い、91 億円の黒字は、普通株主の帳簿では 1,386 億円の赤字に反転する。

そして目論見書には、創業者の名前が 1 つも出てこない。唯一の痕跡は「The Oura Team, 2015」という一行が添えられた、名前のない集合写真だ。代わりに登場するのは、前の CEO が会社と CFO と一部の取締役を証券詐欺で訴えているという記述である。争点は、彼が 2024 年 9 月に結んだ株の買い戻し契約だ。数える人と、測られる人。この会社は両方を、同じ 1 冊で市場に差し出している。

LIGHT

光

・有料会員 500 万人、12 か月リテンション 約 85%・直近 9 か月の売上 1,822 億円(+74%)、純利益は黒字・装着時間の中央値 1 日 約 23 時間、DAU/MAU 約 65%・特許・出願 1,140 件超、社内に博士 50 人超と医師 5 人・生保・高齢者保険・避妊アプリが、自分の商品に組み込んでいる

SHADOW

影

・9 か月の買い戻し 1,759 億円は、同期間の売上 1,822 億円の 96.6%・普通株主に帰属する損益はマイナス、1 株 −89.53 ドル・睡眠計測技術の精度に関する広告が虚偽だという集団訴訟・Samsung が ITC に申立て、一部製品の輸入制限を含みうる救済を請求・創業者の名前がなく、前 CEO が証券詐欺で提訴

目論見書は「人々がより健やかに、より長く生きられるように」と書く。市場は「予防医療の入口を押さえた会社」を期待する。会計は「普通株主に帰属する損益は 1 株 89.53 ドルの赤字」と書く。3 つの交点で、Oura は株を売る。値段が決まるのは、これからだ。

「いい会社」か「イマイチの会社」か、
その判断は、ここまで読んだあなたの手の中にある。

出典:すべての事実は Oura Inc. の S-1(accession 0001193125-26-381855、2026-09-03 提出)から抽出。円換算は 1 ドル = 約 150 円(draft_date 2026-09-04 時点)の概算。

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