S-1 ジャーナル
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決算で本当に動いたのは、売上の行ではなかった

2026年8月7日|2026年 第2四半期決算(8月5日発表) × S-1・10-Q

Figmaが8月5日の引け後に、2026年第2四半期(4月から6月)の決算を出した。見出しは売上である。3億7,008万ドル、日本円でおよそ537億円。前年同期比48%増で、前年同期比の伸び率は3四半期続けて上がっている。

ただ、今回の決算書で目を引くのは、売上の行ではない。**費用の行である。売上原価が、前の四半期より減った。6,867万ドルから6,047万ドルへ、金額そのものが1割以上落ちている。同じ四半期に、売上は11%増えているにもかかわらず、だ。**

普通は逆になる。売れれば売れるほど、それを届けるための費用も増える。しかもこの会社は1年前、その費用がこれから重くなる、と自分で予告していた。

売上原価が減ったこと自体は、これが最初ではない。去年の10月から12月にも、8,388万ドルから5,430万ドルへ、もっと大きく減っている。ただしあれは、上場のときに一括計上した株式報酬が抜けていった四半期だった。今回は、その株式報酬を除いても減っている。そこが違う。

なぜそれが起きたのか。答えは決算の見出しではなく、上場のときにSECへ出した登録届出書(S-1。投資家に配られる目論見書を含む提出書類)と、今回の四半期報告書(10-Q)を並べたところにある。

費用が着弾したのは、今回ではなく1つ前の四半期だった

まず、S-1が何を予告していたかを確認しておく。2025年7月の上場時、FigmaはAIについてこう書いていた。短期的には、AIへの投資とAI技術の利用が粗利率と営業利益率を押し下げると見込んでいる。そして、より長期の影響については現時点では分からない、と。

粗利率については、そのとおりになった。ただし、いつなったのかが、決算の見出しを追うだけでは見えない場所にある。

四半期を並べると分かる。会計上の粗利率は、上場した2025年7月から9月の四半期が69%、10月から12月が82%、2026年1月から3月が79%、そして今回の4月から6月が84%である。上場した四半期の69%は株式報酬の一括計上で沈んだ数字なので、比べる相手にならない。**問題は、その次だ。10月から12月の82%から、1月から3月は79%へ下がっている。そして今回、会計上の粗利率では下がった分を戻した。**なお、この段差の中身について、10-Qに前の四半期と比べた内訳は載っていない。

つまり10月から12月以降の並びで粗利率が落ちたのは、今回ではなく、その1つ前の1月から3月である。今回は、その下がった分を会計上は戻した四半期だ。

Figma の四半期実績。会計上の粗利率は69%→82%→79%→84%、4項目を除いた粗利率は86%→86%→82%→85%

株式報酬のせいではない、と会社の数字が言っている

ここで当然の疑いが出る。上場した会社の費用は、株式報酬という会計上の費用で膨らんだり縮んだりする。1月から3月がへこんで4月から6月が持ち直したのは、単にその株式報酬が抜けただけではないのか。

会社自身が出している数字が、その疑いを否定している。Figmaは毎四半期、売上原価の中に入っている株式報酬、資産に計上したソフトウェアに含まれる株式報酬の償却、買収した無形資産の償却、そして株式報酬にかかる雇用者側の給与税を除いた粗利率を、決算リリースの中で開示している。その除いたあとの粗利率は、10月から12月が86%、1月から3月が82%、今回が85%である。**これらを除いたあとでも、1月から3月は4ポイント落ちている。**

さらに言えば、売上原価に入っている株式報酬は、この1年ずっと減り続けていた。上場した四半期の4,299万ドルから、777万ドル、508万ドル、そして今回は204万ドルである。1月から3月の売上原価が前の四半期より1,436万ドル増えたのは、株式報酬が269万ドル減ったうえでの増加だった。会計の都合で膨らんだのではない。株式報酬などの会計項目を除いた費用が増えたのである。

その実費用の側で見ると、段差の大きさが分かる。決算リリースが出している売上と、いま挙げた4項目を除いた粗利との差を取ると、除いたあとの売上原価が出る。10月から12月の4,198万ドルから、1月から3月は5,888万ドルへ、40%増えた。同じ四半期の売上の伸びは10%足らずである。売れた分では説明がつかない。そして今回、その額は5,608万ドルへ、金額そのものが減った。**上場してからの四半期では、この除いたあとの売上原価が前の四半期より減ったのは、今回が初めてである。**

なお、買収した無形資産の償却は1月から3月の389万ドルから今回191万ドルへ減っているが、これは会社が上の粗利率を出すときに売上原価から元から取り除いている項目なので、5,608万ドルとは別の勘定である。では5,608万ドルが減った理由は何か。10-Qには前の四半期と比べた内訳が載っていないので、これをAIの効率化と断定することはできない。分かるのは、10-Qが前年同期比の費用増の理由として名指しする最大の項目がAIと利用増によるインフラ費であること、決済手数料は有料顧客の増加とともに増える側であること、そのうえで除いたあとの売上原価が絶対額で減ったこと、この3つである。

売上原価の内訳。株式報酬は43.0→7.8→5.1→2.0百万ドルと減り続け、1-3月の段差は「それ以外」が13.8%→17.7%に上がったことによる

10-Qが、3か月前と同じ段落に1文だけ足した

そしてもう一つ、数字ではないところが変わっている。

10-Qには、費用の説明として「AIと関連費用」という段落がある。今回の10-Qのその段落を、3か月前の10-Qの同じ段落と1文ずつ突き合わせると、削られた文はなく、書き換えられた文もなく、**1文だけが足されている**。逐語ではこうだ。

These costs may also fluctuate from period to period as we implement operational and platform changes intended to manage usage and optimize the efficiency of our AI-related spend.

これらの費用は、利用の管理とAI関連支出の効率の最適化を意図した運用・プラットフォーム上の変更を実施するにつれ、期ごとに変動しうる、という意味である。この文は、上場時のS-1にも、その2度の修正版にも、値決め後の最終目論見書にも、上場後に出した4本の報告書(2025年4-6月期と7-9月期の10-Q、2025年通期の10-K、2026年1-3月期の10-Q)にも入っていない。今回が初出である。

費用が絶対額で減った四半期に、AI関連支出の効率の最適化を意図した変更を実施していると、会社が書き足した。並べて置くと、そういう四半期だった。

ただし、会社が費用の増加そのものを取り下げたわけではない。同じ10-Qの、この段落のすぐ次にある売上原価の説明のうち、見通しを述べた一文は、S-1のときから一字も変わっていない。事業の成長にともなって売上原価は絶対額では増えると見込んでいる、という一文である。

戻りきってもいない。上に挙げた4項目を除いた粗利率は、今回の85%に対して、上場直後の2四半期、つまり去年の7月から9月も10月から12月も86%である。去年後半に出していたこの水準に、まだ1ポイント届いていない。

なお、売上が48%伸びた理由をAIに結びつけるのは、10-Q自身がしていない。10-Qが売上増の理由として挙げているのは有料顧客の増加で、年1万ドル超の契約額がある有料顧客が34%増えて15,964、年10万ドル超が46%増えて1,635である。AIが理由として出てくるのは費用の側の説明だ。今回が「AIクレジット課金の最初のフル四半期」だと最高財務責任者が述べてはいるが、それと売上の伸びの理由は、10-Qの説明の上では別の場所に置かれている。前四半期比で並べると逆を向く指標もある。1年前の時点で年1万ドル超の契約額があった既存顧客の年間契約額が1年でどう動いたかを、増加も減少も解約も含めて示すNDRは、1月から3月の139%から、今回は136%へ下がった。

予告した本人が、費用の効率を語り始めています

決算の見出しだけを追うと、この四半期は「売上48%増、3四半期連続で加速」で終わります。ですが上場のときの一文まで戻ると、見え方が変わります。粗利率を押し下げると予告した会社が、その支出の効率の最適化を意図した変更を実施していると、初めて書類に書き足した四半期だったからです。止め方まで語ったわけではありません。それでも、予告と、その効率への言及と、実際に減った費用が、同じ四半期に並びました。

S-1ジャーナルでは、Figmaを上場時の届出書から「10の問い」に分けて読み解いています。既存顧客の中で売上を伸ばす仕組み、第三者のAIへの依存、創業者支配の構造まで、続きはこちらでどうぞ。

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本記事のS-1側の数値はFigmaの提出書類(S-1/S-1A)に、上場後の数値は会社の公式発表(2025年第3四半期から2026年第2四半期の各決算リリース、10-Q および 10-K)に基づきます。円換算は1ドル145円。上場後の株価は本稿の対象外であり、特定銘柄の売買を勧めるものではありません。

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